064 スタンピード6
スタンピード第三波も完全に停止すると休憩することとなり、タピオたちは階段に戻って腰を下ろした。
「おい、まだHPは全快していないだろ? いまのうちに聖女に治してもらって来い」
「わかった!」
イロナがタピオに持たれて目を閉じると、タピオはコソコソとクリスタを逃がした。
「すぐに戻って来るのだぞ?」
「は、はい!」
しかしイロナには筒抜けで、クリスタは駆け足で階段を上って行くのであった。
* * * * * * * * *
「ボロボロじゃないですか! 何があったのですか!?」
仲間の元へ戻ったクリスタは、聖女オルガに心配されるが答えている余裕はない。
「話はあと! 早く治療して! じゃないと魔王に殺される!!」
「魔王がもう迫って来たのですか!?」
「そっちの魔王じゃない! いいから早くして!!」
魔王と聞いて、タピオたちが下のフロアで戦っていると思ったオルガは早とちり。それに魔王が二人に増えているので困惑中。しかしクリスタの剣幕は急がないといけないと察して、ただちに治療を開始した。
「はあ……魔王とは、イロナさんのことでしたか」
治癒魔法を掛けながら、クリスタから今までの成り行きを聞いたオルガは納得。オルガもイロナのことを魔王だと思っていたので意外と早かった。
「でも、あの二人は本当に凄い。間違いなく、魔王だって倒せるよ」
「自信お有りなのですね」
「だって私が死にそうな敵を、何百匹倒してもケロッとしてるのよ? 自分のこの目で見たのに、いまだに信じられない」
クリスタの見た中で、信じられない事柄はタピオの変形だったのだが、イロナの恐怖が一歩だけ先をいっている。
「これで希望が持てるのですね……」
「ええ。でも、希望なんかじゃない。これは確信。必ずこの国は救われる!!」
クリスタの力強い言葉に、今まで暗い顔をしていた一行は、ダンジョンに入って初めて笑顔を見せる。勇者の言葉とは、それほど力があるのだろう。たとえ他人の力で救われたとしても……
「はい! 治りましたよ!!」
「う、うん……ありがとう……」
勇者のHPは全快。国が助かると聞いて気分晴れ晴れのオルガとは違い、クリスタは足取り重く小部屋から出て行こうとする。
「お疲れのようですが、また下に行くのですか?」
「うん。魔王に呼び出されてるから……」
戻った頃より疲れているクリスタは、そう言い残してフラフラと歩いて行くのであった。
* * * * * * * * *
クリスタが足取り重くタピオたちの元へ戻ると、イロナはタピオの膝に頭を乗せて寝息を立てていた。
「イロナさん、寝てるの?」
「ああ。もうすぐ朝になりそうだからな。テンションも高かったし、さすがに疲れたんだろ」
「そっか」
疲れるなんて、イロナも人間だったのだとホッするクリスタ。ただ、疲れた理由がテンションだったのが、少し引っ掛かっていた。
「タピオさんは疲れてないの?」
クリスタは階段に腰掛けているタピオの隣に座る。
「けっこう疲れたかな? イロナに合わせるのは大変だ」
「じゃあ、私が見張りをしているから、いまのうちに少し眠りなよ」
「いや、お前のほうが疲れているだろ。俺はまだまだ動けるから寝ておけ」
「いやいや、タピオさんのほうが……ふぁ」
今まで気を張っていたクリスタは、イロナの眠る姿を見てあくびが出てしまった。
「ほらな。無理するな」
「じゃあ、お言葉に、甘え…て……」
クリスタは死闘を繰り広げたこともあり本当に疲れていたので、最後まで喋れずに崩れるように倒れる。
「寝ろとは言ったけど、そこでか~」
両手に花。いや、両太ももに花。タピオは慣れないハーレム展開にどうしていいかわからずポリポリ頭を掻くのであった。あと、綺麗な顔とかわいい顔が股間の近くに乗っているので、やや膨らむのであったとさ。
それから二時間後……
「そろそろ起きろ」
「むぅ~……美味しそうなソーセージ……」
「そこを噛むな!!」
ゆさゆさ優しく起こしていたタピオに、寝起きの悪いクリスタのクリティカルヒット。甘噛みにタピオのタピオは反応して、「これこれ~」とイロナと比べてしまう。
「ほう……主殿は、そういうのが好きなのだな」
「いだ~~~!!」
それを見ていたイロナはクリスタをポイッと投げ捨てて、本当のクリティカルヒット。タピオのタピオに噛み付き、過去最高のダメージを受けるタピオであった。
「つう~……いきなり何するのよ~……キャッ! こんな所で何してるの!?」
痛そうに目覚めたクリスタは、二人がイチャイチャしている姿を見て驚く。事実は猛獣にタピオが至る所を噛まれているだけだが……
そうしてタピオのHPが約3分の1減ったところでイロナは満足し、タピオは涙目で解放されていた。
「予想では、そろそろ最後のヤツらが到着しそうだから起こしたんだ」
「さっきのは?」
「少し腹に入れておこう」
「無視なのね?」
至る所に歯形を付けたタピオは真面目な顔で言っても台無し。しかしクリスタに何を言われようとも、その件には触れずに適当な携帯食を頬張っていた。
二人がガッツいて食べているので、お腹のすいていた勇者も手を伸ばす。ただ、二人の食べている量はぜんぜん少しじゃなかったので、「そんなんで大丈夫?」とか考えていた。
食事を終え、装備を整えていたら、このフロアの奥のほうから地響きが轟く。
「来たな」
「ああ」
「うわっ……」
スタンピード第四波は、ダンジョン最下層に巣食う巨大モンスター。その圧倒的な迫力にイロナは目を輝かせ、タピオは面倒くさそう。唯一まともな反応は、恐怖に震えるクリスタだけであった……