082 カーボエルテの魔王5
「疲れた~~~」
魔王がダンジョンに吸い込まれるなか、タピオは仰向けに倒れる。
「うっ……しゃ~~~!!」
そして両手を真上に上げて歓喜の雄叫び。前回の魔王討伐は中途半端に終わったから少しは後悔していたので、心残りがひとつ解決して嬉しいタピオ。
「フフフ。主殿があそこまで戦えるとは思っていなかったぞ」
イロナは久し振りに本気で暴れたから少しは疲労があるのか、タピオの近くに腰を下ろした。
「スタンピードに魔王か……結局、イロナ任せにしてしまったな」
「そうでもない。ここまで疲労なく魔王と戦うことはなかった。いつもならもっとてこずっていたぞ」
「ははは。イロナでも疲れるんだな」
「そっくりそのまま返してやる。そのレベルで疲れを見せなかったではないか」
そうして二人が褒め合うように喋っていたら、クリスタとオルガが走り寄る。
「やったね!」
「ありがとうございます! あ!」
「オッフ」
先頭を走るクリスタはイロナに抱きつき、オルガはつまずいてお約束。タピオに乗っかり、ふたつの大きな物でタピオの顔を包んだ。
「それは我の仕事だぞ……」
「違います違います! 勇者様、助けて~!」
「いや、無理だから」
タピオをたぶらかす女の出現で、イロナは魔王となる。オルガが助けを求めても魔王が相手では、クリスタも手を出せないのであった。
「主殿……主殿は、そんなにこの女の乳がいいのか……」
「ち、ちがっ……ぎゃああぁぁ~!!」
しかし、タピオがだらしない顔で余韻を楽しんでいたからには、魔王の怒りはタピオにも向くのであったとさ。
「ううぅぅ……」
「魔王を相手するよりHP減ってない?」
イロナにマウントポジションで何度も殴られたタピオは頬を張らし、クリスタに慰められる。オルガはさすがに殴ると一発で死にかねないので、イロナも自重して説教で済ますようだ。
ひとまずイロナと距離を取りたいタピオとクリスタは、魔王が消えた辺りにあった宝箱に近付いた。
「これって、魔王のドロップアイテム?」
「たぶん……宝箱で出るのは、俺も初めて見た」
「何が入ってるんだろう?」
「さあな~? レジェンドなんて出るかもな」
「開けて開けて~?」
「うっし!」
タピオとクリスタは心踊らせて宝箱を開ける。すると……
「くっ……外れだ」
「え? 凄い鎧じゃない!」
大きな魔石と空色の全身鎧が出ると、タピオは残念がり、クリスタは喜ぶ。しかしタピオは売れば高値が付くと思い直し、鑑定ができる虫眼鏡のような物で鎧を見る。
「レジェンドの鎧だ……」
「ほら! いい防具じゃない。なんでそんなに残念がるのよ~」
「剣か盾が欲しかったんだよ」
「着たらいいじゃない?」
「俺が装備できると思うか?」
「ちっさ……無理だね」
タピオのマッチョな体では、装備できないとクリスタは悟る。
「お~い。イロナはいるか~?」
オルガを説教中のイロナを呼ぶと、いちおう魔王のドロップアイテムには興味があるのか近付いて来た。
「全身鎧か……我の好みではないな。主殿が装備したらどうだ?」
「小さいから入らないんだ」
「レジェンド防具は装備者の体格に合わせてくれるぞ」
「マジで!?」
レジェンド防具を初めて見たタピオは驚いたものの、それならばと装備してみるようだ。ただ、どうやって装備をしていいかわからないのでイロナから説明を聞いていた。
タピオが空色の鎧を抱き締めるように胸に押し当てると、カシャンカシャンと鎧がバラけてタピオの体を包み込んだ。
「どうだ?」
「「「………」」」
タピオは目を輝かせて問うが、何故か三人は無言。見間違いじゃなければ肩がプルプル震えている。
「へ、変なのか??」
「プッ……」
「「「あはははは」」」
「そんなに変なのか!?」
クリスタが吹き出してからは、全員大爆笑。だって空色の鎧はぱっつんぱっつん。タピオの筋肉の形に沿って逆三角形になってるもん。
どうやらレジェンド防具には男女兼用もあれば、女性用の防具が存在したらしく、男の体にはフィットしない作りになっていたようだ。
「そんなに笑わなくてもいいだろ~」
クリスタたちだけならまだしも、イロナにも笑われたタピオは涙目で装備を外す。
「やっぱ売るしかないか」
「もったいない……」
タピオがマジマジと空色の鎧を見ていると、クリスタが物欲しそうに呟く。なので、タピオは空色の鎧をクリスタに押し付けた。
「え?」
「やる」
「何もしないのに貰えないよ!」
いくら欲しくても活躍していないクリスタは即座に断った。
「よくよく考えたら、俺が処分すると面倒なことになりそうなんだ。最初に言っただろ? 対外的には魔王を倒したのは勇者だ。魔石とこの鎧があれば、誰も疑わないだろう」
「あ……言ってた……」
当初はクリスタの護衛を頼まれたが断って、ダンジョンボスの魔石をクリスタたちに売る予定だったが、スタンピードが起きてから計画が大きく狂っていた。なので、タピオは元の計画に修正したいようだ。
「でも……」
「金は要求するから気にするな。ま、払ってくれないだろうし、泣き寝入りでもするさ」
「プッ……いったいいつになったら信用してくれるのよ~」
タピオの冗談……ではなく、本気の言葉を聞いたクリスタは吹き出し、レジェンド装備を貰うことに申し訳なく思っていた気持ちは吹っ飛んだ。
「どう? 似合ってる??」
空色の鎧を装備したクリスタは、モジモジしながら三人に質問する。
「勇者様、かっこいいですよ!」
「うん。これぞ勇者って感じだ」
オルガは手放しで褒め、タピオも満更でもない褒め言葉。イロナに至っては……
「鎧ごときで強くなれんぞ。死ぬ気で精進しろ」
手厳しい。
「はい! イロナさん……タピオさん……本当にありがとうございました!!」
しかしクリスタは笑顔を振り撒き、深々と頭を下げる。
こうして魔王討伐は、たった二人の冒険者になされたが、その活躍は勇者クリスタと聖女オルガの胸に秘められるのであった。
この時は……