317 トゥオネタルの魔王6
サタンの魔法【魔界の業火】を受けきると、イロナが前に出ようとしたがすぐにヤルモの後ろに隠れた。
「なんだ?」
「力を入れろ!」
「えっ? なんかビリッと来た!?」
サタンが黒い雷【魔界の雷】を放ったからだ。
「クックックッ。あんなに速い魔法も持っているのか」
イロナが褒めるほどの魔法だったからでもあるが、ヤルモは呪いの大盾のおかげでまだ余裕そうだったからイロナは心配もしない。
「それじゃあ前に出れないか……俺がイロナの間合いまで連れて行く」
「いや、いい!」
「イロナ!」
そんな危険な魔法なのに、イロナはヤルモの指示を無視して駆け出してしまった。
「チッ……うおおぉぉ!」
作戦変更。イロナが飛び交う黒い雷を大回りで避けながら走っているのなら、ヤルモは大盾を構えて前進するだけ。これでイロナの援護になるはずだとヤルモは思っているのだろう。
「【魔界の雷】【魔界の吹雪】」
サタンは左右に魔法陣を展開して、イロナには最速の黒い雷を放ち、ヤルモには黒い雪と風をぶつける。
こうなってはイロナは近付けないし、ヤルモも足を止めるしかないとサタンは思っているのだろう。
「さっぶ~~~!! ……あ?」
しかし、ヤルモは重戦車。吹雪に耐えながら、ドンッとサタンを轢いた。
「もらった!」
そこにすかさずイロナの斬り付け。サタンを数度斬って地面に叩き付けた。そこからの連続突き。とんでもない手数の突きで、サタンを穴だらけにする。
「舐めるな~!」
ここでサタンは初めて余裕の態度を崩す。剣を振り回して強引に立ち上がり、イロナを標的にした。
「グフッ!?」
「俺のこと忘れてないか?」
その隙に、ヤルモがバズーカフルスイング。振り切って、サタンを地面に叩き付けてからの挑発。声でバレないようにするとは、徹底的に汚い。いや、徹底的に慎重派だ。
さらにイロナまで呼んでボコボコにしてるよ。
「ふざけよって……【魔界の針山】」
「「チッ……」」
残念ながら、サタンの体から真っ黒な針が百本近く生えてはトドメまで行けず。ヤルモは大盾で受け止め、針に押されて射程外に。イロナは素早く後ろに跳んで、スマートに針から脱出。
そのまま走ってヤルモと合流するイロナであった。
「さっきので第二形態に行くと思ったのにな」
「あ……やっぱり?」
先程の舌打ちは、サタン第二形態に持って行けなかったから。イロナは本当にその舌打ちだったが、ヤルモは攻撃が来たから舌打ちしたのにウソついてるな。
そうしてサタンに目を戻すと、真っ黒な針はドスンドスンと落ちて、サタンの姿が徐々に現れる。
「マジかよ。ピンピンしてやがる。俺的にはサキュバス魔王の倍以上のダメージを与えたと思うんだけど、ここの魔王だとやっぱりまだまだ足りないのか?」
「まぁそれもあるかもしれないが、他にも理由があるかもしれない。主殿は何か気付いたことはないか?」
「う~ん……そういえば、力が強くなったり弱くなったりしてたかも? たんに手加減してただけかもしれないけど」
「少し謎解きが必要か……そっちは主殿に任せた」
「えっと……イロナは??」
「遊んで来る!!」
「おお~い」
またもイロナは作戦外行動。考えることはヤルモに丸投げして、サタンに突っ込んで行った。ヤルモは呆れていたが、乗り遅れてしまったので渋々サタンの弱点を探している。
「う~ん……余裕。このまま倒してしまうんじゃないか?」
しかしながらヤルモのいなくなった戦闘は、イロナに取っては伸び伸びできるのか、先程より動きがよくなっているように見える。
【魔界の雷】を少し掠りながらも掻い潜り、接近戦に持ち込めばサタンは魔法を使う余裕が無くなる。だが、サタンは剣術の腕が上がっているのか、ダメージ事態は少なくなっている。
「とりあえず、俺は見てるしかないか」
ひとまずヤルモはイロナVSサタンの戦いを見て、不自然な点を探す。そのなかで、サタンの速度が微妙に上がるシーンに着目した。
「あ~……強化魔法? いや、サタンが魔法を使う時は魔法陣が出ていたはずだ。となると、誰かが支援魔法を使っているとかか……」
ここでヤルモは外にも目を向ける。サタンをチラチラ見つつ、支援魔法を使っているモンスターを探してみたが、ヤルモでは発見に至らない。
「マッズイな~。探知魔法でしか発見できないヤツだと、俺では見付けられないぞ……ん?」
ヤルモが諦めた瞬間、違和感に気付いた。
「ま、まさか。そんなことって……いや、当たりかも……ヤバイ!!」
焦ったヤルモはイロナの元へ向かわずに、ペッコの元へ走った。
「おい、ペッコ! 頼みがある!!」
「あん? いっちゃんに加勢するのか?」
「いや……」
ペッコはなかなか色良い返事をくれなかったので、ヤルモは丁寧に説明して頭まで下げる。さすがにそこまでされたらペッコも渋々伝令に走ってくれた。
その姿を見送ったヤルモは、ドタドタと全力疾走。イロナとサタンの戦闘区域に入ると、邪魔しないように大盾を構えてジリジリと近付く。
「主殿! 合わせろ!!」
「おおぉぉ!!」
ヤルモに気付いたイロナは、遠心力を使っての強烈な峰打ち。吹っ飛んで来たサタンをヤルモは大盾で弾き返した。
「【昇龍斬】!」
返って来たサタンに、イロナはスキル発動。下から上に刀を振るうと、龍のような斬撃がサタンに喰らい付いた。
「ファイアー」
『ファイアー』
「すげっ……」
そんな芸術的なスキルを見たヤルモは、追い討ちのロケット弾を十発飛ばしてから見入っている。本当は見惚れそうになったけど、冒険者の本能が勝ったようだ。
この連続攻撃によって、サタンは天井に打ち付けられ、落下中にロケット弾を浴びて、離れた場所に打ち付けられるのであった。
「それで……謎解きは終わったのか?」
イロナは着地して近付くと、ヤルモは神妙な顔で語る。
「ああ。サタンは死んだ悪魔系統のモンスターのエネルギーか何かを吸っている」
「と、いうことは……」
「トゥオネタル族が悪魔を殺せば殺すほど、サタンは強くなるって寸法だ」
これがトゥオネタル族が敗北した真相。普段モンスターが死ぬと光の粒子となり、ダンジョンに吸い込まれてエネルギーが還元されるのだが、サタンがそのエネルギーを奪っていたのだ。
スタンピードで悪魔系統のモンスターを殺しまくり、280階もの階段を下る途中でも殺しまくったから、サタンはトゥオネタル族でも対応できないぐらい強くなってしまったのだ。
「なるほどなるほど。さらに待てば、もっと強くなるってわけだな。クックックックッ」
「そうなる前に倒そうって言ってるんだよ~」
そんな危機的状況なのにイロナは笑うので、ヤルモは泣き言をいうのであったとさ。