081 カーボエルテの魔王4
「グギャアアァァ~!」
「「やった~~~!!」」
タピオの渾身の一撃で拳を割られた魔王は血を撒き散らしながら叫び声をあげ、クリスタとオルガは歓喜の声をあげる。
「もういっちょ!!」
魔王が仰け反っているうちに、タピオは追い討ち。遠心力を使って、重たい剣をフルスイング。
剣の達人が見たらぶん殴られるような剣筋だが、この力業を腹に喰らったからには、いくら巨大な魔王であっても数メートル地面を削ることとなった。
「俺の攻撃力では、トドメまでは無理だな。あの時、逃げ帰っていて正解だ」
魔王は拳には怪我を負ったものの、腹にはアザ程度。相手の力も乗せてようやく大きなダメージを与えられるので、タピオは誇るでなく、自分の力を冷静に分析する。
「そうでもないぞ」
タピオはボソッと呟いただけなのだが、いつの間にか近付いていたイロナに聞かれていた。
「いや、無理だろ」
「五時間ぐらい戦えば勝てるはずだ」
「さすがに五時間は集中力が持たないよ」
「主殿ならいけそうなんだがな~」
過大に評価するイロナに、タピオは喜ぶに喜べない。
「俺は盾。イロナは剣。戦い方が違う。もしもイロナが協力してくれるなら、魔王でも楽勝なんだけどな」
「我が剣で、主殿が盾か……それはいい得て妙。気に入った」
「お! 協力して戦う気になってくれたか?」
「我も楽しんでからだ!」
別に褒めたり協力を求めるために近付いていたわけではなく、タッチ交代しに来ただけのイロナ。腕の怪我を自己再生で治した魔王に突っ込んで行った。
「うん。俺、いらなくね?」
魔王をはちゃめちゃに斬りまくるイロナを見たタピオは、協力の必要がないとツッコムのであったとさ。
* * * * * * * * *
イロナが魔王を四方八方から斬り裂くなか、クリスタとオルガは……
「もう、イロナさんだけでよくない?」
「ですね。ついて来た意味がありません」
血濡れの魔王を見て恐怖心はなくなり、安心してツッコんでいた。
「タピオさんがダメージを与えたぐらいで喜ぶ必要なかったね」
「まぁアレはアレで怖いですけどね」
「うん。どっちが魔王ってなるわ~」
「たぶんイロナさんが魔王です。もしもの時は、勇者様。頑張ってください」
「ムリムリムリ! イロナさんと戦うならあの魔王と戦うよ!!」
雑談はイロナの強さに移るが、もう魔王にしか見えないオルガは無茶振り。クリスタはまだ勝ち目のある魔王と戦うと言って笑い合うのであった。
* * * * * * * * *
魔王討伐はクライマックス。血濡れとなった魔王がめちゃくちゃに腕を振り回して暴れ出したので、イロナは一旦距離を取ってタピオと合流する。
「さて……大詰めだ」
「そうなの? まだピンピンしていると思うんだけど……」
魔王の動きはめちゃくちゃだが、先ほどより速くて力強く見えるタピオ。なのでイロナは首を横に振って説明する。
「あれは【発狂】だ。主殿も見たことがあるだろう?」
「あ~。たまに見るな。強いけど、放っておいたら死ぬから楽ちんだ」
「普通のモンスターなら死ぬが、魔王は死なん。放っておいたら回復するんだ」
「さすが魔王というべきか……面倒だな。でも、イロナなら、あの隙間に剣を入れられるだろ?」
「うむ、楽勝だ。だが、たまには協力して戦ってみたくなった」
「ここでか~~~」
タピオ、ガックシ。魔王の攻撃力が上がったいま、あまり近付きたくないのだろう。しかし、イロナに言われたからには行かないとあとが怖いので、渋々覚悟を決める。
「じゃ、回転を止めるように戦ってみるから、あとのことは任せた」
「意外と冷静だな」
「イロナがいるからな」
「フッ……主殿に頼られるのは悪くない」
「それじゃあ行きますか!」
簡単な打ち合わせをしたタピオは走り出し、魔王がブンブン振り回す拳目掛けて突進。また体のバネを使って剣を大振りする。
すると、ザックリと魔王の拳は割れたが、発狂状態の魔王は防御力が上がっていたのでそこまでのダメージとなっていない。
ただ、渾身の一撃で腕は後退させられたのでタピオの予定通り。そこに、魔王の逆の拳がタピオを襲う。
「オラ~!!」
そちらには、盾を前に構えての体当り。なんとか互角にもつれ込み、逆の拳が迫れば渾身の一撃。そして体当り。
魔王の回転は徐々に小さくなり、速度と力が弱くなって来た。
「さすが主殿だ!」
魔王の回転が止まる度にイロナのダッシュ。あまり深く斬り込まず、一発入れてはタピオの後ろに戻る。
そうしていたら魔王の動きは遅くなり、拳の威力も下がって来た。
「最後だ主殿!」
「おおぉぉ!!」
イロナが魔王を斬りながら駆け抜けると、タピオも正面から攻撃。魔王はイロナを攻撃したいようだが、タピオが剣を振り、盾をぶつけてそれを許さない。
その間にイロナは魔王の背中を深々と十字に斬り裂き、首までもを斬り落とした。
ドーンと魔王の巨体が倒れて数秒後……
空を舞っていた頭は地面に落ち、タピオとイロナを睨む。
「冒険者よ……今回は余の負けだ。しかし、余は必ず復活して地上に住む者を全て殺す。それまでの平和を楽しむのだな。わ~はっはっはっはっ……」
こうして魔王は捨て台詞を残し、ダンジョンに吸い込まれるのであった……