042 とある追跡者1
タピオたちが王都に着いた頃、ヤルモを追う金色のドリルヘアーをした美しい女性がマント姿の護衛を引き連れて、ハミナの町にある冒険者ギルドに現れた。
「だからこいつよ! こいつを探しているのですわ!!」
美しい女性は、そおっと逃げようとした猫耳受付嬢ミッラを捕まえ、凶悪な顔の男の手配書を見せる。
「犯罪者ですか? こんな手配書、うちには回って来ていないのですけど……」
「いま見せましたでしょ! ヤルモなら必ず冒険者になっているから、さっさと情報を出しなさい!」
「出せと言われましても正式に受注していませんし、依頼主じゃないと報告できません」
「わたくしがその依頼主なのですわ! もういいですわ。ギルマスを出しなさい!!」
ミッラでは話にならないと察した女性は、自分の冒険者カードを見せてギルドマスターを要求する。
「せせせ、聖女様!?」
「はあ? いまごろ気付いたのですの。この高貴な顔をひと目見て気付かないなんて、二流以下の受付嬢ですわね」
「も……申し訳ありません! すぐに呼んで来ます!!」
女性の正体はアルタニア帝国の聖女マルケッタ・コンティオラ。そのことを知ったミッラは平謝りで走って行くが、「他国の聖女の顔なんて知るわけねぇだろ!」と、心の中で毒づいていた。
それと、自分の元へ、こうも厄介な者が寄って来る不運にも嘆いていた。
「それで、ヤルモはここで冒険者をしていますわね?」
「あの……そのことなんですが……」
会議室でしばらく待たされたマルケッタは苛立ちながら、このギルドのマスターである細身の中年男性から報告を受ける。
その報告には、ハミナの現役冒険者リストの中にヤルモという名前はなく、受付嬢全員に手配書を見せても「見たことのない」のオンパレード。
残念なことに手配書の絵は狂暴性を増すデザインだったため、本人と似ていなかったのだ。
「顔を変えて偽名を使っているということですわね……悪知恵の働くヤツですわ」
偽名は正解なのだが、整形疑惑は間違い。ただ似ていなかっただけだ。
「それじゃあ、この一ヶ月前後で登録した者を教えなさい。ああ。全部じゃなくていいですわよ。その期間で頭角を現した者が、ヤルモですわ」
マルケッタもアホではない。それなりの情報を手に入れ、恐ろしくダンジョン攻略の早いオッサンの噂から、ヤルモの居場所を特定したのだ。
「それでしたら、タピオという武道家が候補に当たるのですが……」
「タピオ……そう名乗っているのですわね。それに戦士から武道家に転職……いえ、この場合は、職業を偽っているのですわね。そのタピオを詳しく知る者を呼びなさい!」
ギルマスは一度席を外して、めちゃくちゃ嫌そうな顔のミッラと共に部屋に戻った。そこでミッラはまた手配書を見せられ、マルケッタに尋問される。
「あなた、タピオと仲がよかったようですわね」
「いえ……ただの受付嬢と冒険者の関係なのですが……」
「ふんっ……まぁあの人間不信なら、そんなこともありますわね。でも、ある程度の行動パターンは掴めているのでしょう?」
「まぁ……はい」
「次、ヤルモ……タピオがギルドに来るのはいつですの?」
「たぶん……」
ミッラは自分の知り得る情報から、近々上級ダンジョンから戻るのでは予想を伝える。その情報を得たマルケッタは悪い顔をして笑いながら去って行き、次の日から冒険者ギルドに毎日通うのであった。
「いったい、いつになったらヤルモは来るのですの!」
三日もギルドにて待ちぼうけを喰らったマルケッタは、ミッラに噛み付いていた。
「おかしいですね……あの二人なら、これだけ時間があればクリアしているはずなんですけど」
「二人? いま、二人と言いました??」
「はい……綺麗な女性とパーティを組んでいました」
ミッラは、イロナを性奴隷と言うのをタピオにお金を貰って止められていたので、なんとなく濁して伝えた。だが、女性と聞いて、マルケッタの顔が怒りの表情に変わる。
「あの男……また被害者を増やすつもりですわね」
「被害者ですか?」
「いいですの? ヤルモは、三度の強姦罪で捕まっている女の敵ですのよ!」
「え……そんなふうに見えなかったのですが……」
「それがヤルモの手口ですわ! 言葉巧みに、我が国の勇者様も殺害したのですわ!!」
マルケッタが興奮して大声を出すので、ギルド内の全ての人に伝わり、辺りは静まり返る。
「嘘ですよね? 勇者様がタピオさん程度の人に殺されるなんてありえませんよね??」
「聖女であるわたくしの言葉を信じませんの?」
「いえ……勇者様なら返り討ちにしてもおかしくないと思いまして……」
「そりゃ勇者様だって、一対一では負けませんわ。姑息なヤルモは、魔王の間の前で敵前逃亡したのですわ! わざとパーティバランスを乱して、勇者様を魔王に殺させたのですわ!!」
マルケッタはタピオを断罪するが、ミッラの頭の中に、こんな言葉が浮かんだ。
(タピオさんが抜けたなら、戻ったらよかったのでは? わざわざ無理して魔王の間に入らなくても……)
真っ当な考えであったが、マルケッタには言えないミッラ。ただ、約半数の冒険者は同じ意見だったらしく、頭にクエスチョンマークが浮かぶのであった。