新たなダンジョン
大陸の東側を広く統治する『シルヴァルテ王国領』。この国の初代国王は、その秀でたカリスマ性と剣才で混沌とした戦乱を勝ち抜き周辺民族の頂点に君臨すると、敗北した敵民族を寛容に受け入れシルヴァルテ王国を建国したと言い伝えられている。その為、各民族が持ち寄った食・娯楽・産業・武術等の様々な文化が交じり合い進化を続けた結果、大陸随一の先進国へと発展していったのだ。そんなシヴァルテ王国の最南方、海岸沿いに広がる港町『レネチアノ』でここ最近新たなダンジョンの出現が確認された。
それはとある満月の夜。突如として轟音と共に凪いだ海の底から歪な白亜の塔が出現し街中が騒然とした。領主の指示により直ちに即製の調査隊が結成され、調査隊は夜の海へ船を繰り出し白亜の塔に乗り込んだ。塔に近づくと思ったより高さは無いものの、横幅は大型の戦列艦が並んで2隻すっぽり入るくらいには広かった。そしてその外観は海を照らす灯台のような、はたまた戦士が武勇を競うコロッセオの様な無機質ありながらどこか人為的意思を感じさせる。
塔の岸壁に船をつけた調査隊は戦力を4つの小隊へ分けると、外壁の四方に空いた大穴から別々に内部へと侵入する。塔の内部は拍子抜けするほど殺風景であり、松明の明かりを頼りに足元と各チームの位置を確認しながら奥へ奥へと歩を進め、やがて伽藍洞の中央で合流する。平らだった地面が途絶えた足元を照らすと幅5m程度の階段が姿を現し、それは松明の光が届かない程下方へと続いていた。
中に入らずとも分かる。その場に居る者の全て予感した。この場所は十中八九『新たなダンジョン』なのだと。そしてその予感は、直ぐに確信へと変わった。
階段の奥から微かな生臭さと共に湿った足音が聞こえる。その足音は次第に大きく、そして増殖しながらこちらへと迫ってくる。異常を察知した調査隊の面々は直ちに階段から距離を取ると、金属の容器に入った油を周囲に撒き松明の火を当てると、簡易的ではあるが床から立ち上った炎がダンジョンの入り口ひいては塔の内部を照らす。各々が獲物を構え、明るくなったダンジョンの入り口を凝視すると、全身を青みがかった鱗に覆われ下顎が異様に発達した人型のモンスターが群れを成して姿を現した…
時は過ぎ一か月後。
レネチアノに出現した新たなダンジョンの噂は瞬く間に王国中へ広がり、王国内に十数年ぶり現れたダンジョンの踏破を目指し各地から多くの冒険者が押し寄せた。しかしダンジョンの攻略は基本的にはトライ&エラーの繰り返しながら、その都度ダンジョン内のルートやフロアの攻略パターンを構築し長期間掛けて行うのが定石である。加えて新しいダンジョンは情報が少ない為、既存のダンジョンよりも時間が掛かる上にリスクも高い。それ故実力の無いパーティーは中間層にたどり着く前に篩い落とされる為、今集まっている冒険者達も一ヶ月しない内に諦めるか、ダンジョン内で命を落として半分以下に減るだろう。
その一方、利用者を奪われた各地の既存のダンジョンは人足が減り閑散としていた。そしてそれは商業都市アレストス郊外のダンジョンもまた例外ではなかった。
今日もアレストスのダンジョンには冒険者が集っていた、新しいダンジョンに人が奪われたとはいえ、それを逆手にダンジョンでの活動権を独占し儲けを上げようと画策する者や、駆け出しの冒険者達でそれなりに賑わっていた。そんな中に比較的若いが、周囲とは一線を画す雰囲気を放つパーティーが一組。
先頭に立つのは鈍色の鎧にボルドーのケープを纏った魔法騎士。それに続き白を基調とした修道服を纏った神官の少女。所々傷や凹みの着いた大楯を背負い、分厚いフルプレートで武装した重戦士。動きやすいようにアレンジされているが、東の一部地方で着用されてる和服姿に身の丈ほどある和弓を携えた射手。深紫のローブを羽織った切れ長の瞳が特徴の少女が、高そうな杖の柄で床を叩きながらエントランスに入ってくる。
「なあ、あれ二級パーティーの『アイギス』じゃねー?」
「まさか、『アイギス』がこのダンジョンに来るわけねーだろ』
「いやでも、噂で聞いた通りの特徴だし…」
件のパーティーの姿を見て周囲が騒めき始める。彼等が噂する『アイギス』とは最近冒険者界隈で最も勢いのあるチームの一つであり、構成メンバー全員が二十歳前後で階級こそ二級ながら、ベテラン率いる一級チームにも引けを取らない実力を持っている。
そんな彼等が何故、レネチアの新しいダンジョンではなくアレストのダンジョンに居るか、それはレネチアのダンジョンを攻略する上で必要なものが此処にアレストにあったからだ。
先頭に立つ魔法剣士の青年が周囲を見回すと、エントランスの一角に壁にもたれ掛かる黒フードの人物を見つける。他のメンバーに目配せをするとその人物に歩み寄っていく。
「すまないね、少しいいかい?」
魔法剣士の青年が、目の前に座るフード目深に被った仮面の男に話し掛ける。仮面の男はゆっくりと顔を上げ、話しかけて来た青年達一行の様子を伺う。
「俺の名前はジークリント、とある事情で人を探してるんだ。引き揚げ屋のロキって人なんだけど…君の事だろう?」
「仕事の依頼か?引き揚げて欲しい仲間がいる様には見えないが」
「ハハハ、まだ来たばかりだからね」
ロキが放った皮肉を、ジークは人懐っこい笑みを浮かべて軽く受け流す。
「仕事の依頼って言うのは正解だ。レネチアの新ダンジョン、君も知っているだろ?」
「ダンジョン踏破の為、俺達の探索に君も参加して欲しい」
説明とか描写とか色んな物が横入りして全然話進まん。