代替案
アレストスの大通り沿いに構える一軒の酒場、中は探索を終えた冒険者達で大層賑わっていた。そんな店内の一角でジーク達アイギスはテーブルを囲み、食事を取りながら今後の方針を話し合っていた。
「ったく、とんだ見当違いだぜ!オマケに後味の悪いタダ働きと来たもんだ!」
「よせヘレク、そんな言い方は無いだろう」
「そうですよ、仲間を失った方々から金銭を頂くなんてよくありません!」
ヘレクがグラスの酒を一気に仰ぐと、空になったグラスで勢い良くテーブルに叩く。そんなヘレクの悪態をジークと神官の少女が窘める。
「相変わらずアイリスは良い子ちゃんね。でもダンジョン内で使った消耗品も合わせれば、タダ働きどころか寧ろマイナスなのよね〜」
深紫の長髪をパッツンに揃えた魔術師の少女が、意地悪な笑みを浮かべながら皮肉を言う。その言葉にアイリスと呼ばれた神官の少女はバツが悪そうに顔を伏せる。
「エレノアもどうしてアイリスを責めるような事を言うんだ?」
「ジークはアイリスに甘過ぎなのよ。だから代わりに言ってあげてるんじゃない」
「俺達は人助けをしたんだ!もっと誇ったって良いじゃないか!?」
「その辺にしとき、過ぎた事をウダウダ言ってても仕方ないわ。それよりも、この街に来た理由を思い出した方がええんちゃうか?」
険悪になりつつある空気を察して、カイネがすかさず待ったを掛ける。各々が少しだけ顔を顰めるが、直ぐに本題へと気持ちを切り替え向き直る。
「引き揚げ屋のロキ、皆んなは率直にどう思う?」
「俺は却下だな。信用ならねー」
「私も同感。金貨200枚渡してトンズラでもされたら目も当てられないっしょ」
ヘレクとエレノアは否定的な意見を述べる。実際問題、金貨200枚の大金を用意できたとして、相手の気分次第で適当に反故にされてしまえばその時点で終わりだ。ましてや得体の知れない能力を間近で見せられた手前、その不安は更に大きくなる。
「アイリスとカイネはどうだい?」
「その…んぅ…」
昼間の出来事が余程効いたのかアイリスもやや消極的であった。
「ウチは結構アリや思うで。確かにアイツは正直者やないけど、少なくとも悪人ではないと思うねん」
「どうしてそう思うんだい?」
「仮にアイツがゴリゴリの詐欺師やっとしたとして、それを許すほど冒険者もギルドも甘くはないやろ。それこそ指名手配の一つもされてるはずや」
「うむ……」
「それに、あの時見せた力が本物やったら。ダンジョン踏破の確立がグンと上がるはずや」
「確かに今回の一件で、彼が持つ力の信憑性が上がった。制度は不明だけどダンジョンを自由に出入りできるなら、消耗品や食糧問題が解決して探索効率が飛躍的に上がるのは間違いない。でも…」
ジークは眉間に親指を当てると渋い顔を見せる。
「はっきり言って彼の印象は最悪だ。いくら能力が優秀でも、パーティーの輪をを乱す人間を雇うのはリスクが高いと思う」
「そうよね~、性格の悪い男はへレクで足りてますって感じ〜」
「あぁッ?テメェだけには言われたくねーよ腹黒女!」
「何ですって!?この筋肉バカ!!」
「ふ、二人共喧嘩は良くないですよ!!!」
互いに罵詈雑言を浴びせ歪み合うヘレクとエレノアの様子に店内の注目が集まる。アイリスはオロオロしながらも、必死で二人を宥めようと奮闘するが全く役に立たない。
「パーティーの輪のねぇ…」
まとまりの無い仲間の様子を見てニヤニヤと笑うカイネがジークに視線を送る。それを察知したジークは気不味そうに顔を背ける。
「と、ともかく!彼は背中を預けるのは危険過ぎる。それに依頼料の事も考えれば、やはりダンジョンには俺達だけで挑むしか無い」
「それもそうやな、あの様子じゃ絶対まけてくれんやろし」
無理をすれば用意できない額では無いが、資金が底を突いてしまえば消耗品や食料の購入、装備の調整に宿泊場所の確保に支障をきたし、ダンジョン探索どころか冒険者活動そのものが立ち行かなくなってしまう。
諸々の事情を含めロキの加入を断念する空気になっている所へ、ヘレクとエレノアの仲裁で完全に蚊帳の外だったアイリスが依頼料の話に割って入る。
「あ、あの…依頼料の事なんですけど、一つ提案があります」
………
アイリスの提案を一通り聞き終えると、ジークとカイネはそれが代替案となり得るか否かを思案する。長い沈黙の末、ジークが先に口を開きカイネに視線を送る。
「これは…かなり良いアイディアなんじゃないか?」
「せやな、この内容ならワンチャンあるで。寧ろこれで飲めないなら諦める他ないやろ」
「おいおい、俺の聞いてないところで勝手に話を進めんなよ」
「え、何々?結局アイツをパーティーに入れるの?」
さっきまで激しく歪みあっていた二人もしれっと会話に参加する。そんな二人の様子にジークは呆れた顔を見せるも、先程の代替案を含めた今後の方針をメンバー全員が共有する。方針が決まり少し余裕を取り戻したメンバーは、提供される料理と酒を楽しみながらアレストスの夜を過ごすのだった。