057 上級ダンジョン6(王都)
「じゃ、そんなわけで進もうか」
作戦が決まると、タピオたちは歩き出す。
作戦の概要はこうだ。リーダー不在では大人数で進むには危険なので、タピオがその都度指示を出すことになっている。その際、急に声を掛けることがあるかもしれないので、お互い名前だけは交換していた。
戦闘も、ほとんどタピオとイロナだけ。ただ、後ろから攻撃される危険もあるので、その場合は勇者クリスタが指揮を取ることになった。
次のセーフティエリアまでの階層は残り三階なので、勇者たちから反論はない。逆にベテラン冒険者の動きを勉強できると喜んでいた。
タピオとイロナを先頭にゾロゾロ歩き、戦闘になるとイロナが飛び出す。笑いながらイロナが剣を振るなか、タピオはイロナが漏らしたモンスターの処理とアイテム拾い。
後ろから勇者パーティが攻撃される場合もあるが、てこずっている場合は手の空いたタピオが向かう。
そうして先に進むと、タピオが罠に嵌まって力業で脱出。皆には安全な場所を探すから待ってるように言って、タピオはガンガン罠に嵌まる。
「あの~……タピオさんは、罠がわかって進んでいるの?」
攻略法とはあまりにも違っていたので、イロナに質問するクリスタ。
「主殿は頑丈だからな。罠ではダメージにならん」
「はあ……それで、タピオさんは戦士なのに、どうして武道家のようなかっこうをしているの?」
「……いろいろあるんだ。戻って来たから、もう行くぞ」
クリスタの質問に、イロナは言っていいかわからないので打ち切る。
そうして進むと広い空間に出るが、そこはモンスターの巣となっていて、先行していたタピオは気付かれる前に戻る。
「キラーアントの巣だ。面倒だから突っ切りたいけど、無理だよな?」
「我と主殿ならいけるんだがな」
子供ぐらいの大きさの蟻、キラーアントはあまり経験値が入らないし魔石も小さいので、タピオは避けたいようだが足手まといがいる。
イロナならあっという間に倒せると思って質問したら、イロナも弱すぎて同じ意見だった。
なので、タピオは勇者たちに指示を出す。
「騎士は盾役に徹しろ。攻撃は危険な場合に後衛だけな。俺が戻るまで、絶対に通すな」
「あの程度なら……」
「それ、単体だったらだろ? あいつらは、一匹手にかけると一斉に襲って来るぞ。攻撃は俺たちがする。もしも指示を守らない場合は、俺も助けに来ない。わかったな?」
「うん……」
タピオたちだけに戦わせることを気にしていたクリスタが援護するようなことを言っても、タピオは厳しく断る。これがこの戦闘でのベストだから、タピオも譲れないのだ。
作戦を擦り合わせるとイロナは一直線に走り、キラーアントを次々と切り捨てる。タピオも走り、切って叩いて潰してと無双状態。しかし、キラーアントは巣の穴から続々と出て来ている。
何匹か勇者たちの元へキラーアントが向かうが、騎士の盾で阻まれているところへタピオが戻り、剣と盾で叩き潰し、群がって来たら薙ぎ払って勇者たちから離れる。
そうこうしていたら穴からキラーアントの出現が緩やかになり、イロナがバク中で大きく戻ったのでタピオは走り寄る。
「ひょっとして、クイーンがいたのか?」
「うむ。出るぞ」
イロナは違和感を感じて後ろに飛んだようだ。事実、イロナの立っていた場所は地面が陥没し、10メートルはありそうな蟻が顔を出した。
「それじゃあ俺は逆側を削ってからザコの相手をするよ」
「我一人でもいけるぞ?」
「嫌な予感がする。早目に倒したい」
「ふむ……主殿の勘は当たるし、乗ってやろう」
タピオの勘に免じて、イロナは素直に引く。クイーンアントが地面から這い出したらイロナはダッシュで右側を攻め、足を斬り落とす。
タピオも負けじと走り、降って来る前足を盾で受けながらニ本の足を斬り落として離脱。キラーアントの掃討戦に向かった。
タピオがキラーアントを仕留めているうちに、イロナはクイーンアントをタコ殴りで倒し、また大きく距離を取ってタピオと合流する。
「フフ……もう一匹いたとはな」
「勘が当たってよかったよ」
「うむ。外れていたら、主殿をボコッていたところだ」
「ボコるって……マジでやめてくれ」
「では、行ってくる!」
「返事はなしか……」
これ以降、勘で物を言うのはやめようかと悩むタピオ。悩みながらも掃討戦を繰り広げ、イロナが先ほどより少し小ぶりな蟻、キングアントを倒す頃には、タピオも全てのキラーアントにトドメを刺すのであった。
「アイテム集めぐらいやらせて!」
タピオひとりでドロップアイテムを拾っているとクリスタが駆け寄って来て、残りの仲間にも指示を出していた。
早く終わるに越したことのないタピオは許可してアイテムを拾っていたら、クリスタはタピオのそばで拾う。
「あの~……二人は、どうしてそんなに強いの?」
「詮索するな」
「ご、ごめんなさい……」
クリスタの軽い世間話は、一刀両断。なので謝って黙々と拾う。しかし、この勇者はタピオの知っている勇者像とはかけ離れているので、気になって質問してしまう。
「お前は、どうして勇者なんてしてるんだ?」
「え??」
「見たところ、そんなに剣は得意じゃないだろ?」
「う、うん……本当は、聖女になるように教育を受けていたの。実は……」
「あ! やっぱいい。忘れてくれ」
身の上話が始まりそうに感じたタピオは、クリスタの話を遮るのであっ……
「聞いておいてそれはないでしょ~!」
やっと話の取っ掛かりを掴んだクリスタは、それでも身の上話を続けるのであったとさ。