表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/330

041 王都到着


「できるだけ殺すなよ」

「ああ! 半殺しで勘弁してやろう!!」


 イロナが生き生きして走り出すと同時に、盗賊たちは臨戦態勢。剣を抜いてわめき散らしている。その数秒後には次々と人が宙を舞い、悲鳴に変わっていた。

 その間タピオは、人質を見張っている二人の男に近付いて声を掛ける。


「お前たちも早く逃げたほうがいいぞ」

「誰が逃げるか! お前を人質にしたら、さすがにあの化け物も止まるだろ!!」


 よかれと思って逃亡を勧めたのに、残念ながら盗賊には通じず。しかも、二人とも剣を抜いてタピオに近付いた。

 なのでタピオは、両手を上げて降参のポーズ。盗賊の一人はゆっくり近付いて、タピオを縄で縛って安心したのも束の間。タピオは縄を引きちぎり、盗賊の頭を片手で掴んで地面に叩き付けた。


 するともう一人の盗賊はいきり立って斬り付けるが、タピオは左手の手の平で受けようとする。

 盗賊の頭の中では、剣を手で受けたら怪我をする。最悪、手の平は半分ほど小さくなると思ったようだが、タピオは受けると同時に握り潰した。

 そしてトドメは、両肩を掴んで力を入れるだけ。盗賊は踏ん張って耐えたが、両足がポッキリ折れて、地面に転がるのであった。



「終わったみたいだな」


 両拳が真っ赤なイロナに近付いて声を掛けるタピオ。


「盗賊とは、軽々吹き飛ぶから面白いな!」

「そんなことで嬉しそうにしていたのか……」

「暇潰しにはもってこいだ!」


 空飛ぶ人を見るという暇潰しのために盗賊団が瞬殺されたことは、タピオのイロナ取り扱い説明書に「盗賊。見せるな危険」と書き加えられるのであった。



 イロナと喋っていたタピオであったが、辺りを確認して、イロナの手を引いて早足に離脱。馬車の客からは感謝されるかもしれないが、護衛でも頼まれたら面倒だと思ったのだろう。

 そうなったら移動速度が落ちるし、何よりも護衛の冒険者から文句を言われかねない。なので、逃げるように馬車から離れて行くタピオたちであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 残された冒険者たちはというと……


「すげ~……」

「あの女、盗賊をパンチ一発でゴミみたいに吹き飛ばしていたぞ」

「でも、男のほうは、なんだったんだろう?」

「力はありそうだったけど……わからん」


 あっという間の出来事で呆気に取られていたが、そんな場合ではない。リーダーらしき男が大声を出す。


「いまは呆けている場合じゃないぞ! 盗賊たちを全員拘束だ! 急げ!!」

「「「「お、おう……」」」」


 いくら怪我をしていても、盗賊全員で向かって来られては振り出しに戻りかねないので、冒険者たちは客から縄や服を集め、一人残らず拘束するのであった。


「てか、これが嫌だから逃げて行ったのか?」

「せめて手伝ってくれてもよかったのに……」


 命を救ってもらったのに、若干納得のいかない冒険者パーティであったとさ。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 タピオとイロナが馬車から十分過ぎる距離を取ったら、野営の準備。もう日も落ちてしまっているので、星とマジックアイテムのランプの光を頼りにテントを設営する。

 それから遅めの夕食を掻き込み、イロナの押し売りは「誰か近付いて来るかも」とやんわりと断って眠りに就く。


 そして翌日には、馬車に追い付かれないように早目に出発し、昼食を挟み、3時頃にはカーボエルテ王国の王都が見えて来た。


「まだ遠いと思うが……あの町、デカくないか?」

「イロナは王都は初めてか。俺の国でもだいたいアレぐらいの大きさだったよ」

「前の町でもデカいと思っていたのに、あんな大きな町がいっぱいあるのか!?」

「ははは。イロナでも驚くことがあるんだな」


 イロナが驚いているのでタピオは面白がり、普通の人ならハミナの町から王都まで徒歩で10日ぐらいは掛かると説明して笑っていた。イロナの表情が面白いらしいが、その距離をたった2泊3日で走破した二人が異常なだけだ。



 二人はぺちゃくちゃと喋り、王都に近付く旅人を何人も追い抜き、中へと入る集団の列に並ぶ。

 この行為もイロナとしては初めての体験なのか、話が弾んでいたのでタピオはホッと胸を撫で下ろしていた。行列に並ばせると、イロナが怒るのではないかと心配していたようだ。


 いよいよタピオたちの順番になり、冒険者カードを見せて難なく入れることになったが、タピオは盗賊団が出たことを報告していた。

 本当は衛兵からいろいろ質問されるところだが、タピオはわざと去り際に言ったので、目を離した瞬間に人混みに紛れて逃げ仰せたのだ。


 それから王都をイロナと一緒にイチャイチャ歩き、何軒か宿屋を確認して、そこそこ綺麗な宿屋で休むことにする。


「やっぱり王都だと、風呂と食事がついている宿は高いな。それに狭いし壁も薄そうだ」


 部屋の間取を確認するタピオ。壁もコンコンと叩いて夜の心配もしているようだ。


「まぁどこであろうとも、ヤルことは一緒だろう」


 男前のイロナには、タピオの心配は通じない。


「あまり騒ぐと、隣の部屋の人に聞かれて恥ずかしいだろ」

「主殿が(あえ)ぎ声(悲鳴)をあげなければ問題ない」

「無理だって~」


 こうしてタピオとイロナの王都生活が始まるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 タピオたちが王都に辿り着いた時を同じくして……


「ここにヤルモが居るのですわね……」


 金色のドリルヘアーをした美しい女性が、マント姿の護衛と共に門を潜った。


「勇者様殺害の罪……必ずわたくしが支払わせてやりますわ! オーホッホッホッホッ」


 美しい女性は高笑いしながら街に消えて行くのであった……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