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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
04 カーボエルテ王国 王都1
58/330

058 上級ダンジョン7(王都)


「それでね~」


 タピオが断っても、勇者クリスタの身の上話は続く。ドロップアイテムを拾い終わっても、イロナと腕を組んで先々歩いても、次の戦闘が終わっても続くので、全てを聞いてしまったタピオ。


 どうやらクリスタは、やりたくて勇者をやっているわけではなかったようだ。

 元々、勇者は代々この国の王族が独占しており、第一王子が死んで第二王子に移行するはずであったが、ダンジョンの難易度が上がっていたから次期国王の第二王子は使えない。なので、三番目の王女であるクリスタにお鉢が回って来た。

 ただ、王女は王女で聖女にする計画があった。教会の権威も王族に取り込めば、この先は安泰。そう考えてクリスタに聖女の英才教育を行っていたのだが、第一王子が死んでからは計画が狂う。


 クリスタを勇者と聖女、どちらにするか悩んだ王は、代々独占を続けていた勇者を取ることに決めたのだ。


 そこでも問題が発生。教会は教会で国から多額の寄付を受けており、次期聖女は周りの反対を押し切ってクリスタを捩じ込んでいたので、現聖女は交代の機会を延ばして高齢となっていた。

 勇者は聖女の祝福を受けて初めて転職できるのだが、この老婆では短期間で行われる二度目の勇者転職に体が持たないので、聖女自体も交代を余儀なくされた。


 こうして低レベルの勇者と聖女が完成してしまい、上級ダンジョンクリアには時間の掛かる結果となったのだ。



「ま、まぁアレだ。お兄さんを亡くしてお悔やみ申し上げる」


 長時間の愚痴のような説明を聞いたタピオは、掛ける言葉はこれしかなかったようだ。


「お兄様が亡くなったことは悲しいけど、それよりムカつき度合いが勝っているわ。普段から『オレ最強~!』とか言っていたから、無理して突っ込んだのよ」

「勇者ってのは、そんな奴ばっかなのか?」

「うちのお兄様は筋肉バカだから……でも、そんな奴ばっかって、タピオさんは他国の勇者に会ったことがあるの?」

「いや、噂話で聞いただけだ」


 タピオの失言。第一王子はタピオの勇者像と合致してしまったので、クリスタに無駄な情報を与えたから茶を濁す。


「そんな勇者ばかりで、他所の国は大丈夫なのかな?」

「さあな。国が存続しているってことは、それなりに強いんじゃないか? しらんけど」


 あまりクリスタと話を弾ませたくないタピオは話を打ち切るが、クリスタは一人で愚痴を言い続けるから耳に入る。

 そうしてモンスターを倒しながら進み、通路を歩いているところで突如地面が揺れ、悲鳴が上がる。


「「キャーーー!」」

「「「「「うわわわわ」」」」」

「フロアチェンジだ! 道の中央に集まって円陣を組め! 全方位確認を(おこた)るなよ!!」


 初心者揃いではタピオの指示にすぐには応えられないので、タピオが揺れに耐えながら皆を押しくら饅頭のように腕を組ませ、壁を注視させる。

 タピオたちの固まった場所は部屋から部屋を繋ぐ通路だったため、壁がぐにゃぐにゃと動き、立っているのがやっと。それだけでなく、壁がタピオたちに迫るので、その都度広い方向に逃げる。



 タピオは常に声を張り上げ、指示を繰り返し、どれだけ時間が経ったであろう……


 ようやく揺れが収まり、皆は尻餅をついた。


「ふぅ~……全員無事だな」


 タピオは人数を確認して、一息つく。その次には、嫌な笑みを浮かべているイロナに目を移した。


「俺の経験したフロアチェンジよりも長かった気がするんだが……もしかして……」

「フフ。やはり主殿は勘がいいんだな」

「マジか~。つい先日、フロアチェンジが終わったのを考えると……」

「周期など関係ない。主殿の思っていることが答えだ」

「ここでか~~~」


 タピオは予感が外れてほしいのだが、イロナは笑いながら答え合わせをする。その呑気なやり取りを見ても、クリスタたちは何を言っているのかわからないらしく、質問するしかない。


「いったい二人は何の話をしているの?」


 その質問に、タピオは先ほどまでとは打って変わり、真面目な顔になった。


「心して聞いてくれ。魔王が誕生した」

「「「「「へ……??」」」」」

「呆けている場合じゃない。これからスタンピードが起こる。40階に走るぞ!」


 タピオが大声を出してもイロナ以外は呆けたまま。だが、時間が差し迫っていることもあり、これからの対処法を大声で語るのであった。



「行くぞ!!」

「「「「「は、はい!!」」」」」


 先頭はタピオ。いきなり走り出したので、勇者パーティは遅れまいと続き、そのあとをイロナが追う。


 この配置は、スタンピードを全員が生き残る可能性が高い配置。

 そもそもスタンピードとは、全てのモンスターが出口に一直線に向かう現象。ダンジョンが冒険者を排除し、外でモンスターを暴れさせ、その時間を使って強いモンスターや四天王を魔王が生み出すと偉い学者は予想している。

 事実、スタンピード後に潜ると、フロアボスの難易度が上がり、最下層近くになると四天王も配置されている。さらに時間を置くと、四天王に守られた魔王が地上に出るのだ。



 タピオは走りながら向かって来るモンスターを盾や剣で両側に弾き飛ばしながら走り抜け、全員が続く。これは、スタンピード対処法その二。

 スタンピードで興奮したモンスターは前進しかしなくなるので、置き去りにすればめったに戻って来ないのだ。ちなみに対処法その一は、モンスターに追い付かれないように入口に走るだ。

 もしも置き去りにできずに勇者パーティが襲われたならば、殿(しんがり)のイロナが対処。本当は弾き飛ばすだけでいいのだが、イロナの攻撃力なら一撃で沈んでいる。


 モンスターを弾き飛ばして必死で走り、階段を駆け下り、なんとか地下40階のセーフティエリアに到着するタピオ一行であった。


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