引き揚げ屋
~プロローグ~
『ダンジョン』それは大陸の各所に点在する、モンスターを生み出し続ける建造物。
外観・種類は様々で山肌に空いた洞窟や、荒野の地下に広がる迷宮といった原始的な物から、とても自然発生したとは思えない妙に凝った造りの要塞や神殿等々、何時、誰が、何のために造ったのか分からず、今も尚増え続ける得体の知れないそれに人々は恐怖した…
しかし、モンスターの討伐や間引きを専門とする冒険者や、国が結成した騎士隊、そし伝説として語り継がれる英雄達の長年の挑戦の結果、ダンジョン内のルートの確立、出現するモンスターの種類と対策、そして最下層に存在する『核』を破壊することでダンジョンの活動を止めること、即ちダンジョンの破壊が可能であることが立証されたのだ。このダンジョン踏破の知らせはすぐさま大陸中に広まり、人々が抱えていた不安は解消され各地でダンジョンの攻略が活発化していった。
ダンジョン攻略が盛んになり日々ノウハウが更新されていく中で、今まではダンジョンの踏破が最優先事項とされていてた為に見落とされがちであった、ダンジョン内で採取できるモンスターの素材や、アイテムや鉱石に商業的な価値が再認識された事に加え、『核』が破壊されない限り素材となるモンスターが出現し続ける為、あえてダンジョンを破壊せず商業的な目的で国が管理を行い、今まで畏怖の対象だったダンジョンが人々の生活を潤す金の卵へと変わった。
今日も商業都市アレストスの郊外に位置するダンジョンには多くの冒険者が集まっていた。
この場所も国に管理された商業ダンジョンの一つであり、つい十年前まで地下へと続く入り口は野晒しの状態で放置されていた筈だっただが、今では人の手が入り冒険者たちが待機する広いエントランスが設けられ、今しがたダンジョンから帰還した者、これからダンジョンに突入しようとする者、地図を囲み攻略の算段を立てている者、攻略メンバーの募集をかけている者達で賑わっていた。
そんなエントランスの隅で壁にもたれ掛かって座る風変わりな男が一人いた。全身黒い出で立ちに、深く被ったフードの隙間からは鳥のようにも獣のようにも見える奇妙な仮面が覗く、右肩から垂れる黒髪を一つに結び全身の線の細さから一見女性にも見えなくない。そして男は待っていた。自身の仕事が舞い込んでくるのを…
周囲の雑踏をかき分け慌ただしい足音が近づいてくる。そしてそれは壁にもたれて座る男の前で止まる。足音の主はダンジョンから帰還したばかりであろう薄汚れた三人組の冒険者パーティーだった。余程急いで走ってきたのか、膝に手をつき荒い呼吸を繰り返す。
「なぁ!あんただろ、皆が噂してる引き揚げ屋ってのは⁉」
息が整ったのか、三人の中でひと際体躯のデカい戦士職の男が声を上げる。
「本当なのか⁉金さえ払えばダンジョン内にいる人間を地上まで引き上げてくれるって!!」
「本当だ、ただし幾つか条件がある」
仮面の男はゆっくり顔を上げ、鳥にも獣にも見える仮面の下から戦士職の男を見据え答える。
「まず一つ。前金として金貨3枚、これは成功失敗問わず必ず貰う。こっちも命はってダンジョンに潜るわけだからな。その後引き揚げに成功した場合は階層につき金貨10枚貰う」
「あぁ、承知してる」
「二つ。一回に連れ戻せるのは一人まで」
「……」
「三つ。潜れる回数には限界がある。依頼の内容によっては最悪助けられないかもしれないが…それでも構わないか?」
仮面の男は淡々とした口調で問いかける。そして戦士職の男は思案する。『引き揚げ屋』の話を最初に聞いたときは眉唾だと思っていた。何故ならダンジョンの入り口は基本一つしか無く、それは同時に出口でもあるからだ。一度ダンジョンに入ってしまえば進むか戻るかの二択しかなく途中リタイアは死を意味する。ダンジョンが出現した初期の頃は勿論、商業ダンジョンとして仕切りが低くなった現代とはいえそれは変わらない。ダンジョンの構造を無視して内外を行き来できる手段なんぞ、ダンジョン踏破の英雄譚に出てくる存在するかどうかも分からない幻のアイテムくらいだ。
だが目の前にいる仮面の男はそれをやって見せようと言うのだ。冒険者の情報網は広い。そんな大それたホラを吹けば普通は袋叩きに合う筈だが、この男は寧ろ逆で冒険者界隈での評判は悪くない。依頼料だって命に比べれば…
戦士職の男は一度大きく呼吸をすると長い沈黙を破り答える。
「‥‥分かった、その条件飲もう」
その一言を皮切りに仮面の男は立ち上がり、傍らに置いてあるバックパックを背負う。
「そうか、話を詰めよう。逸れた連中の人数と階層を教えろ」
「幸い、と言っていいのかは分らんが一人だ。逸れた場所は第6階層の沼地だ」
「第6階層なら距離はそこまで問題ないな、そいつの名前と特徴は?」
「名前はカボック。神官で眼鏡を掛けた細身の男だ」
「それだけ分かれば十分だ」
捜索に必要な最低限の情報だけ聞き終えると、仮面の男はダンジョンの入り口の方へ歩き出す。そしてその背に向かい戦士職の男が問う。
「お、おい!あんた!あんたの名前を教えてくれ⁉」
その言葉に仮面の男が振り返り言う。
「俺はロキ、『引き揚げ屋』のロキだ」
一話投稿するのにこんなに時間掛かるなんて思いませんでした。
誤字脱字の確認終わらないし、文法もハチャメチャだし全部が面倒くさい。
猫のお尻を叩くだけでお金貰える仕事とかないかなぁ…