059 スタンピード1
「固まれ! 左の壁から転送魔法陣を探すぞ!!」
地下40階のセーフティエリアに到達しても、そこはモンスターの巣窟。続々と地下に向かう階段から湧き出している。
勇者パーティが防御体勢で壁にくっついて移動するなか、向かって来るモンスターはタピオとイロナの相手。二人で倒している間に転送魔法陣を探す。
「あった! あったよ!!」
「よし! 全員中に入れ!!」
クリスタからの報告を受けたタピオは勇者パーティを脇の小部屋に入れると、イロナと軽く言葉を交わしたタピオも中へ飛び込んだ。
「くそっ! 使えないか……」
残念ながら、転送魔法陣はフロアチェンジの影響を受けてエネルギー不足。勇者パーティが何度乗っても地上には戻れなかった。
「どうしよう?」
「一日か二日待てば使えると思うから、それまでここで凌ぐしかないな。まぁ方向音痴のモンスターしか寄って来ないから、幾分マシだろ」
「そう……タピオさんはいろいろ詳しいんだね」
「冒険者稼業が無駄に長いだけだ」
クリスタの質問に簡潔に答えたタピオは、小部屋の出口に少し歩いてから振り返る。
「そんじゃ、俺はしばらく外で戦って来るよ」
「え……危険だよ!」
「お前たちではな。絶対に外に出るなよ。それと、もしもの場合は疲れないようにローテーションで戦うんだぞ」
「待って……」
クリスタが止めようとも、タピオは暗い顔をして外に出て行くのであった。
タピオは剣を振りながらモンスターを斬り捨てているイロナに近付くと、さっそく怒鳴られる。
「ようやく来たか。こんなレベルアップチャンスは滅多にないのだから無駄にするな!」
タピオが暗い顔をしていた理由は、本当は小部屋に引きこもっていたいがため。しかし鬼軍曹のイロナにすぐに戻るように言われていたので、渋々出て来たのだ。
「ああ。悪い。まずは階段を押さえたいんだが……」
「ふむ。出て来たところを一網打尽か。よかろう」
イロナの考えはタピオとは違っていたようだがすんなりと受け入れられたので、モンスターを倒しながら地下へと進む階段に走る。
二人はその前で立ち塞がり、どんなモンスターですら通さない。イロナは斬り続け、タピオは階段に押し戻すように倒す。
「フハハハ。そんな戦い方があったのか。我もマネしてみよう」
タピオの倒し方は、モンスターを殺しきらないでタイムラグを作る方法。広さに制限のある階段ではモンスターが詰まって身動きが取れなくなるので、少しはインターバルが取れるのだ。
ただ、イロナの場合は、まだモンスターが弱いからか一撃で倒してしまっているので上手くマネができないようだ。
それから一時間、モンスターの数が疎らになり、ついに階段からモンスターが出て来なくなった。
「これで終わりじゃないよな?」
「当然だ。これからもっと楽しくなるぞ」
「それじゃあ俺も装備を整えるよ。しばらく頼むな」
モンスターによっては、大きさもスピードも違うから到達速度に差が出る。さらには、もっと地下の強いモンスターは距離があるので、到達までに時間が掛かるのだ。
このことを知っているイロナは嬉々として喜び、タピオはため息まじりに形が歪な黒い鎧を装備する。
それからタピオはドロップアイテムを拾っていたが、3分の2は時間切れでダンジョンに吸い込まれていた。
「ここで倒すのは楽なのだが、もう少し開けたところで戦ったほうが時間が短縮できるぞ」
ドロップアイテムを全て回収できなかったタピオが嘆いていたら、イロナはナイスアイデアっぽいことを言って来た。
タピオはそのアイデアは、イロナが楽しむためのアイデアにしか聞こえなかったが、応えるしかない。イロナの顔が怖かったから……
「下に移動してみるか」
「うむ!」
こうしてタピオとイロナは、地下41階に下りて行くのであった。
* * * * * * * * *
「どうでしたか?」
「凄かった……」
一方その頃、こっそりタピオたちを見ていたクリスタが小部屋に戻り、オルガたちに報告している姿があった。
「たった二人で、モンスターを一匹も後ろに通さなかったよ」
「お強いとは思っていましたけど……さすがに疲労が溜まっているのでは?」
「ぜんぜん。息もあがってるように見えなかった」
「なんだか勇者様より勇者様に見えますね」
「本当に……こんな勇者で恥ずかしい」
レベル不足の勇者では、自分の不甲斐なさが恥ずかしいので肩を落としている。
「あ、そういえばタピオさん。いまさら鎧を装備していたから、戦士で間違いないみたい」
「戦士であんなに強くなれるなんて凄いですね。それならば、勇者様もレベルが上がればタピオさんみたいな戦い方ができますよ」
「そうだといいんだけど……イロナさんには死んでも勝てない気がするわ」
「あの人はなんだか異常な覇気がありますね。もしかしたら、他所の国の勇者様では? それならば強さも納得できます」
「う~ん……たまにすっごく怖いから、魔王と言われたほうが私は納得いくかな」
「実は私もです……」
オルガはオブラートに包んでイロナの強さの秘密を語ったのだが、クリスタが魔王と言った瞬間、全員が頷いた。なので、いくらいい人設定のオルガでも自分を偽ることをやめて、イロナを魔王認定するのであったとさ。