085 パレード帰り
勇者クリスタを称えるパレードの人混みを抜けると、タピオとイロナは鍛冶屋に向かう。エイニもついて来ようとしていたが、買い出しがあったので渋々離れて行った。
「お、やってるみたいだ」
タピオが鍛冶屋の扉を押すと開いたので、イロナと共に中へと入る。
「あんたらか。鞘ならできてるぞ」
カウンターに出ていたドワーフのスロは、タピオの顔を見てゴソゴソと出した鞘をイロナに手渡す。
「どうだ?」
「うむ。格段に抜きやすくなった」
イロナは剣を鞘に入れては抜き、入れては抜きと繰り返し、使い心地を確かめていたらスロの目が光る。
「おいおいおい。かなり痛んでいるじゃねぇか。どんなモンスターを斬って来たんだ」
「どんなと言われても……多く斬ったから忘れた」
魔王を倒したと言えないイロナはとぼけてくれたので、タピオはホッと胸を撫で下ろす。本当に忘れているかもしれないが……
「こりゃ100や200じゃきかんだろう。まさかとは思うが、スタンピードに巻き込まれたのか??」
イロナから剣を受け取ったスロは、見ただけで正解に辿り着いた。ただ、魔王を斬ったとまでは気付くわけがなく、半分正解というところ。しかし、あまり詮索されたくないタピオは武器等を取り出して割り込む。
「まぁな。俺の剣と盾も手入れしてくれ」
「これも酷いな。絶対スタンピードに巻き込まれただろ?」
「あと、鎧も頼む」
「これはすぐに手入れは終わる。それでスタンピードに巻き込まれたんだろ?」
「しつこいな……そうだよ」
何度もスロに詮索されたタピオはついに折れた。
「やっぱな~。あの勇者様じゃ、魔王を倒せるわけがないと思っていたんだ。そっちのお嬢ちゃんがやったんだろ?」
それが大失敗。どうやらスロは勇者クリスタのために剣を打ったらしく、実力はわかっていたようだ。
「チッ……人を見る目がありすぎだろ」
「わははは。わしが何年剣を打ってると思っているんだ」
「正確には、俺も魔王を相手した。勇者もすぐそばで見ていただ」
タピオはお手上げのポーズで簡潔に語ると、スロは真面目な顔に変わった。
「本当の英雄のあんたたちには敬意を払う。勇者様を……この国を救ってくれてありがとう」
「よせよ。俺たちはしがない冒頭者だ。金で雇われただけだ」
「いや、あんたたちがいなければ、今ごろ俺たちは死んでいただろう。感謝させてくれ。整備費もタダにしておく」
「金は払う。その代わり、俺たちのことは秘密にしておいてくれ」
「何かわけありか……わかった。墓場まで持って行ってやる。だからって、金は受け取らないからな」
「強情だな……ありがたく感謝されてやるよ」
スロに押し切られて、またタピオは折れる。人見知りだから信用したわけではないが、珍しくタピオはスロのことを信じたいと思ったようだ。
「迷惑ついでに、武器防具を買い取れないか? めちゃくちゃ多くて捌くのに困っているんだ」
「全部買い取ってやりたいが、うちもそこまで多くは無理だな」
「じゃあ、鋳潰して武器に使えそうな物を選んで来るよ。その時は頼むな」
「おうよ!」
こうしてスロと固い握手を交わしたタピオは、イロナを連れてウサミミ亭へ戻るのであった。
その道中、大荷物を担いだエイニが前を歩いていたので、タピオたちは隣を歩く。
「重そうだな」
「あっ! タピオさん。そうなんですよ~。今日お店を休みにしたからって、オーナーから廃棄間近の食材をいっぱい押し付けられちゃって~。食費が浮くから助かりますけど~」
「オーナーって、いい人だな」
「まぁいい人なんですけど……喋ってないで手伝ってくださいよ~」
「ああ。ほらよ」
「わっ! あははは」
タピオが大荷物をエイニごと持ち上げると笑いが起こる。そのせいでエイニに「お父さんみたい」と言われてタピオは困っていた。
「我も!」
「よ~し!!」
「「あはははは」」
イロナまで腕に掴まって来たので片手に担いでタピオは走り出し、まるで姉妹と戯れるお父さんのようにウサミミ亭に帰るのであった。
「さて……やるか」
ウサミミ亭に帰って食事もお風呂も済んだら、今日も夜の押し売りをして来るイロナ。
「まだ出ないかな~? それにまだ痛いし……」
昨夜のダメージが抜けきっていないタピオはやんわり断る。本当にまだ股間が痛いので、マジで勘弁してほしいタピオ。
「むう……」
「そう膨れるなよ。ずっと一緒なんだからな。ふぁ……」
タピオはイロナを抱き締めてベッドに横になると、すぐに睡魔がやって来た。
「幸せそうな顔をして……」
タピオの寝顔を見たイロナも、タピオに誘われるように眠りに就くのであった。
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