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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
04 カーボエルテ王国 王都1
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068 スタンピード10


 イロナに死地に送られた勇者クリスタは、格上のキングヒュドラ相手に苦戦中。いくら首がひとつ減っているといっても、多彩なブレス攻撃を持ち、防御力の高い鱗に守られているので、クリスタの攻撃は少ししかダメージが入らない。

 イロナには死んで来いと言われていたが、生きて戻っても不甲斐ない戦いをしたならば殺されかけないクリスタは、必死に頭を使って戦う。


 ブレスや直接攻撃をかわし、タピオが付けた足の傷に剣を叩き込む。首が迫れば目を狙い、視覚を奪う。

 だが、クリスタの攻撃は軽すぎるので、当たった反動でバランスを崩したところに蹴りを喰らい、振り回した首で殴られる。


 クリスタは粘っているものの、戦い始めて5分後には満身創痍。立っているのもやっとだ。

 そこに、キングヒュドラの範囲攻撃。三つの首から放たれた、炎、氷、風のブレスは、フラフラのクリスタでは避けきれない。もう、イロナの助けを待つしかないのだ。


「くっそ~~~!!」


 しかしクリスタはその時、イロナの顔よりも国で暮らす多くの民の顔を思い出し、驚く動きをする。


 三つの口から放たれたブレスを剣で斬り裂き、その斬撃はキングヒュドラに迫る。


「はは……強すぎるよ……」


 もちろんクリスタの攻撃は通じず、キングヒュドラの鱗を削っただけ。多少大きく斬れて出血させられたが、命を刈り取るにはほど遠かった。


 クリスタは全ての力を出し切り、前のめりに倒れるのであっ……


「よくやった。やはり、勇者とは面白い」


 いや、いつの間にか近付いたイロナに抱き寄せられ、キングヒュドラが血しぶきをあげて倒れる姿を最後に、クリスタは意識を失うのであった。



「まったく無茶させる……」


 クリスタを抱くイロナに走り寄ったタピオは、ダンジョンに吸い込まれるキングヒュドラを見ながら呟く。


「ククク……我の言った通りだっただろ?」

「ああ。最後の攻撃は、レベル差がなかったら確実に倒していたな。何か違う力が、勇者の背中を押したように俺には見えた」

「うむ。それこそ、勇者の勇者たる由縁なのだろう。我も少し興奮しているぞ」

「あまりいじめてやるなよ?」

「強くなるのが楽しみだ。クックックッ」


 イロナは話を聞かずに怖い顔で笑うので、タピオは恐ろしくなるがそんな場合ではない。瀕死のクリスタをイロナから受け取ると、ポーションをゆっくり飲ませて寝かせる。

 それからドロップアイテムを回収したらクリスタをお姫様だっこで運ぶのだが、何やらイロナが頬を膨らませてローキックして来るので、肩に担ぎ直して移動するのであった。





「勇者様!?」


 移動した先は、地下40階のセーフティエリア。タピオの担いだボロボロのクリスタを見た聖女オルガは、心配して駆け寄って来た。


「大丈夫だ。生きている。治療は任せるよ」

「ホッ……タピオさんたちは大丈夫ですか?」

「ああ。ちょっと眠いぐらいだ。そうそう……」


 タピオはオルガにクリスタを預けると、簡単な経緯やスタンピードは止まったと説明した。


「たった二人で止めたのですか……」

「勇者も頑張ったんだから、起きたら褒めてやれ。それじゃあ俺たちは寝るから……」


 オルガは驚いていたが、タピオは今後の指示を出す。

 しばらく階段を見張っていること。もしも何か上がって来たらタピオだけを起こすこと。騎士だけでモンスターと戦わないこと。それと時計を持っているなら、今から八時間後に起こすようにと指示を出して、一度小部屋から出る。

 外で何をするかというと、濡れタオルで体を拭いていた。オルガが気になって外に出て来たが、タピオの裸を見て「不潔です!」とか言って逃げて行った。イロナも裸だったが気付かなかったようだ。


 綺麗さっぱりになった二人は小部屋に戻り、端で食事を食べたら、イロナのリクエストで二人で入れる寝袋で眠る。タピオは男のくせに何かされないかと不安そうだったが……

 一部の騎士は、「こんな美人と羨ましい」と見ていたが、またオルガが「目が腐る!」とか言って見ることを禁じていた。



 八時間後、頼んでいた起床時刻に起こされたタピオとイロナは、目を擦りながらオルガを見る。


「ふぁ……何か近付いて来なかったか?」

「はい。タピオさんが言った通り、スタンピードは止まったようです」

「じゃあ、ここはしばらく安全だ。外に出よう」


 スタンピードが止まりさえすればモンスターは階段を使わなくなるので、魔王がダンジョンを出ようとするまではセーフティエリアは有用。

 タピオも一度魔王の発生したダンジョンに潜ったことがあるから知っていたが、ここは噂で聞いたことがあると嘘をついていた。


 タピオとイロナが腕を組んで小部屋から外に出ると、そこにはクリスタが剣を振っている姿があった。


「こんなところで訓練なんて、真面目だね」

「あ! おはよう!!」


 後ろからタピオに声を掛けられたクリスタは、額にうっすら浮かぶ汗を拭って振り返る。


「何か掴めたような気がするから、忘れないうちに剣を振っておきたかったの」

「ふむ……その意気、我と戦うまでゆめゆめ忘れるな」

「やっぱり戦わなくちゃいけないんだ。あははは」


 イロナに激励されたクリスタは苦笑い。タピオはかわいそうに思うが、自分もイロナのターゲットに入っているから早く成長してほしくも思っている。


「いまの力なら、その剣も片手で振れるだろ。盾も使ったらどうだ?」

「盾??」

「周りともレベル差が生まれたし、当分守るように戦わないといけないしな」

「確かにタピオさんのような、誰かを守る戦い方はいいね」

「俺のは戦士の盾役だ。勇者なら勇者の盾の使い方を見付けろ」

「はい!」


 タピオはドロップアイテムの中にAランクのショートシールドがあったことを思い出し、クリスタにプレゼント。軽くレクチャーしていたら、オルガがタピオたちの食事も用意してくれていた。



「さてと、そろそろ行こうか」


 食事を終えると、タピオはイロナを見る。


「ああ。行くぞ」


 するとイロナはクリスタを見るので、クリスタはギョッとする。


「えっと……私なんかが行っても足手まといになるのでは……」


 もちろん、イロナブートキャンプを恐れているクリスタはあまり行きたくない。


「強い敵と戦いたいだろ? そうだろう??」

「は、はひ!!」


 イロナに睨まれたからには、イエスとしか言えないクリスタ。


 こうしてタピオパーティに、勇者クリスタが正式加入するのであった。


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