077 魔王討伐9
「ふぅ~……やっぱ四天王は硬いな」
デュラハンがダンジョンに吸い込まれるなか、タピオが一息ついているとクリスタが近付く。
「タピオさんって、スピードだけでいったら私と変わらなくない?」
「ん? 俺は鈍足だから、そうかもしれないな」
「だよね。なのに、どうしてあんなに速い攻撃を捌けるの?」
「主殿は、相手の動きを先読みしているのだ」
クリスタからの質問は、いつの間にか近付いたイロナが答える。
「先読み??」
「勘みたいなものだ。我もそうやって戦っている。主殿もそうだろ?」
「いや、俺のはイロナとは違うと思う……」
「どういうことだ?」
「剣を持つ奴って、だいたい型が決まっているだろ? 盾を持っている奴に対しては、型はさらに少なくなるから、誘導するようにしておけば簡単に捌けるって感じだ」
「ほう……それは面白そうだな。一手ご教授願おうか」
「やめてくれ。絶対に盾が壊れる」
イロナに買い与えた剣では、よくて矛盾。悪くて真っ二つになる未来しか思い付かないから必死に止めるタピオ。さすがに剣が折れると聞いてイロナはやめてくれたが、帰ってからタピオは実験に付き合わされるようだ。
イロナが乱入したせいで、タピオの誘導とイロナの勘の説明が聞けなくなるクリスタであった。
「あの……最後の部屋に行かないのですか?」
戦闘職の話に入っていけず、忘れられていたオルガの言葉で、一行は移動するのであったとさ。
「リッチか……弱いし主殿たちでやれ」
「「「は~い」」」
最後の四天王はリッチエンペラー。四天王となって魔法の威力もMPも跳ね上がっている魔法使いのアンデットなのに、イロナは弱いと決め付ける。タピオたちはそんなわけないだろと思いつつ、戦闘に向かう。
「いちおう言っておくけど、絶対強いからな?」
イロナから離れると、タピオは確認事項をクリスタとオルガに説明する。
「わかってるよ。イロナさんにとってはでしょ」
「ええ。あの禍々しいオーラが弱いわけがありません」
「だよな。じゃ、さっきと同じ作戦で……」
もうすでに確立している盾役での作戦を言い渡すが、オルガはビシッと手を上げる。
「私の魔法が効くと思います!」
「あ、私も光魔法で遠距離攻撃できる!」
「じゃ、そんな感じで。支援魔法もよろしく~」
ようやく出番が来たとオルガは息巻き、続いてクリスタも手を上げたが、タピオは軽い。なので二人は納得いかず、絶対に活躍してやると闘志を燃やしていた。
「【ホーリースピア】!」
「【ホーリーサークル】!」
タピオがリッチエンペラーからの魔法を盾で防いでいると、クリスタの放った光の槍がリッチに突き刺さり、オルガの詠唱した光の柱がリッチを包む。
「「あ……あれ~~~??」」
「やっぱな……」
二人の魔法はリッチエンペラーに当たったが、効いている素振りがない。どうやらタピオは、二人のレベルが低いから通じないと思っていたようだ。
「ほら、俺たちに支援魔法を掛けてくれ」
「何かの間違いでは??」
「間違いじゃない。あの調子じゃ減っていて一桁だ」
「「ううぅぅ」」
タピオに現実を告げられ、二人は肩を落とす。だが、タピオから急かされて、戦闘に集中するのであったとさ。
タピオがジリジリ前に出るなか、リッチエンペラーは攻撃魔法を連続で放つ。炎に氷に雷。どんな魔法でもタピオの盾は通さないが、真後ろにいるクリスタには微妙にダメージが入っていたのでオルガに回復してもらっていた。
それでもリッチエンペラーは魔法攻撃しかして来ないので、タピオは前進。しかし、リッチエンペラーは動きながら魔法を放つので、なかなか接近戦に持ち込めないでいた。
「ひょっとして……ピンチ??」
一向に剣の射程範囲に入れないタピオに、クリスタは心配そうに声を掛ける。
「いや、もうじきだから集中力を切るな」
「う、うん……」
タピオの台詞はピンチを感じでいる人間の台詞ではなかったので、クリスタは信じてタピオの合図を待つ。
「行くぞ!!」
「はい!!」
タピオの合図と共に前に出たら、あっさり接近戦。リッチエンペラーは呪文も唱えられずにタコ殴りとなる。
何故、そうなったか……
タピオは何も考えずに前進していたわけではない。前に出ながらリッチエンペラーの動く場所を制限して、部屋の隅に追い詰めていたのだ。
追い詰めた場所はリッチエンペラーの後方と横に壁がある場所。タピオとクリスタが前と横で道を塞ぐので逃げ場なし。呪文の詠唱もできずにボコボコにされる。
ただし、クリスタとはレベル差があるので近接戦闘の苦手なリッチエンペラーでも分がある。リッチエンペラーはクリスタを殴り飛ばして脱出しようとする。
その場合は、タピオが位置を変えて道を塞ぎ、一人でボコスカ。オルガに回復してもらったクリスタが戻るとタイミングを合わせて二対一に持ち込む。
それを数度繰り返せば、リッチエンペラーはHPが尽きてダンジョンに吸い込まれるのであった。