052 上級ダンジョン1(王都)
エイニに見送られてウサミミ亭を立ったタピオとイロナは、足早に歩く。腕を組むイロナが楽しみらしいので、タピオはほとんど引きずられている。
そうして上級ダンジョンの入口に着いたら各種手続きをして、タピオは衛兵からも情報を仕入れる。
「最近フロアチェンジはあったか?」
「一週間前にな。予想通りだったから誰も取り残されていない。勇者様も一昨日入ったし、少しは楽ができるかもな。安心して行って来い」
「ああ。ありがとう」
感謝の言葉を送ったタピオとイロナは、ダンジョンの入口に設けられたフロアガイドでセーフティエリアを確認しながら話し合う。
「一週間前ということは、三ヶ月ぐらいはフロアチェンジは無さそうだな」
「残念だ。魔王が誕生しているかと思ったのに……」
フロアチェンジがあったと聞いてタピオは安堵の表情を浮かべ、イロナは肩を落とす。
そもそもフロアチェンジとは、この世界の学者からダンジョンの防衛機能と推測されている。あまりダンジョンエネルギーを地上の者に奪われないように、一定期間で罠や部屋の位置を変えているのだ。
その過程でダンジョンエネルギーが増大すれば魔王が発生し、地上の者を苦しませるので、一部の学者からは神が人類の数を調整しているのではないかとの発表があった。
もちろんそんな神への冒涜は教会が全力で潰しに掛かり、黙殺された。
「ま、俺たちの滞在中に産まれるかもな」
イロナがあまりにも残念がるので、心にもないフォローをするタピオ。
「それだ! だが、それまでラスボスを倒せないのか……うぅ。我はどうしたらいいんだ~!」
「個人的には、ラスボスを倒して安全なダンジョンにしたいんだが……」
意見の相違。イロナはどちらを取るか苦悩し、タピオは取るべき選択はひとつしかないようなことを呟く。そのせいで睨まれたタピオは、違う話でイロナの怒りを逸らす。
「そういえば、一昨日、勇者が入ったと聞いたな。どんなヤツだろうな」
「それだ! 今日はラスボスではなく勇者を狩るぞ!」
「勇者はモンスターじゃないから狩らないでくれよ~」
「行くぞ!!」
「ぎゃああぁぁ~~~!」
ようやく悩みが解決したイロナは、タピオの腕を引っ張って上級ダンジョンに潜るのであった。ただしタピオはダンジョン侵入前に、イロナに腕を変な方向に曲げられてHPを減らすのであったとさ。
上級ダンジョン地下1階は、イロナたちに取ってはザコモンスターばかりであったため、ほとんど無視。イロナは剣も抜かずに殴り飛ばして凄い速さで攻略する。
その間タピオは、イロナに首根っこを掴まれて引きずられて進む。早く勇者に追い付きたいイロナは、タピオの足では追い付けないと思っての判断。
だが、優秀な道案内がいないと勇者に追い付けないとイロナは考え、仕方なくタピオを引きずって走る方法を取っている。
ちなみにやられている本人は静かなもの。イロナには逆らえないので、道案内以外は口を閉じている。地面を引きずる程度ならタピオにダメージが入らないから、移動手段として諦めたようだ。
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そんな二人を見た冒険者たちはというと……
「おい……デカイオッサンが、細い女に引きずられているぞ」
「急に何を言って……ホンマや!?」
呆気に取られている。その間に、イロナはあっという間に通りすぎるので、キツネにつままれたような顔に変わっていた。
「おれ、夢でも見ていたのかな? ハハハ」
「きっとアレは幻覚だ。お化けキノコの粉を吸ったんだ。な?」
「な~んか体がだるいような気もするし、今日は帰るか~」
浅い階層で二人とすれ違った冒険者は、約半分は体調不良が原因だと思い、地上に帰るのであった。
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イロナは地下10階までを軽々走破したら、タピオを地面に投げ捨てる。
「ど、どうしたんだ?」
「ちょっと敵が強くなって来たから速度が落ちる。主殿は盾を構えて前を走れ」
「え……まだ盾は温存したいんだが……」
「そんなことを言っている場合か! 勇者に逃げられるぞ!!」
「はっ!!」
イロナに剣を抜いて脅されたからには、タピオは言うことを聞かないわけにはいかない。立ち上がって敬礼すると、盾を取り出して全速力で走る。
ただ、タピオは「勇者を狩るためにダンジョンに来たわけではないのに……」と、心の中でボヤいていた。
「いたっ! その剣痛いって!!」
「よからぬことを考えているから、走るのが遅くなるのだ」
「勘弁してくれ~~~!!」
タピオの考えはイロナに筒抜けかどうかわからないが、スピードが落ちるとイロナにつつかれるので、必死に走るタピオであった。
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少し速度が落ちたといっても、二人の速度はとてもダンジョンを動く速さではないので、また冒険者から変な目で見られていた。
「なんかオッサンが暴れ牛を撥ね飛ばしていたんだが……」
「ああ。その後ろにもビックリだ」
「後ろ??」
「女がいただろ? オッサンは女に剣でつつかれていたぞ」
「なんだそのイジメ……あ、そうだ」
タピオたちに驚いていた冒険者パーティの一同は、大盾を持った戦士の男を見る。
「アレ、やってみないか?」
「い、イジメ、アカン!」
「ちょっとだけだって~?」
「ヤメレ~~~!!」
こうしてタピオたちのせいで戦士がつつかれるというイジメが発生して、「戦士、パーティ抜けるってよ」という揉め事が多発するのであったとさ。