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043 とある追跡者2


「えっと……そんなに疑うなら直接ダンジョンに行ってみては……」


 聖女マルケッタは「ヤルモを庇っているのか」とわめき散らすので、ミッラは面倒くさそうに答えた。

 そもそもダンジョンは国の管轄になっているので領主が管理し、冒険者ギルドには使用者の名簿が週に一度渡されるから、新しい情報を手に入れたいならそちらに行くほうが手っ取り早いのだ。


「ここにいても仕方がないですわね。もしもヤルモが戻って来たなら、引き留めておくのですわよ!」

「はあ……」


 マルケッタもそのことを今ごろ思い出し、足早に冒険者ギルドから出て行くのであった。



 マルケッタから解放されたミッラは、ゲッソリしながらギルマスの部屋に入った。


「どうして助けてくれないんですか~」


 そして、しばらくマルケッタの愚痴を言いまくり、ギルマスを引かしていた。


「ま、まぁ、タピオという冒険者と喋ったことのある受付嬢はお前だけなんだから、もう少し辛抱してくれ」


 愚痴が終わったところでギルマスはミッラを宥めるが、ミッラは他にも納得のいかないことがあるようだ。


「タピオさんが犯罪者ってのは本当なんですかね? とてもそんなことをするように見えなかったのですが」

「さあな~? 他国のことだからなんとも……でも、三度も強姦罪で捕まったのは事実らしい」

「それです。ギルマスには報告していなかったのですが、タピオさんが連れていた女性は性奴隷らしいのです」

「ほう……ならば、この国では犯罪に走らないかもしれないな」

「性奴隷を買うほどお金を持っているタピオさんが、わざわざ強姦なんてしますかね?」

「やけにタピオという男を庇うんだな」


 ミッラの態度に、ギルマスは不思議に思っているようだ。


「だって、あの聖女が胡散くさいんですもん! アレならまだ、タピオさんのほうがまっとうな生き物に見えますよ!!」

「それ、本人の前で絶対に言うなよ?」

「言いませんよ! 言いませんけど、なんとか(おとし)める方法を考えます!!」

「考えるのはいいけど、実行しちゃダメだからな?」


 ミッラはブツブツと怖いことを呟いているので、ギルマスの話は聞いちゃいない。しかし、ギルマスの取って置きのネタには耳が傾いた。


「これ、まだ表に出ていない情報だが、アルタニア帝国、滅びかけているらしい」

「よっしゃ! あんな聖女のいる国なんて、滅んでしまえ!!」

「いや、そこは喜んでいないで、理由を知りたくないのか?」

「どうせ聖女が使い込みでもしたんでしょ?」

「どうしてそうなるんだ……魔王討伐に失敗した話は聞いただろ?」


 アルタニア帝国の首都、帝都にある特級ダンジョンに魔王が発生し、被害が出たと噂が聞こえて来たが、ユジェール王国を挟んだ遠い国の出来事なので、ここ、カーボエルテ王国に入る情報は少なかった。

