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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
04 カーボエルテ王国 王都1
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048 自由行動2


「ありがとうございます! 今日も腕によりをかけて夕食を作らせてもらいますね!!」


 大木を切っても宿屋を修理してもエイニは嬉しいらしく、スキップしてキッチンに向かって行った。

 タピオはホッとしているところを見ると、器物破損とか言われて衛兵を呼ばれる可能性を危惧していたようだ。


 それから岩風呂の仕切りが直った頃にエイニが食事ができたと呼びに来たので、食堂の席に着く。


「凄いな。これ、全部食べても別料金は発生しないのか?」


 昨日の三倍以上ある量に、タピオは違う心配をしてしまう。


「やだな~。これは感謝の気持ちですよ~。といっても、料理店のオーナーが出してやれって持たせてくれた物が半分以上ありますけどね。ささ、食べましょう!」


 タピオの心配を笑って払拭するエイニなのだが、イロナには言いたいことがあるようだ。


「何故、貴様も一緒に食べるのだ?」

「そ、それは~……修繕記念みたいな? 大勢で食べたほうが美味しいでしょ! 冷めちゃいますよ!!」


 どうもエイニの言葉は納得いかないイロナだったが、タピオに言われて食事に手を伸ばしていた。

 しばし三人は黙ってガツガツ食べていたが、エイニはお腹一杯になったらタピオに話し掛ける。


「それにしても、本職の大工さん並みに直すのが上手いのですね。見違えたようです!」

「いや、痛んでいた箇所を直しただけだ。雨漏りとすきま風がマシになっただけだろう」

「いえいえ。ドアまで直してもらって……これで鍵が掛けられます!」

「窓のガラスが割れたままだから、しても意味はないけどな」

「あ……そうでした~」


 穴が塞がっただけで、セキュリティーが固くなったと勘違いしていたエイニは肩を落とす。


「無事なガラスを集めれば、ひと部屋かふた部屋は使えると思うけど……残りは板で塞いでしまってはどうだ? 一人で全ての部屋を切り盛りできないだろ??」

「確かにそうですね……ナイスアイデアです! では、そんな感じでお願いします!!」

「俺にやらすんだ……」

「うっ……そうですよね。お客様にそんなことをさせられませんよね」

「冗談だ。セキュリティーさえしっかりしていたら、また俺たちが泊まりやすいからな」


 タピオは意外とこの宿を気に入っていたらしい。価格は安く、料理はうまいし岩風呂は気持ちいい。何より客がいないことは、逃亡者のタピオにとっては居心地がいいのだ。


「そ、それじゃあ、また泊まりに来てくれるのですか?」

「近々ダンジョンに潜るから、それが終わったら戻って来るよ。俺たちの部屋が空いていたらな」

「空けておきます! 必ず来てくださいね!!」


 空けておくも何も、こんな場所まで足を運ぶ客はめったにいないと思うエイニ。予約を取っていたほうが、懸命だと判断していた。

 ただ、タピオもちょっと直しただけで客が来るとは思っておらず、エイニの考えなど筒抜けであった。



 食事を終えると、全員腹を擦って自室に戻る。どうやら三人で食べるには多すぎたのだが、全員もったいないと思って無理して食べたようだ。

 タピオは風呂に入って腹が収まるのを待つが、一緒に入ったイロナから奉仕の押し売りが始まる。だが、お互い腹が苦しいこともあり、ちょっとの刺激で吐きそうなので、断ることに成功してホッとするタピオであった。


 腹が収まりベッドでも押し売りがあったが、昨日のダメージの抜けきっていないタピオは「昨日は出し過ぎたから」と言って、なんとか断ってイロナを抱いて眠っていた。



 そして翌朝、またエイニの出勤を見送ったタピオは、今日も大工仕事。エイニが手入れしたい部屋の窓を直し、残りの部屋は板で塞ぐ。

 その間イロナはどこかに消えていたのだが、太陽が真上に来た頃に、食事ができたと呼びに来た。


 どうやらイロナは朝早く起きて、エイニから簡単な料理を習っていたようだ。しかし、レシピ通り作ったはずなのに、色がおかしい。


「これは……なんて料理だ?」


 庭に備え付けられたテーブルには、黒い物体が乗った皿が置いてあるだけなのでタピオは首を傾げている。


「サンドイッチなのだが……ちょっとパンを焦がしてしまったんだ」


 パンを焼くと香ばしくなるとの雑談を聞いていたイロナは、レシピから外れて焼いてしまったことが大失敗。それも、具を挟んで直火で焼いたからには、全てが炭となってしまったのだ。


「そ、そうか……」

「無理しなくていいぞ? これは失敗作だ」

「せっかくイロナが作ってくれたのだから、いただかせてもらうよ」


 炭を持つタピオの手は震えている。前回の毒料理が尾を引いているようだ。それでもタピオはムシャムシャ食べて完食した。


「ごちそうさん」

「よくそんなもの食えるな……」


 タピオが美味しそうに食べても、作った本人が引き気味。タピオは鉱山奴隷の経験の中で、腐った物でも食べていたから炭ならばギリギリ食べられるのだ。


「味は正直よくなかったけど、また作ってくれよな」

「う、うむ……」


 これよりイロナは、二度も(おく)せずゲテモノ料理を食べたタピオに失敗作を与えることが怖くなって、タピオの前にイロナの手料理はなかなか並ばないのであった。


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