041 王都到着
「できるだけ殺すなよ」
「ああ! 半殺しで勘弁してやろう!!」
イロナが生き生きして走り出すと同時に、盗賊たちは臨戦態勢。剣を抜いてわめき散らしている。その数秒後には次々と人が宙を舞い、悲鳴に変わっていた。
その間タピオは、人質を見張っている二人の男に近付いて声を掛ける。
「お前たちも早く逃げたほうがいいぞ」
「誰が逃げるか! お前を人質にしたら、さすがにあの化け物も止まるだろ!!」
よかれと思って逃亡を勧めたのに、残念ながら盗賊には通じず。しかも、二人とも剣を抜いてタピオに近付いた。
なのでタピオは、両手を上げて降参のポーズ。盗賊の一人はゆっくり近付いて、タピオを縄で縛って安心したのも束の間。タピオは縄を引きちぎり、盗賊の頭を片手で掴んで地面に叩き付けた。
するともう一人の盗賊はいきり立って斬り付けるが、タピオは左手の手の平で受けようとする。
盗賊の頭の中では、剣を手で受けたら怪我をする。最悪、手の平は半分ほど小さくなると思ったようだが、タピオは受けると同時に握り潰した。
そしてトドメは、両肩を掴んで力を入れるだけ。盗賊は踏ん張って耐えたが、両足がポッキリ折れて、地面に転がるのであった。
「終わったみたいだな」
両拳が真っ赤なイロナに近付いて声を掛けるタピオ。
「盗賊とは、軽々吹き飛ぶから面白いな!」
「そんなことで嬉しそうにしていたのか……」
「暇潰しにはもってこいだ!」
空飛ぶ人を見るという暇潰しのために盗賊団が瞬殺されたことは、タピオのイロナ取り扱い説明書に「盗賊。見せるな危険」と書き加えられるのであった。
イロナと喋っていたタピオであったが、辺りを確認して、イロナの手を引いて早足に離脱。馬車の客からは感謝されるかもしれないが、護衛でも頼まれたら面倒だと思ったのだろう。
そうなったら移動速度が落ちるし、何よりも護衛の冒険者から文句を言われかねない。なので、逃げるように馬車から離れて行くタピオたちであった。
* * * * * * * * *
残された冒険者たちはというと……
「すげ~……」
「あの女、盗賊をパンチ一発でゴミみたいに吹き飛ばしていたぞ」
「でも、男のほうは、なんだったんだろう?」
「力はありそうだったけど……わからん」
あっという間の出来事で呆気に取られていたが、そんな場合ではない。リーダーらしき男が大声を出す。
「いまは呆けている場合じゃないぞ! 盗賊たちを全員拘束だ! 急げ!!」
「「「「お、おう……」」」」
いくら怪我をしていても、盗賊全員で向かって来られては振り出しに戻りかねないので、冒険者たちは客から縄や服を集め、一人残らず拘束するのであった。
「てか、これが嫌だから逃げて行ったのか?」
「せめて手伝ってくれてもよかったのに……」
命を救ってもらったのに、若干納得のいかない冒険者パーティであったとさ。
* * * * * * * * *
タピオとイロナが馬車から十分過ぎる距離を取ったら、野営の準備。もう日も落ちてしまっているので、星とマジックアイテムのランプの光を頼りにテントを設営する。
それから遅めの夕食を掻き込み、イロナの押し売りは「誰か近付いて来るかも」とやんわりと断って眠りに就く。
そして翌日には、馬車に追い付かれないように早目に出発し、昼食を挟み、3時頃にはカーボエルテ王国の王都が見えて来た。
「まだ遠いと思うが……あの町、デカくないか?」
「イロナは王都は初めてか。俺の国でもだいたいアレぐらいの大きさだったよ」
「前の町でもデカいと思っていたのに、あんな大きな町がいっぱいあるのか!?」
「ははは。イロナでも驚くことがあるんだな」
イロナが驚いているのでタピオは面白がり、普通の人ならハミナの町から王都まで徒歩で10日ぐらいは掛かると説明して笑っていた。イロナの表情が面白いらしいが、その距離をたった2泊3日で走破した二人が異常なだけだ。
二人はぺちゃくちゃと喋り、王都に近付く旅人を何人も追い抜き、中へと入る集団の列に並ぶ。
この行為もイロナとしては初めての体験なのか、話が弾んでいたのでタピオはホッと胸を撫で下ろしていた。行列に並ばせると、イロナが怒るのではないかと心配していたようだ。
いよいよタピオたちの順番になり、冒険者カードを見せて難なく入れることになったが、タピオは盗賊団が出たことを報告していた。
本当は衛兵からいろいろ質問されるところだが、タピオはわざと去り際に言ったので、目を離した瞬間に人混みに紛れて逃げ仰せたのだ。
それから王都をイロナと一緒にイチャイチャ歩き、何軒か宿屋を確認して、そこそこ綺麗な宿屋で休むことにする。
「やっぱり王都だと、風呂と食事がついている宿は高いな。それに狭いし壁も薄そうだ」
部屋の間取を確認するタピオ。壁もコンコンと叩いて夜の心配もしているようだ。
「まぁどこであろうとも、ヤルことは一緒だろう」
男前のイロナには、タピオの心配は通じない。
「あまり騒ぐと、隣の部屋の人に聞かれて恥ずかしいだろ」
「主殿が喘ぎ声(悲鳴)をあげなければ問題ない」
「無理だって~」
こうしてタピオとイロナの王都生活が始まるのであった。
* * * * * * * * *
タピオたちが王都に辿り着いた時を同じくして……
「ここにヤルモが居るのですわね……」
金色のドリルヘアーをした美しい女性が、マント姿の護衛と共に門を潜った。
「勇者様殺害の罪……必ずわたくしが支払わせてやりますわ! オーホッホッホッホッ」
美しい女性は高笑いしながら街に消えて行くのであった……