080 カーボエルテの魔王3
タピオは剣と踏み付けで魔王を地面に釘付けにしてダメージを積み重ねるが、相手は魔王だ。
「ふざけるな!」
魔王はマントの中に隠した翼を大きく開いてタピオの剣を防御。多少傷を負うが、タピオの攻撃が一瞬止まった隙に、起き上がりながらトライデントを振り回す。
タピオも盾は間に合ったのだが、怒りの魔王の攻撃が思ったより重く、数メートル押し込まれて地面に轍を作った。
「善戦しているな」
タピオが一息ついていると、イロナが隣に立った。
「なんとかな。思っていたより弱いしあの時も戦っていたら、冤罪に巻き込まれなかったかもしれない」
「それはどうだろうな」
「まぁあいつらじゃ、俺の手柄を取るだけ取って、今ごろ馬車馬のように働かされていたか……」
「そういうことを言っているんじゃない。見ていろ」
「ああ……」
軽口を叩いていたイロナは、タピオを置き去りにして魔王に突撃。魔王は体勢を整えてはいたが、全てのステータスで上を行くイロナの敵ではない。
一撃一撃、重たい攻撃を受けて魔王は満身創痍。残り僅かのHPとなり、タピオはもう倒してしまうだろうと思っていたら、イロナが魔王を大きく吹き飛ばしたところで戻って来た。
「ただ殺すところを見ていろと言ったのか?」
「違う。魔王を見ろ」
「ん? ……うおっ!?」
横になった魔王にタピオが目を移すと、爆発のような風が起こり、煙がトルネードとなって魔王を包み込んだ。
「死んだから、ああなってるんじゃないよな?」
「第二形態だ」
「第二形態……聞いたことがあるぞ!」
イロナの答えにタピオは昔読んだ攻略本を思い出し、イロナが見せようとしていた正体に気付いたようだ。
タピオが息を飲んでトルネードを見ていると、魔王らしき影は徐々に大きくなり、縦にも横にも倍近く膨らむ。
「ゴアアァァ!!」
咆哮と共に、魔王第二形態完了。纏っていたトルネードを弾き飛ばし、辺りに暴風が吹き荒れる。
「おお~。ドラゴンニュートだと、こうなるのか。なかなか強そうだ」
「若干俺と被っているから、手加減してやってくれ」
魔王の姿は筋肉ダルマ。竜の血が色濃く表に出て爪や牙が鋭くなっているが、フォルムがタピオに似ている。
イロナが嬉しそうにするので、タピオは自分が今からボコボコにされるように思えて仕方がないようだ。
「手加減などするわけがなかろう。そんな考えを持っていると、主殿は殺されてしまうぞ」
「なんで俺が……」
「行ってこい!!」
「ぐきゃっ!」
てっきりイロナが戦うものだと思っていたタピオが甘いことを言っていたら、イロナブートキャンプの再開。
タピオは背中を「ドコーン!」と押され、一人で魔王に挑むのであった。テンションの高いイロナの張り手でHPを少し減らしてから……
タピオは突撃させられたからには、死ぬわけにはいかない。自分の土俵に引きずり込んで魔王と戦う。
まずは剣で斬り付けるフェイントを入れ、先に魔王に攻撃をさせる。
「グルゥワアァァ!」
魔王は力強く右手で張り手。タピオは力で耐えるが、弾き飛ばされた。
「くぅ~……盾の上からでもけっこう効くな」
力も倍近く上がった魔王では、タピオの盾をも貫通して痛そうにする。そこに、四つ足で走って来た魔王の体当り。タピオは半歩横に避け、斜めにした盾で受けて力を逃がす。
これで痛みはほぼゼロ。タピオは反撃したいようだが、そう上手くいかないようだ。
拳に引っ掻き、噛み付きに尻尾薙ぎ払い。
魔王は凄まじい速さで攻撃を繰り出し、タピオは防戦一方となるのであった。
* * * * * * * * *
時は少し戻り、魔王が第二形態に変化した直後、クリスタとオルガは震えていた。
「さっきと威圧感がまったく違う……」
「あ、あんなの、人では勝てない……」
第二形態を見ただけで、今にもへたりこみそうな二人。
「えっ! タピオさんだけで戦うの!?」
「死んでしまいますよ! イロナさん!!」
そこに、イロナに背中を押されたタピオが飛び込み、弾き飛ばされた。
「やっぱりイロナさんじゃなきゃ……イロナさんでも無理じゃないの……」
「まるで勇者様のようです……」
魔王からの攻撃にまったく対応できていないタピオでは、イロナブートキャンプの餌食になってモンスターに甚振られる勇者を彷彿させる。
しかし、そんな不利に見えるタピオであったが、少し様子がおかしいようだ。
「あれって、全て盾で受けてない?」
「よくわかりませんが、まだ立ってますね」
「やっぱりそうだよ! タピオさんに魔王の攻撃は通じてない」
「本当ですか!? そこにイロナさんが加われば……勝てます!」
「うん! イロナさ~ん! タピオさんを助けてあげて~!!」
「一緒に戦ってくださ~い! お願いしま~す!!」
希望が見えたクリスタとオルガは、イロナに助けを求めるのだが……
「うるさい! 黙って見ていろ!!」
めっちゃ怒鳴られて口を閉ざすのであった。
* * * * * * * * *
その頃魔王の猛攻を受けるタピオは、防御は追い付くが反撃に出られずにじり貧。しかし、長年蓄えて来た経験はタピオを裏切らない。
狙いを定めての反撃だ。
魔王が大振りに振り下ろそうとした拳に合わせ、タピオは全身のバネを使い、回転しながら下からの斬り上げ。勢いの乗った魔王の拳にタピオの剣が直角に食い込み、手首まで斬り裂くのであった。