009 カミングアウト1
性奴隷を買った翌朝……
(女!?)
目覚めたタピオは、腕の中で眠るイロナに驚くこととなった。
(……あ~。そっか。性奴隷を買ったんだった。ビックリした~。てか、本当に美人だな。でも、あんなに力が強いとは……俺じゃなかったら大事な物が取れるのは頷ける。結局、たいしたこともできなかったし……)
タピオは昨夜の出来事を思い出し、初めての行為での気持ち良さよりも受けた痛みが勝って、タピオのタピオを触りながらホッとしている。
(本当に美人だ……キ、キスぐらいしてもいいかな? 俺が買ったんだからいいよな? 寝てるところを襲うようで気が引けるが、美人局じゃないから文句を言われないはずだ。よし!)
タピオはホッとしたのも束の間、欲望のままに唇を尖らせ、イロナの唇に近付ける。その瞬間、イロナの両目が見開いた。
「モーニングキスというヤツか……よかろう!」
タピオが驚いて逃げる前に、イロナはタピオの口に吸い付いた。
「ずぼぼぼぼぼぼ」
タピオのタピオがもげるほどの吸引力で吸われたタピオは、モーニングギブアップ。タップして、なんとか離してもらうのであった。
「ゲホッゲホッゲホゲホ……」
「どうした? キスを要望していたのではないのか?」
舌を吸い取られるどころか、肺まで吸い取られる程のバキュームキスを喰らったタピオは虫の息。いくら防御力が高くとも、内側の攻撃は堪えたようだ。
「そうですけど、こう……チュッという感じでいいんです。触れるぐらいで……」
「なるほど。フレンチキスというヤツだな。練習してみよう」
ガッキーン!
「なんで~~~!!」
フレンチキスイコール、ほぼ頭突き。スピードとパワーの乗った、イロナの尖った唇を人中に喰らったタピオは鼻血ブー。しばらくのたうち回っていた。
そんなタピオを見下して見ていたイロナは、上から発言する。
「それにしても主殿は頑丈だな。我のテクニックに耐えるとは、本当に人間か?」
そっくりそのまま返したいタピオ。だが、ダメージが酷く、タオルで鼻を押さえながら返事は待ってもらう。そうこうしていたらノックの音が聞こえ、イロナが裸のまま出ようとするので、ズボンだけ穿いたタピオが対応する。
思った通り、朝食を運んで来た宿屋の従業員だったので部屋には入れず、自分で運ぶと言って追い返していた。その時「昨日はお楽しみでしたね」って目で見られていたが、タピオは気付かなかった。
そうしてイロナにもドレスの様な服を着るように頼んだタピオは、二人でテーブルに着いた。
「温かい内に食べましょう。お話はそのあとってことで」
「ふむ。だが、口調には気を付けよ。昨日の夜から敬語になっているぞ」
「あ……わかった」
イロナは小言を言ったが腹もへっていたらしく、バクバク食べる。どちらもマナーには疎いようだが、美味しく食べ終えた。
「さて、俺が何者か……だったな。もちろん人間だ。ただ、職業がちょっと変なんだ……」
タピオは奴隷相手だからか、自分の過去を包み隠さず話す。三度の強姦罪で捕まったこと。全て冤罪であったこと。15年もの間、鉱山送りになったこと。
その過程で重戦車という謎の職業についたこと。現在、勇者殺害の冤罪で逃亡中まで……
黙って聞いていたイロナは、紅茶を飲み干してから口を開く。
「なるほどな。その職業のせいで防御力が高くなっているわけだ。合点がいった」
「……へ?」
「どうした?」
「俺の犯罪歴に触れないから……」
呆けた顔をするタピオに、イロナは言い放つ。
「冤罪なのであろう? ならば何も問題ない」
「信じるのか?」
「我としては、主殿の言葉は絶対だからな」
「そういうことか……」
奴隷だからの答えだったと知ったタピオは肩を落とす。だが、イロナは微笑みながら、次の言葉を発する。
「出会って一日だが、主殿が嘘を言っていないことぐらいはわかるぞ。だから信じる」
「え……」
「我は主殿に買われてよかったと思うぞ」
「うっ……うぅぅ」
タピオは涙する。謂れの無い罪で何年も服役したタピオに、その言葉は救いだったのであろう。
その姿を見たイロナは、テーブルに突っ伏して泣いているタピオの隣に移動して、優しく頭を撫でるのであった。