086 来客1
パレードの翌日、エイニの出勤を見送ったタピオとイロナは庭に出て、先日手に入れたドロップアイテムを広げていた。
「しかし凄い量だな」
「トゥオネタル族なら、もっと持ち帰ってるだろ?」
「いや、我等は気に入ったアイテムぐらいしか持ち帰っていない」
「そうなのか? もったいない……」
「金を使う機会が少ないからな」
「ふ~ん……ま、イロナも欲しい物があったら分けておいてくれ」
山積みのドロップアイテムから欲しい物を探すことは難しいので、イロナはタピオの仕分けを待つ。
武器に防具、装飾品に回復アイテム。タピオはポイポイ投げて仕分けし、第一段階が終わったら細かく分ける。剣が溜まったらイロナはそこに陣取り、使えそうな剣を探す。
かなりの量があったからお昼までに終わらなかったので、エイニに用意してもらっていた昼食を食べてから、また仕分け。
3時頃にようやく終わった。
「ふぅ~……こんなもんかな? イロナもいい物あったか?」
「うむ。SS級の剣があったぞ」
「四天王が落としたヤツかな? 予備が増えてラッキーだったな」
「それにしても、これを売ればいくらになるんだ?」
「そうだな~……安く見積もっても、イロナが買えそうだ」
「おい。我が安いとでも言いたいのか……」
「違う違う。めちゃくちゃ高いって言ってるんだ」
イロナが怒った顔をしたので訂正したら、上機嫌。タピオは背中をバシバシ叩かれていたが、いまのところ手加減はできているようだ。
「そういえば奴隷って、金を稼いだら解放されるんじゃなかったのか?」
「ん? 主殿は我を解放したいのか??」
「いや、こんなに美人を早く解放されると困るから……」
「そうだろうそうだろう」
「ちょっと痛いんだけど……」
褒められて上機嫌のイロナは手加減が下手になったので、叩く音がドコンドコンに変わった。
「それでどうなんだ?」
「我は性奴隷だからな。性的な奉仕をしないと借金は減らないと館長が言っていた」
「こんなに稼がせてもらっているのに悪い気がするな」
「そう思うなら、もっとやらせろ」
「それは追い追い……」
イロナが舌舐めずりするので、タピオに悪寒が走る。そりゃあんな拷問みたいな奉仕のペースが上がったならば、命の危機なのだろう。
またやんわりと断って、黙々とアイテムをまとめるタピオであった。
仕分けが終わってから夕方前、エイニが帰って来たので、自室で夕食ができるのをイチャイチャしながら待つタピオとイロナ。実際には、イロナがタピオの股間を狙っているのだが……
そんなことを始めてすぐに、ドアがドンドンと激しく叩かれて、タピオは九死に一生を得たと逃げ出してドアを開けた。
「たたた、大変です!」
タピオはエイニが叩いているとはわかっていたが、あまりの焦りように不思議に思う。
「借金取りでも来たのか?」
「借金はありますけど、健全なところでしか借りてませんよ!!」
「あるんだ……」
「い、いまはその話はいいでしょ! タピオさんにお客が来てるのです!!」
「いないと言っておいてくれ。あと、世話になったな。これは俺からの気持ちだ」
タピオは客と聞いて、早口に喋って金貨をエイニに手渡す。そして部屋の扉を閉めようとする。
「ちょっ! なに逃げようとしてるんですか!!」
しかし、エイニが扉を掴んで離さない。
「いいから言われた通りにしろ!」
「いったいタピオさんは、勇者様になにしたんですか~~~!!」
「へ? ……勇者??」
どうやら客の正体はクリスタだったようで、タピオのドアを閉める手が弱くなった。
「そうですよ。勇者様がタピオさんに会いに来ているんですよ!」
「ふ~ん……じゃ、いないと言っておいてくれ」
「どうしてそうなるんですか~」
「その金貨は口止め料だ。取っておけ」
「うっ……ダメ! 返します! はい、返したから勇者様に会ってください!!」
金貨に一瞬怯んだエイニであったが、勇者でありこの国の王女でもあるクリスタに非礼があってはならないと、なんとか踏み留まった。
エイニがあまりにしつこいし、クリスタなら逃げるほどのことでもないと思ったタピオだが、エイニに話を聞かれたくないので部屋に連れて来てもらう。
それからルンルン気分のエイニはスキップで、クリスタとオルガをタピオの部屋に招き入た。
「何か騒いでいたようだけど……また私たちに会いたくないとか言ってたんでしょ?」
騒ぎの理由はクリスタにバレバレ。あれだけ人を信用しないところを見せたので、タピオの性格はわかっているようだ。
「そうなんですよ~。この人、名前も聞かずに逃げようとするわ、勇者様と知っても追い返そうとしてたんですよ。でも、私が止めました!」
タピオが何か言おうとしたが、その前にエイニに取られる。しかも、自分の手柄のようにチクリ、クリスタたちから信用を得ようとするエイニであった。