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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
04 カーボエルテ王国 王都1
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062 スタンピード4


「でも、やっぱりタピオさんは、他国の勇者と聖女に会ったことがあるんだね」

「あ……しまった……」


 タピオに酷いことを言われて一通りぷりぷり怒っていた勇者クリスタは、冷静になるとタピオの痛いところを突く。


「確かにおじ様もお兄様も少しおごったところがあったから、平民の皆さんに冷たかったと思う。でも、私は違うからね?」

「……そう言って騙すのだろ?」

「どんな酷い人に会ったのよ~」


 何を言っても信じないタピオに、クリスタは真面目な顔で語る。


「いい? 私は無理矢理勇者にさせられたけど、勇者になったからには、民のために身を粉にして働く所存よ。タピオさんの情報だって誰にも話すつもりはないし、この場で一筆書いて血判も押すから、どうか信じて」


 勇者の覚悟。王女としての務めを聞いたタピオは……


「紙に書いた誓約書なんて、破れば何の役にも立たないからな~」


 まったく信用しない。聖女に書かせても破られたので致し方ないのだが……


「ちょっと! その勇者と聖女連れて来てよ! 説教してやるわ!!」


 クリスタはタピオの説得よりは、二人を呼び寄せたほうが早いと思ってしまうのであった。



「もういいだろ。さっさと上に戻れ」


 クリスタの質疑応答に嫌気が差したタピオは面倒くさそうに言う。


「でも、勇者としては……」

「足手まといだ」

「でも!」

「じゃあ、ちょうど三匹来たし、一匹譲ってやる。あいつを一人で倒せ」


 邪険にされてもなかなか引かないクリスタに、タピオは遠くを羽ばたく巨大な飛行モンスターを指差す。


「ワイバーン……いや、その上位種……」

「キングはイロナがやりたそうだし、お前はジェネラルな」


 タピオの無茶ぶりにクリスタは生唾を飲み込むが、顔をパーンと両手で叩いて気合いを入れる。


「わかった。やってやるわ!」

「俺たちは助けないからな」

「うん!!」


 クリスタからいい返事をもらうと、タピオはいまにも走り出しそうなイロナを見る。


「もういいぞ」

「我が全て倒してやる!」

「さっきの話、聞いてたか?」


 イロナは戦いたすぎて話を聞いていない。ダッシュで三匹の大きなワイバーンに突撃する。


「はぁ……俺の経験値……」


 夜の楽しみを早く手に入れたいタピオは、ちょっとでも経験値を稼ごうとイロナに続く。


「あ……えっと……私も行かなきゃ!」


 そして掛け声も指示もなくぬるりと始まった戦闘に、クリスタも遅れまいと駆け出したのであった。



 先頭を行くイロナは斬撃を飛ばすが、三匹のワイバーンに避けられて散開されてしまった。これは、まとまっていられると戦い難いとイロナは判断しただけ。

 隊列が乱れているうちに、イロナは一番大きなワイバーン、ワイバーンキングに突撃する。


「すげっ……」

「うそ……」


 その突撃の仕方は、空気を踏んでのエアウォーク。タピオとクリスタは驚いていたが、そんな場合ではない。


「どりゃ!!」


 タピオはすぐに気を取り直して、腰袋から取り出した鉄球を投げる。ワイバーンジェネラルはイロナに注意が行っていたので気付くのが遅れ、タピオの豪速球を翼に受けて墜落する。


「勇者はあいつをやれ」

「おかまいなく。【ホーリーアロー】!」


 タピオに声を掛けられて動き出した勇者は複数の光の矢を放ち、ワイバーンジェネラルを攻撃。


「あ……あっれ~?」

「チッ……ふん!!」


 いちおう【ホーリーアロー】は全弾命中したのだが、威力が弱すぎてワイバーンジェネラルにはさほどダメージになっていない。なのでクリスタは頭をポリポリ掻いてほうけていたら、タピオが鉄球を投げて落としてくれた。


「ほら、落ちたぞ。あいつはお前のだ」

「かっこつけておいて、なんかすいません……」

「いいから行け。あと、放っておいたら逃げて行くからな」

「はい~」


 恥ずかしそうなクリスタに、タピオはいちおうアドバイス的なことを伝える。これは最終手段。攻撃をせずに横にズレれば、モンスターは階段に向かって行く可能性があるので、運がよければ命は助かる。

 クリスタはタピオのアドバイスを理解したが、気合を入れ直して精悍な顔に変わった。自分の後ろには、多くの民がいるのだ。逃げるわけにはいかないのであろう。


 タピオはアドバイスを終えた瞬間に走り出し、クリスタも遅れて駆ける。


 ワイバーンジェネラルに辿り着いたタピオは、剣と盾でボコスカ殴る。

 さすが上位種とあってHPも防御力も高いらしく爪や尻尾の反撃はあるが、盾は崩せずタピオは一歩も後退しないのであった。


 ほぼ同時にワイバーンジェネラルに迫ったクリスタは、タピオに注意が行っているところに剣を抜き、翼に一撃。

 いくらいい剣であっても傷は浅いが、そこに追加で【ホーリーランス】を突き刺したので、タピオのダメージと相俟(あいま)って完全に飛べなくなった。

 クリスタはタピオとは違い、動き回ってワイバーンジェネラルの攻撃を避ける。その過程で隙を見付ければ、剣や魔法で反撃。

 ダメージ自体は小さいが、コツコツと時間を掛ければ倒せるとクリスタは手応えを感じている。



 そんな中イロナはというと、ワイバーンキングと空中戦を繰り広げ、力業(ちからわざ)で自身の空中の軌道を変え、一気に近付いて首を一刀両断。どうやら綺麗に首を斬り落としたかったから、空中戦をしていたようだ。

 しかも、早くに終了したのでタピオの獲物を横取り。急に空から現れて、ワイバーンジェネラルの首を斬り落とした。


「早いな」

「この剣のおかげだ。……うん? もっと血を吸いたいのか。わかったぞ」

「気に入ってくれてよかったよ」


 横取りされてもタピオは冷静なもの。イロナが剣と喋っていたように見えたのは、ちょっと気になるタピオであったとさ。


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