049 自由行動3
イロナの手料理を堪能したタピオは、イロナの食べる物が無かったので外に食べに行くかと質問すると、エイニが見本で作ったサンドイッチが食堂にあるとのこと。
これは感謝の気持ちだからと、エイニがお昼にと用意してくれていたようだ。
なので二人で食堂に取りに行ったら、隣接されたキッチンがえらいことに……
「泥棒でも入ったのかな?」
「我が料理しただけだ」
サンドイッチを作っただけでキッチンがぐちゃぐちゃになっていたので、どうやって作ったか気になるタピオ。しかし、このままにしておくとエイニを心配させることになるので、タピオは綺麗に片付けていた。
片付けを終えたら、イロナの食べ残したサンドイッチをつまみ、洗い物もしてから大工仕事に戻るタピオ。イロナは暇なのか、ずっとタピオを見て時間を潰していた。
「そんなにジッと見てても面白くないだろ?」
「少しは面白い。あんなにボロボロだった家が、徐々に見られるようになって行くのだからな」
「ちゃんとガラスを張れたらもっと見栄えがよくなるんだけどな~。ガラスは高いから、さすがに俺が出せないよ」
「板だけでも、けっこうな出費だろう」
「まぁな。でも、そのおかげで、食事と風呂付きの静かな拠点ができた。長く泊まるとしたら、かなりお得だぞ」
「ほう……そこまで考えていたのか。ならば、我も手伝うとしよう」
イロナは歓心してタピオの仕事を手伝おうとするが、片付けもできないイロナにやらすのはちょっと怖い。なので、昨日切り倒した大木を、タピオが引いた線に合わせて切るように指示を出す。
イロナに掛かれば四分割ぐらい剣でサクッと切り分けられるので、次の仕事。恐る恐る草抜きを頼んでみたら、すんなりと引き受けてくれた。
それでも何かやらかしかねないからしばらく一緒に草抜きをして、大丈夫そうだったので、タピオは宿の修繕に戻る。
それから夕方頃に庭に戻ったら、雑草の山にまざって、木まで抜かれていたのであった。
「お疲れさん。もうそんなもんでいいぞ」
「ん? もう終わりか。仕事をすると、時間が過ぎるのは早いな」
イロナは無駄に素早く動いて雑草を抜いていたから庭は奇麗に見えるのだが、その導線にある木まで抜いていたから、怒るに怒れないタピオは終わりを告げただけ。
逆にイロナは清々しい顔をして背伸びをしていた。
そこにエイニが戻って来たので、タピオは先にお風呂に行くようにと二人を送り出し、景観によさそうな木だけを埋め直していた。
作業を終えるとタピオも一般客が使うお風呂に向かい、こっそり一人で汚れを落とそうとしたが、男湯の入口からその先は混浴だった。
「キャーーー!!」
「お、主殿も来たのか。背中を流してやろうではないか」
エイニが悲鳴をあげるなか、イロナは無防備に岩風呂から出て来る。
「い、いや。大丈夫だ。それより、一度外に出るから」
「まぁまぁ。疲れているだろう。我に任せておけ」
「そういうことじゃなくてだな……ぎゃああぁぁ~!!」
タピオがイロナの犠牲にあっているうちにエイニは外に逃げ出し、なんとか裸を凝視されず、タピオの股間も見ずに済んだエイニであった。
それから今日も三人で食卓を囲み、ベッドではイロナの押し売り。イロナをマッサージしたいとタピオが言うと受け入れられたが、慣れないことをしたイロナはすぐに眠りに就いた。
これでタピオにチャンス到来。たまには一人でゴソゴソしたいらしく、裸のイロナの眠る姿を見ながら一人でゴソゴソしていた。
翌朝は、エイニが出勤してから少しゆっくりして、タピオとイロナは町へと繰り出す。ダンジョンに必要な物を買い揃え、ランチを食べてから目的地の店へと入った。
「おう! できてるぞ」
ここは鍛治屋。ドワーフのスロはタピオたちの姿が目に入ると、手招きして呼び寄せる。
「抜いてみろ」
「うむ……おっと」
イロナは受け取ったロングソードを抜いてみるが、少し長いからか鞘に引っ掛かる。だが、一人でも無事に抜けて、剣をじっくりと見て確かめていた。
「ふむ。我の要望通りだな。よく斬れそうだ」
イロナは一通り見た剣を褒める。
「SSS級のいい剣を作れて俺も大満足だ」
「トリプルか。長く使えそうだ」
「少しは手加減してやってくれ。すぐに折られたら俺の名に傷が付いちまう」
「善処しよう」
イロナは素振りがしたいらしく、広い場所にて振るう。その間、タピオはスロと喋る。
「トリプルってことは、高いんだよな?」
「本当はな。素材は全てお前が用意した物で作ったから、手間賃だけだ。ほらよ」
スロは請求書をタピオに差し出す。
「おお! 安い!!」
「別に安かないぞ。まぁ俺じゃなきゃ、こんな短期間で作れないけどな。それと、鞘があの嬢ちゃんには合ってないみたいだったから、また日を空けて来てくれ」
「それは値が張るのか?」
「サービスだ。高い剣をほいほい作らせるくせに、変なところでケチな奴だな」
「ははは」
最近出費が嵩んでいるので、昔の倹約癖が出て来たタピオ。空返事で笑いながら代金を支払うのであった。