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前科三犯、現在逃走中のオッサンは老後が心配  作者: ma-no
01 前科(アルタニア帝国)
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004 逃走


 勇者パーティに裏切られたヤルモは、地上に帰ってトボトボと歩いていたら、衛兵に囲まれる事態となった。


 また身に覚えの無い罪で捕まるのかと体が固まるヤルモ。だが、その時、見覚えのある女が顔を出した。


「この男ですわ! この男がわたくしたちを残して逃げたから、勇者様が死んでしまったのですわ!!」


 聖女マルケッタだ。マルケッタがヒステリックにヤルモを犯罪者だと捲し立て、衛兵を引き連れてやって来たのだ。

 当然、ヤルモは身に覚えのない罪なので、呆気に取られている。


「わくたしがここにいることに驚いてるみたいですわね。そうですわ。一度死に、皇家に伝わる聖玉を使って教会で生き返ったのですわ!」


(それじゃない……驚いている理由はそれじゃないんだ……)


 と、ヤルモは心の中でツッコんだ。だが、そんな場合ではない。またしても(いわ)れの無い罪をでっち上げられている。


「お、お前たちが、俺が戻ろうと言ったのに、聞かなかったんだろ!」


 ヤルモは声を大にして反論するが、マルケッタはニヤリと笑った。


「ほらね? 言った通り、魔王の姿を見て逃げ出したと認めたでしょ? 前科者のこいつが勇者様を殺した犯人なのですわ!!」

「ち、ちがっ……」


 マルケッタには、ヤルモが「戻る」と言ったと言わせれば十分だった。これで敵前逃亡し、勇者パーティがバランスを崩して負けたと印象付けられるのだから……


「その男を捕らえよ!!」


 そのマルケッタの策略で衛兵は動き出し、ヤルモを捕まえようとする。


「う、嘘だ嘘だ嘘だ! 俺は何もしていな~~~い!!」


 ヤルモ、錯乱状態。何度も(いわ)れのない罪を着せられたこともあり、捕まりたくない思いよりも裏切られ続けたことが悲しくて、泣きながら走り出した。

 当然、衛兵はヤルモを捕らえようと道を塞いだが、跳ね飛ばされてしまった。しかし、衛兵もこれが仕事だ。ヤルモを追いかける。



 ヤルモはレベルが通常の職業の者より倍以上高いので、鈍足であっても衛兵より速い。なので衛兵は馬に乗って追いかけ、縄を投げて捕らえようとする。

 だが、縄が引っ掛かっても力が強いので、衛兵の力では止められない。馬から落ちて引きずられるだけだ。その衛兵は必死に剣を抜いて縄を切り、なんとか止まることとなる。


 ヤルモを捕らえることは不可能。それならば、追いかけて疲れさせればいい。走る人間など、馬に勝てるわけがない。

 そう思っていた衛兵だが、ヤルモは一向にスピードが落ちない。なんなら馬のほうが音を上げる始末。


 それは当然。重戦車の特殊スキル……いや、鉱夫のスキルに【重労働】があるからだ。


 この【重労働】は、三日三晩、眠らずに働き続けられるスキル。戦闘といった激しい動きをしなければ、眠らずに動き続けられのだ。

 ヤルモも走っているだけなので、疲れることはない。馬を振り切って、三日三晩走り続けた。

 それだけの距離を稼げたのならば、追っ手の心配はない。事実、馬はヤルモから二日以上遅れた場所で止まっている。

 ヤルモはそのことに気付いていないようだが、三日も寝ていなかったので、疲れから倒れるように眠りに就くこととなった。



 翌日は、追われる夢を見て飛び起きたヤルモであったが、衛兵も馬の姿も無く、夢だったと思う。だが、自分の汚れた靴と、何もない広野だったため、現実なのだと受け止めることにした。

 なので、また三日三晩走って眠り、アルタニア帝国とユジェール王国の国境付近になると山に入って国境を越えることにした。


 ヤルモは元々移動して生活することが多いので、必要な物は常に腰袋の中に入っている。その腰袋は大枚をはたいて買ったアイテムボックスなのでかなりの量が入る。

 概算の性能は、家一軒が丸々入ると売り文句の腰袋。もちろん家なんて入らないのだが、家に入る量の家具が出て来たことは確認済みなので、嘘とまでは言えない。

 そこに全財産と、一ヶ月は困らない水と保存食、武器や防具や着替え、小さなテントや寝袋、生活必需品が入っているので、どこででも暮らしていけるのだ。


 山に入ったヤルモは、ここでも三日三晩眠らず、遭遇したモンスターを食べながら走破。隣国のユジェール王国に入った。

 ここでなら捕まらないかと思ったが、念のため、もうひとつ国境を越えることを決める。ただし、そこまで急ぐ必要はないだろうと町で休み休み進み、国境になると山越えを選ぶ。



 そうして辿り着いた国は、カーボエルテ王国。システムは故郷のアルタニア帝国と大差ないので、冒険者ギルドもダンジョンもあるから、ヤルモにとっては住みやすい国だ。

 だがヤルモは、冤罪とはいえ前科三犯と逃亡中の身。名を捨ててひっそりと暮らすしか道がない。とりあえず入った冒険者ギルドで偽名の登録に挑むことにした。


 名前はタピオ。職業は武道家。「一身上の都合で辞め、二十年振りに再登録する」という嘘を、百回練習してからギルド職員に説明すると、あっさりオッケー。歳がいっていること以外は特にツッコまれなかった。

 多少怪しい者でも、この国は金払いのいい者は優遇される商人国家。冒険者ギルドもその傾向は強く、登録料込みの転職手間賃が浮いたので、職員は儲けたと思っている。

 普通は「転職費用を返せ」と文句を言われることが多いので、タピオは上客、もしくはバカと覚えられることとなった。


 冒険者カードを手に入れたタピオは、町やダンジョンに入る制約が無くなったので、次の行動に移る。

 せっかく誰も自分のことを知らない土地に来たのだから、拠点を作ることに決めた。ギルド職員に、大きすぎず小さすぎず、都会すぎず田舎すぎず、丁度中間の町はないかと聞いて、その町に向かって走り出したタピオであった。


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