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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
05 カーボエルテ王国 王都2
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096 新規加入


「チッ……ここまでか」


 訓練中に手加減を忘れたイロナの攻撃では、模擬刀のほうがヤルモより先に音を上げて折れてしまった。


「お、終わった……」


 そんな攻撃を受け続けたヤルモはズタボロ。体の至るところに痣を作り、ドサッと腰を落とした。


「しかし主殿。我が言うのもなんだが……よく生きてるな」

「殺す気だったの!?」


 イロナの本気度合いを知ってヤルモは驚く。物凄い殺気だったからヤルモも死ぬ気で守っていたのだが、まさかその殺気が本物だったと知ったならば、そりゃ驚くよ。


「冗談だ。こんな棒切れみたいな剣で殺せるわけがなかろう」

「それ、勇者だったら死んでたからな?」


 ヤルモだから耐えられたダメージ。それも、多少の被弾は覚悟して耐え、体の重要機関だけは一太刀も入れさせなかったヤルモの快挙だ。

 ヤルモたちの話を聞いているクリスタとオルガも高速で首を縦に振っているのだから確実だ。実際、イロナの殺気だけでオルガが泡を吹いていたし……


「さてと……勇者も休憩が終わっただろ。かかってこい」

「まだやるんだ……」

「元々貴様の稽古だろうが。主殿、予備の剣を出してくれ」

「し、真剣なんて、死んじゃうよ!!」

「何を言っている。真剣は貴様が持つのだ。殺す気でこい」


 イロナに剣を投げ渡された勇者は渋々拾い、模擬刀はイロナに投げ渡される。こうしてイロナブートキャンプはお昼まで続き、二人の死者を出して終わりを告げるのであった。



 イロナブートキャンプを受けたヤルモとクリスタはぐったり。死ぬほど疲れたらしく、昼からずっと寝ていた。

 夕食時に一度目覚めてエイニの食事をいただき、岩風呂で疲れを取ったらまた惰眠を貪る。


 ただし、ヤルモには夜のお楽しみという拷問が待っていたので、イロナにダメージを増やされてから眠りに就いていた。



 そして翌朝……


「気を付けてくださいね。いってらっしゃい」

「「「「いってきます……」」」」


 エイニに見送られた勇者一行は、何やら言いたげな顔でダンジョンに向かう。


「本当にあの子が主人だったのね」

「ヤルモさんが主人だと思っていました」

「俺も二度目だからまだ慣れないな」


 そう。クリスタとオルガは初めてエイニに見送られてウサミミ亭を立ったので、ブツブツ言っているのだ。ヤルモもそのブツブツに加わり、ダンジョンに向かうのであったとさ。



 上級ダンジョンから格上げされた特級ダンジョンに一行が着くと、門の前には身なりの綺麗な15歳ぐらいの少年が立っており、クリスタの顔を見た瞬間、駆け寄って来た。


「勇者様! おはようございます」

「うん。テッポ君おはよう。リュリュ君はまだ来てないの?」


 勇者からテッポと呼ばれた少年は、金色の髪をかきあげて質問に答える。


「リュリュの奴は特級ダンジョンに恐れをなして逃げ出したようです。ささ、早く行きましょう」

「いや、リュリュ君が本命で、君が補欠でしょ?」

「繰り上げ当選ってことですね!」


 クリスタとテッポが揉めていると、ヤルモがオルガに質問している姿があった。


「アイツがパーティに入るのか?」

「いえ……どうも賢者様にはのっぴきならない理由があるらしくて……」


 オルガが言うには、魔法アカデミーに飛び級で入学した13歳のリュリュが勇者パーティに加入する流れとなっていたのだが、それを聞き付けた侯爵家が「首席のテッポがどうして選ばれないのだ!」と、怒鳴り込んで来たらしい。

 学長の賢者ヨウニは総合的判断で決めたのだが、多額の寄付をしてもらっている侯爵家を前に強くは出れず、クリスタに裁定を任せることとなったそうだ。


「それって……(てい)よく面倒事を押し付けられたのでは?」

「ですね。賢者様としてはリュリュ君を守りたかったらしいのですが……」


 リュリュは庶民なので、貴族の多いアカデミーではイジメを受けている。イジメにも負けず一生懸命勉学に励むリュリュという学生がいると知って調べたら、元々は冒険者。

 低レベルの二人というパーティ構成で初級ダンジョンをクリアしていたから、勇者になって日の浅いクリスタの助けになると思ってヨウニは推薦したようだ。


「ふ~ん……そのリュリュってのは来てないのか」

「少し話をしましたけど、逃げ出すような子には見えなかったのですが……」

「あいつじゃないか?」


 ヤルモとオルガが話し込んでいると、イロナが建物の間からこっそり覗き見る少年を指差した。ただ、遠くからだったので、オルガには誰か確認取れなかったから、クリスタを誘って近付いて行った。

 クリスタたちが男の子と言葉を交わす姿を見て、テッポは舌打ちしていたので、ヤルモは嫌悪感を抱く。実際問題、テッポがリュリュを追い払っていたから、その嫌悪感は正しかった。



「この子がリュリュ君よ」

「は、初めまして! リュリュと申します! どうぞ宜しくお願いします!!」


 勇者が紹介すると、背の低くてかわいらしい男の子リュリュは礼儀正しく挨拶し、深々と頭を下げるのでヤルモは好感を持つ。


「俺はヤルモ。こっちが連れ合いのイロナだ」

「うわ~。勇者様も聖女様も綺麗だと思いましたけど、イロナさんもすっごく綺麗ですね~」

「ほう……このちっこいの、見る目があるな」


 あまりにイロナが嬉しそうにするので、ヤルモは割り込まざるを得ない。


「連れ合いだと紹介しただろ?」

「あっ! 違います違います。気分を害されたなら申し訳ありませんでした!!」

「フフ。主殿でも怒るのだな。こんな子供の言ったことなど気にするな」

「あ……」


 イロナがリュリュの頭を撫でると、リュリュは頬を赤らめて嬉しそうにする。


「そんなに優しく撫でられるんだ……」


 イロナが自分とは大違いの態度でリュリュと接するので、ヤルモは困惑するのであったとさ。


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