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再交渉

 今日もダンジョンのエントランスには冒険者達が集う。ある者は富の為、ある者は名声の為、そしてある物は仲間を探す為に…


 ダンジョンの入り口を囲うエントランスの一角に、鳥の様にも獣の様にも見える奇妙な仮面を被った、全身黒い出立ちの男が壁にもたれ掛かる様に座っていた。その場所は男の定位置であり、アレストスの冒険者達にとってある種のお馴染みの光景になっていた。

 仮面の男ロキは、目を閉じて周囲の雑踏に耳を傾けていた。彼の仕事の大半は待つ事であり、自身の力を求める依頼主の足音が近付くのを静かに待っていた。

 そしてどれ程の時間が経った頃だろうか、雑踏の中に真っ直ぐこちらを目指して来る複数人の足音を見つける。その音は程なくして自らの目の前で止まり、ロキはゆっくり顔を上げ依頼主の顔を確認する。


「驚いたな、もう来ないと思ってたんだが」


 目の前に立つジークをロキは仮面越しに見据え言葉を発する。


「そうだね、自分でも驚きだよ」


 淡々したロキの雰囲気に気圧される事なく、ジークはその仮面の下へと言葉を返す。


「けど、俺達がダンジョン踏破するには君の力が必要不可欠だ。だから君がどういう人間かはこの際目を瞑る」

「それは殊勝な心掛けだな。それで、俺が納得いく依頼料は用意できたのか?」


 アイギスのメンバーは互いに目配せをし、ジークが満を辞して口を開く。


「こちらから君へ払う依頼料は前回と変わらず金貨100枚だ」

「おいおい、まさか昨日の話聞いてなかった訳じゃないだろ?」

「あぁ、だから足りない100枚分は情報で払う」

「………詳しく聞こうか」


 少し興味が沸いたのか視線を下げず次の言葉を待つ。


「レネチアノのダンジョンは階層の更新が進んでる反面、内部の詳細な情報が少ない。故に各階層のルート、出現モンスターの種類、採取できる素材、その全ての情報が希少かつ高値で取り引きされているのは言うまでもないだろう」

「………」

「君はダンジョン内を自由に出入り出来るみたいだけど、パーティーで行動した方がより効率良く情報を収集できるだろうし、ダンジョン内を把握出来ればレネチアに仕事の手を広げられるんじゃないかい?」


 視線を下ろし顎に手を当てたロキは、今し方聞き終えた条件を頭の中で吟味する。ジークの言う通りダンジョン内の情報は比較的高値で取り引きされるケースが多い、況してや攻略レース真っ只中の新ダンジョンならその価値は更に跳ね上がる。加えて新ダンジョンに人が流れた影響で、ロキの仕事が減っているのもまた事実であり、もしレネチアノに進出する事が出来れば、間違い無く今よりもずっと高い利益を上げる事が出来る。


「成る程、思ったより悪くないな」

「それに俺達とダンジョンを踏破出来れば君の評判も上がるはずだ、それこそ法外な依頼料が気にならなくなるくらいにはね」

「あんた以外と根に持つタイプなんだな。でも他の連中は納得してないみたいだぞ?」


「誰が原因だとおもってんだよ」

「まぁ、考え得る限り最悪の出会い方でしたし…」

「ぶっちゃけあり得ないって感じ?」


 それと無くジークの後ろに控えているメンバー目線をやる。カイネは特段変わった様子は無いが、他の三人は警戒しているのかあまり良い顔をしていなかった。


「何度も言うてるけど、ウチ等の最優先事項はダンジョン踏破であって、アンタと仲良くなる事ちゃう。ウチ等はダンジョンの為、アンタはお金の為、お互い割り切った関係で行こや」


 険悪な雰囲気のロキと他のメンバーの間にカイネが割って入る。そして互いにとって最も重要な目的を再確認させ、上手いこと場をおさめる。


「そうだな、その方がコチラとしてもありがたい……」


 ロキはゆっくりと立ち上がると改めてジークと向き合う


「さて、最後の擦り合わせと行こうか。再度アンタ等の要求を提示してくれ」


 ロキの言葉にジークは一度深く呼吸をすると、真っ直ぐと仮面に遮られた瞳に真っ直ぐ視線を合わせ言葉を紡ぐ。


「俺たちアイギスが求める条件は、俺たちが新ダンジョンに挑戦する期間、君のダンジョン内外を行き来する力を貸してもらいたい。

 依頼料は金貨で100枚、足りない分の金貨はダンジョン内で仕入れた情報と素材で支払う。そして最後に…」


 ジークは一歩前に出て威圧する様に顔を寄せる。


「もしも俺の仲間に危害を加える事があれば、例え何処へ逃げようと必ず見つけ出して殺す」


 先程までの優男の印象とは一変、獰猛な肉食獣の様な荒々しい殺意がロキへと向けられる。それはジークの実直で優しい性格の裏返しであり、それ程に強く仲間達を思っている証拠でもあった。

 互いに視線は譲らず張り詰めた沈黙がその場を支配する。側からその様子を眺めるも誰もが、固唾を飲みながらその結末を見守る。


「良いだろう、アンタ等の条件を飲む」


 ロキの一言を機に一気に緊張の糸が解け、周囲の者達は安堵の溜め息を漏らす。


「それじゃあ次はこちらの要求を聞いて貰おうか」


 ホッとしたのも束の間、不意打ちの様な言葉に再度緊張の糸が張り直されていく。後方で成り行きを見守っていたヘレクも、これには流石に声を上げる。


「依頼料の話なら今解決したばっかだろーが!まだ吹っ掛ける気かよ!?」

「落ち着け。依頼料の上乗せをするつもりは無いから安心してくれていい」

「でしたら何を要求するつもりなんですか?」


 アイギスの面々は疑念の目をロキに向けるが、当のロキはそれを意に介さず淡々と宣べる。


「なんて事は無い簡単なルールみたいなのものだ。そこそこ長い旅になりそうだからな、無駄な衝突を避ける為にルールを設けておくのは悪い話じゃ無いと思うが?」

「詳しく聞かせてくれるかい」


 ロキは人差しを立て言葉を続ける。


「互いに不要な詮索はしない。それだけだ」

「それは別に構わないが…そこまで念押しすることなのか?」

「話したくも無いことを、あれこれ聞かれるのは面倒だからな。依頼達成に必要な指示だけくれればいい」

「……分かった。こちらに損のある要求ではない様だからね」

「契約成立だな。出発予定は?」

「先発組との差も考慮すれば、出来れば明日にでもレネチアノに引き返したい」

「分かった、今日中に必要な準備は済ませる。明日の朝に正門前で落ち合おう」


 アイギスのメンバーを一瞥すると、ロキは床に置いてあるバックパックを担ぎダンジョンのエントランスを出口への方へ向かう。そんな去って行くロキの背中にジークが言葉を投げ掛ける。


「明日待ってるから!」


 ロキは振り向く事なく、気怠そうに手をヒラヒラと振りながらエントランスから出て行くのだった。

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