045 王都デート2
「この剣から、好きな長さと形を決めてくれ」
鍛治屋にてイロナの剣を作ることとなり、ドワーフのスロは多くの剣が入った箱を何箱も持って来て形を選ばせる。
イロナは自分の剣のことなので、何本も剣を握って真剣に選んでいる。その間、スロはタピオと喋っていた。
「お前は作らなくていいのか?」
「俺はまだまだ使えるからいいよ」
「これだけの素材を集めるヤツなら、さぞかしいい武器を持っているんだろうな。サービスで手入れしてやるから見せてくれ」
「たいした物じゃないぞ」
サービスと聞いて、ケチくさいタピオはすぐにメインウェポンである中華包丁みたいな黒い剣を取り出す。
「ひっでえ剣だな」
「だろ?」
「いや、すまない。いまのは冗談だ」
メインウェポンを貶されても嫌な顔ひつとしないタピオ。その顔を見て、剣の性能をタピオが熟知していると察したスロは謝罪した。
「いいって。斬れないのは折り込み済みだ」
「用途を考えれば、お前に適した銘刀といっても過言ではない。いい鍛治師に作ってもらったんだな」
「かなり迷惑な要求だったらしいがな」
「ちげぇねえ。斬れる剣を作りたがっている鍛治師泣かせだ。がっはっはっ」
耐久力優先で切れ味は二の次の重いだけの剣では最高の剣とは言い難いので、スロも鍛治師を哀れんで笑う。ただ、耐久力だけはSSS級の剣なので、作った鍛治師に尊敬の念を抱くこととなった。
そんな剣ならば、手入れも超簡単。脂を落として軽く研ぐだけで、物の数分で終わっていた。
そうしてタピオとスロが話を弾ませていたら、イロナの剣の形も決まったようだ。
「ロングソードか……」
「この太さでもう少しばかり長いと有り難いんだが、作れるか?」
「ロングソードでも使い手を選ぶのに、まだ足りないのか」
「大物を一刀両断したいのだ。いつもあと少しが足りなくて悔しい思いをしていたのだ」
「トンでもない嬢ちゃんだな。わかった。最高のひと振りを作ってやるよ」
それからスロはイロナの素振りを見て長さを決め、素材を吟味して受け取り、三日後に顔を出すように言って奥に消えて行った。
残されたタピオとイロナはここにいる理由もないので、王都デートに戻る。ただデートするわけでなく宿屋も探していたのだが、どこも似たり寄ったりでなかなか決まらない。
中心部を粗方見た二人が外壁の方向に歩いていたら、家も減って来た。
「この辺の家を借りるってのも手だな」
「いっそ買ってはどうだ?」
「俺は逃亡者だぞ。いつ逃げ出すかわからないのに、買えるわけがない。それに、誰が家事をするんだ?」
「おそらく……主殿??」
「う、うん。たぶんそうなるだろうな」
イロナとの共同生活を想像したタピオは、掃除の最中に家が破壊される姿しか思い付かず、食事に関しては一度死にかけたので、記憶はなくとも赤信号を灯して肯定するしかなかった。
「家を借りても家事はやらないといけないし、ダンジョンに潜っている間の維持費ももったいない。やはり宿を取るのがベストだな」
「主殿の喘ぎ声に苦情が出ないといいな」
「あ、あれは……なんでもない」
どう考えても悲鳴なのだが、イロナには喘ぎ声に聞こえていたらしい。そのことにツッコみたいタピオであったが、冗談でもそんなことを言うと背中に張り手が飛んで来るので自重していた。
それからのどかな風景の場所を歩いていたら、宿屋の看板を発見したので二人は近付いてみる。
「ボロボロだな」
「うむ。ボロボロだ」
残念ながら宿屋は閉店しているらしく、廃墟のようになっていた。どうせ営業もしていないと思って帰ろうとしたその時、扉が「ギィィ」っと嫌な音を立てて開いたので同時に振り返る。
するとメイド服を来た二十歳ぐらいのウサギ耳女性エイニが凄い速さで走って来て、いきなり接客を始めた。
「いらっしゃいませ! お泊まりですね。食事付きで銀貨10枚となっております。王都の中では破格のお値段ですよ~?」
何やら圧の強い押し売りに、タピオは面倒くさそうに返す。
「帰るところだ」
それだけ残して振り向くタピオとイロナであったが、エイニは諦めが悪い。
「最高のおもてなしをさせてもらいますから、泊まって行きましょうよ! 銀貨9……8枚でどうですか! こうなったらヤケです! 5枚! これ以上はまけられません!!」
タピオたちはエイニの呼び込みを無視して歩き続けると、ついにエイニは……
「ふえぇぇん。泊まっていってくださいよ~。お願いしますよ~。ふえぇぇ~ん」
泣き出してしまった。それも、エイニはタピオの腕を掴んで離さないので、引きずられてしまっている。
そこまでされてはさすがにタピオも足を止めずにはいられなかった。
「そうはいっても、宿屋なんてここにはないぞ」
「我がウサミミ亭はあちらに! あ……アレ??」
タピオたちと移動しながら客引きしていたのだから、とうに宿屋は見えておらず、エイニが「バーン!」と紹介した場所には畑が広がっているのみであったとさ。