056 上級ダンジョン5(王都)
「ふぅ~……戻ろうか」
タピオはトラウマから持ち直すと、イロナを伴って勇者パーティの元へ戻る。
「護衛の件は保留だ」
「え……そこをなんとか……」
タピオが戻るなりそんなことを言うので、勇者クリスタが喰い掛かるが、手を前に出して止める。
「そろそろモンスターが復活しそうだから移動するぞ。この話は階段でする。いいな?」
「うん……」
戦闘が終わってからかなりの時間が経っていたので、いつモンスターが湧き出て来てもおかしくない状態だから、お互い話を先送りにすることでまとまる。
それからタピオとイロナを先頭にゾロゾロ進み、モンスターが出れば二人で撃退。勇者パーティは後方に隠れ、安全になったら移動。少し移動速度は遅くなったが、勇者パーティの移動速度と比べたら倍以上速くなっていた。
下へと続く階段を見付けたタピオは手招きして全員下ろすと、中腹辺りで話し合う。
「正直なところ、俺は勇者と聖女が大っ嫌いだ。だから協力したくない」
タピオの突拍子のないカミングアウトに、聖女オルガが困った顔をする。
「何かあったのですか?」
「あった。でも、お前たちに言うつもりはない」
「そうですか……よほどお辛いことがあったのでしょう。ですが、私どももあなた様を頼るしかないのです。お話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
話を聞く気もないタピオ。ただ、オルガの巨乳には目が行ってしまい、イロナに腕を締め付けられて悶えているうちに、オルガの話が始まってしまった。
その話とは、前々勇者の怠慢。前々勇者は最初こそはダンジョンボスを倒してくれていたのだが、歳を重ねるごとにダンジョンに潜る回数が減っていった。
それでも定期的にダンジョンボスの魔石を持ち帰っていたので、この国の王も特に何も口出しせずにいたのだが、前々勇者が引退してから事態が急変した。
後任の勇者がダンジョンに潜って帰らなかったのだ。
勇者交代に備えて王族の長男を鍛えていたので、勇者の加護と相俟って、ここのダンジョンならばクリアは確実。そう思って送り出した王も不思議に思い、前々勇者の実兄を呼び寄せたら、知らないの一辺倒。
なので無理だと思いつつも力で従わせようとしたら、勇者の職を辞したにしては弱すぎた。
ここでようやく謎の解けた王は、実兄を拷問して思った通りの答えを得る。
引退する前の三ヶ月間はダンジョンボスを倒しておらず、他所の町のダンジョンボスの魔石を安く買い取って提出していた。
何故すぐに勇者を返納しなかったのかと問うと、散財したあげく老後の蓄えが無かったので、優遇措置と魔石の金目当てにわざと引退を先延ばしたとのこと。
その結果、ダンジョンの難易度が跳ね上がり、いくら勇者といえど、新米勇者ではダンジョンボスを倒せなかったのだ。
「全部聞いちゃったよ……」
オルガが話し出してしまったので、途中で退席する間を逃したタピオはガッカリ。それに気になることが生まれてしまった。
「だから他所の町の商人は高値で魔石を買い取っていたのか」
「今回も失敗した際は、これを提出しようと思っています」
オルガはゴソゴソと腰のバックから大きな魔石を取り出すと、タピオは釘付けになる。
「主殿……どこを見ているのだ?」
タピオの釘付けになった場所は、魔石の後ろにある二つの大きな球体。またイロナの締め付けが強くなったので、すぐに言い訳する。
「魔石だって! アレ、俺たちが売ったフェンリルの魔石だったから、驚いていただけだ」
「ほう……我には違いがわからないのに、主殿にはわかるのだな」
「なんとなくな」
大きさと形は記憶通りだったのだが、まだイロナは疑っている。
「はい。こちらは、鑑定ではフェンリルとなっていました。まさかお二人が倒していたとは……」
「な? 言った通りだろ??」
オルガがフォローしてくれたので、イロナの締め付けが弱くなってタピオはホッとする。
「でも、なんでまた同じ不正をしようとしてるんだ?」
「前勇者様がお亡くなりになったいま、魔王が誕生するなどと噂が流れるとパニックになりますので、安心させるためです。その間に、現勇者様にレベルを上げてもらっている最中なんです」
「なるほどな。それでも間に合わないと思ったから、俺たちを頼りたいと……」
「全て話をしましたので、何卒、何卒、ご協力のほどを!!」
タピオは考える。
この聖女は嘘を言っているように思えない。
しかし、そう思って信じた聖女に騙された。
でも、この聖女の胸はデカイ。
何度も女に騙されているから、信用するのは危険だ。
だが、この聖女は胸を寄せて俺を誘っていた。
ひょっとして俺に気があるのかも? いたた……
考え事をしながらもオルガの胸をチラチラ見ていたタピオに、イロナのせっかん。痛みに耐えながらも、タピオは答えに辿り着く。
「やはり、協力できない」
タピオは意外と冷静。いくら巨乳で誘惑されたからといっても、何度も騙されているからイロナ以外の女を信じることはないのだ。
「なんでもします! どうか協力してください!!」
オルガも引くことはできず、天然なのか胸を両手で挟んでタピオを誘惑すると、タピオのタピオが反応してしまうが目を逸らす。
「俺たちの目的は、このダンジョンの全制覇だ。別に協力する必要はないだろ?」
「え……」
「お前たちの目的は、ダンジョンレベルを下げること。待っていれば、自然と下がるんだ。もしも魔石が欲しいなら、持って来てやるよ。金は払ってもらうがな」
「でも、たった二人では危険すぎるのではないですか?」
「足手まといがいるよりは楽だと思う。な?」
タピオがイロナに話を振ると、力強く答えてくれる。
「うむ。せっかく勇者と戦えると思っていたのに、こんな弱い勇者では興醒めだ。ラスボスで勘弁してやる」
「うっうぅぅ……すみませ~ん」
ただ、その言葉は辛辣で、勇者クリスタの心を折るには十分だった……