 それにアルタニア帝国からはそんな不名誉なことを対外的に宣伝しないので、確証を持てる情報が入って来なかったようだ。


「つまり……あのアホが、勇者が魔王討伐を失敗したとわざわざ教えてくれたと?」

「アホって言うのやめろ。でも、そういうことだ」

「じゃあ、あのアホは、もう王女ではないただのアホなんですね!」

「聖女様な? アホじゃなくて聖女様な? あと、皇帝は生き残っていると思うから、まだ王女様だからな??」

「チッ……私が手を下さなくてもいいと思ったのに……」

「頼むから、早まるなよ?」


 どんどん裏の顔が出るミッラをギルマスが宥めていると、凶報が入る。


「ヤルモはダンジョンに入っていませんでしたわよ!!」


 マルケッタだ。マルケッタがダンジョンの衛兵から情報を得て戻って来たので、ミッラはギルマスに背中を物理的に押されて対応しなくてはならなくなった。


「えっと……じゃあ、しばらく休んでいるのかもしれません」

「あなたはダンジョンにいると言っていたでしょ!」

「予想の範囲を言っただけでして……一ヶ月間ずっとダンジョンに潜っていたから、まさか長期の休みを取るとは……」

「これだから二流は……それなら滞在先を教えなさい!」

「知りません……」

「はあ? これだから二流は使えませんことね」


 二度も二流と言われたミッラは、心の中でキレていた。


(冒険者は宿屋暮らしが多いのに知るか! この町に、何軒宿屋があって、どこに泊まるかなんてわかるわけがないわ!!)


 と、言いたいミッラだが、ニコニコしながら対応する。


「でしたら、聖女様がしらみ潰しに探してはいかがでしょうか?」


 顔はニコニコしているが、心の中では「探せるならな!」と毒を吐くミッラ。


「そうですわね。わたくしが探し回るのも面倒ですので、冒険者に依頼しますわ」

「あ……はい」


 残念ながら聖女にも知恵があるので、ミッラの心の中は大荒れ。


(その手があったか~~~!!)


 と荒れていたが、ニコニコしながらタピオ捜索の依頼を受注するのであったとさ。



 マルケッタの依頼は、価格は安いが低ランクの冒険者でも気軽に受けられる依頼ということもあり、物量作戦で二日後には全ての宿屋の情報が集まったのだが、そこにはタピオの姿はなかった。


「どうなっていますの!」

「どうと言われましても……家を借りてる冒険者もいますので……」

「それですわ! 捜索範囲を広げなさい!!」

「は~い」


 次は不動産関係の者から情報を集め、そこまで多くはなかったので、一日で依頼は終了。


「キィィーー! なんでいないのですの!?」


 ヒステリックに叫ぶマルケッタに対して、気分晴れやかなミッラ。


「勝手ながら、私個人で調べた情報があるのですが……」

「なんですのその手は……これだから二流は浅ましい。これでよろしいでしょ!」


 ミッラが指でわっかを作るので、マルケッタは苛立ちながら銀貨を数枚カウンターに叩き付ける。


「どうやら聖女様が来る数日前に、町から出たようです」

「なんですって!? どこに向かったのですの!!」

「西門から出たので、その方面なら候補はこちらに……」

「すぐに出発しますわよ!」


 ミッラから地図を見せてもらったマルケッタは礼も言わず、お供を連れてギルドから去って行くのであった。



「今日はご機嫌だな」


 マルケッタがいなくなって清々したミッラは、ルンルン鼻歌まじりに歩いていたら、ギルマスに声を掛けられた。


「アホは扱いやすいですね~」

「おい……聖女様に何かしたのか??」

「な~んにも~。フフフフフフフ」


 妖しく笑うミッラを見て、ギルマスはそれ以上の質問は怖くてできないのであった。


 ちなみにタピオがハミナの町を出て行った情報は、宿屋を探す一日目でミッラは手に入れていた。追っ手が迫っているのなら、そうそう長く町に滞在しないのではないかとミッラは予想したら的中したのだ。

 そこからは言われた内容の調査をきっちり行い、無駄な調査を追加させ、さらには自分の調査を出してむしり取るだけむしり取った。


 あとはタピオの行き先はおよそわかっていたので、逆を言ったミッラ。今までの会話でイロナが王都に興味を持っていたから、タピオならそちらに向かったと予想している。

 もしもマルケッタが来ていなかったら、王都の方角から逆方向に出ているからそっちに向かったと思っていただろうが、逃亡者ならばそんな工作をしているとミッラは確信して、わざとマルケッタが王都から離れるように仕向けたのだ。


 マルケッタから金をむしり取り、逆方向に向かわせたミッラはしてやったり。気分晴れ晴れで仕事に精を出すのであった。


 しばらくは……


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