044 王都デート1
ハミナの町から王都に移動したタピオとイロナは、その日の宿で旅の疲れを落とす。夕食を取り、お風呂に入り、タピオの悲鳴。
マッサージと称したイロナの握力でダメージを受けたタピオの元へ、隣の部屋からの苦情。壁が薄いので、拷問されていた声が丸聞こえだったようだ。
それからいつも通り抱き合って眠り、朝を迎えたら二人で王都探索に繰り出した。
「朝だというのに、キラーアント並に人が繁殖しているな」
大通りを抜けて露店の並ぶ広場に入ると興奮したイロナが、ザコだけど数だけは多い厄介なモンスターを出して変な例え方をしている。
「キラーアントって……たしかにこれほど賑わっているとは思っていなかったよ」
ここは商業国家ともあり、多種多様の商品が並ぶ露店、そこに群がる人々の数は、タピオの知る首都よりも多く見えるようだ。
多種多様な種族や露店を見るだけでも楽しいが、珍しい食べ物も多いので、イロナが子供のように買ってと言って来るので、タピオは財布の紐を緩めてしまう。
そうして買い食いをしていたら、もうお昼。近くのベンチに腰掛けて、イロナとタピオはお茶を飲む。
「フゥ~。少し食べ過ぎた」
「朝を抜いて来てよかったな」
「まったくだ。危うくケーキが入らないところだったぞ」
「ははは。無理して食べなくても、しばらくここに滞在するのに」
「フフフ。その通りだった」
食いしん坊なイロナが面白いからタピオが笑うと、イロナも自分の行いが珍しいから笑っていた。
お腹が落ち着くと露店で聞いていた商業通りに向かい、何軒もある武器屋をはしごする。しかし、目当ての物は見付からないようだ。
「なかなかSSS級の武器は見付からないな」
「イロナに似合いそうな剣はあるのにな」
「主殿も、あの斧なんて似合いそうだぞ」
武器屋だというのに、イチャイチャと装備を取っ替え引っ替えするイロナとタピオ。武器屋のオヤジからは場違いな奴等と見られていたが、欲しがる武器は一級品なので追い出せないでいる。
「これは鍛治屋でオーダーメイドしたほうが早いな」
「ここのダンジョンで手に入れるのではないのか?」
「出るかもしれないけど、剣が出るかは運次第だからな。それまで今ある剣が持たないだろう」
「また散財させてすまないな」
「ははは。イロナでも気を使えるんだな……ぐはっ!」
ちょっとした冗談は、イロナには通じず。また背中を「ドコーン!」と叩かれて、ダメージを受けるタピオであった。
また王都をブラブラ歩き、武器屋で聞いた一番いい鍛治屋に向かい、二人はイチャイチャしながら中に入ると、店主であるドワーフのスロに邪険にされる。
「てめぇらみたいな腑抜けたヤツに打つ剣は一切無い! 帰れ!!」
開口一番怒鳴られたイロナはとてつもない殺気を放ち、スロを震え上がらせる。そこにタピオが間に立ち、イロナの目から放たれる殺人ビームからスロを守っていた。
「感じた通り、口には気を付けてくれ。俺では止められないんだ」
「お……おう。こちらこそ悪かった。そんなに強そうに見えなかったんだ」
タピオのおかげでイチャイチャ問題は解決し、スロをも落ち着いて来たので商談に移る。
「王都一と聞いたけど、剣をすぐに作ってもらうことはできるか?」
「詫びついでに少しは急いでやるが、ランクによるな」
「できたらレジェンド、最低でSS級が欲しいんだ」
「レジェンドなんて作れるか! あれは国宝級のドロップアイテムだぞ!!」
「だよな~」
タピオも無理だと思いながら聞いてみたので、残念そうにもしない。だが、スロはイロナをチラッと見て、本当にレジェンド級の武器を欲しているのかと感じていた。
「そっちの女の剣が欲しいのか? なら、いま使っている武器を見せろ」
「ああ。ちょっと待ってくれ」
スロに言われるまま、タピオは傷の目立つS級の槍を一本、刃毀れがあるS級の剣、ボロボロのA級の剣を二本、折れたA級の剣を一本取り出した。
「どれも酷い有り様だな。どれぐらいの期間でこうなったんだ?」
「取っ替え引っ替えで一ヶ月だ」
「あり得ねえ……普通の冒険者なら、S級一本で一年は使えるぞ。どうりでレジェンドなんて欲しがるわけだ」
「だよな~」
タピオはイロナの異常さに、相槌しか打てないようだ。
「俺が作れる最高品質で、SSS級だ。それでもどれだけ持つかどうか……」
「おお! そんなの作れるのか??」
「素材次第だ。いまある素材だけでは、S級がいっぱいいっぱいだ」
「じゃあ、俺の手持ちを出すから、それで頼む」
「そんじょそこらの素材じゃ無理だからな」
スロはタピオが出す素材はたいした物ではないと思っていたが、次々と出て来るレア素材の数々に固まり、いつまで経っても終わらないなのでようやく正気に戻る。
「なんちゅう量を……これはオリハルコンの塊……ドラゴンの牙……逆鱗まで!?」
この素材は、タピオが宝箱から引き当てたレア素材。ボスドロップでレア武器を引き当てられないので、自分の武器を作ってもらう時に備えて取っておいた物だ。
「これでどうだ?」
「お……おお! これならトリプルも余裕で作れるぞ!!」
こうしてタピオが惜しみ無く素材を提供することで、イロナの剣製作は始まるのであった。