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311 トゥオネタルのダンジョン5


 ベヒーモスは楽々倒せたが、ヤルモが命を懸けてイロナを守ると言ったがために、泣きながら止めようとするイロナの抱擁を喰らって瀕死の重傷。

 イロナがぐったりしているヤルモに気付いたからギリギリ死にはしなかったが、ヤルモが目が覚めた時には地下140階のセーフティエリアであった。


「あれ? なんで俺はこんな所に……」

「主殿が恥ずかしいことを言うから、叩く力加減をミスってしまったんだ」


 ヤルモは記憶が飛んでいるのでイロナは嘘をつく。取り乱して涙を流したことが恥ずかしかったみたいだ。


「だから俺は寝てたのか……ん? 俺、殴られたっけ??」

「ほら? ベヒーモスのドロップアイテム、拾っておいてやったぞ」

「デッカ……こっちはレジェンドか!?」


 しかしヤルモが思い出そうとするので、今度はドロップアイテムで話を逸らす。大きな魔石でも十分にヤルモの気を逸らせていただろうが、その隣の刃の部分が幅の広い立派な大剣に目が行くと、完全にイロナの涙は忘れた。


「両手持ちの大剣か~……俺でも装備できるけど、イロナが使うか?」

「主殿が使えるなら、主殿が使ったらどうだ?」

「大き過ぎると、盾とぶつかるんだよな~」

「我も大剣だと空気抵抗が気になるのだ」


 大剣はお互い好みの武器ではないらしく、使用者は保留。イロナの予備で使うかヤルモが盾無しで使うか、その時々で考えるようだけど、レジェンド装備なのでトゥオネタル族に譲るという発想はヤルモにはない。

 そうしていたら、ヤルモたちがテントを張る前にトゥオネタル族が現れたので、今日は例のアレは無し。イロナも今日はヤルモの顔を見るのが気恥ずかしいのか、それならば仕方がないとか言っていた。



 本日も武器の分配をして、ヤルモは料理の先生。昨日とは違う料理を催促されるが、もうレパートリーは尽きているので、復習とか言って納得させる。

 お腹がいっぱいになると、話し合い。イロナの勘ではまだ魔王は動いていないので、ちょうど温泉の湧いているここを拠点として、上と下の3階を攻めてアイテムを集めさせる。


 念のため、ペッコは144階に向かう階段で待機。音を聞かせて、階段から上がって来るモンスターがいないかのチェックをさせる。イロナから命令させたので、素直に従ってくれている。

 トゥオネタル族には昼食用の携帯食だけ持たせて、お腹がすいたらセーフティエリアに戻るように指示を出していたので、夜の時間帯には全員ドロップアイテムを担いで戻っていた。



 140階を拠点にしてから三日……


「う~ん……なんか感じが変わったな」


 朝食の席で、イロナが首を捻っていた。


「ついに来たか……撤収だ!」


 それだけで、ヤルモは魔王が動き出したと判断。トピアスに指示をさせて、急いで撤収の準備をさせる。

 トゥオネタル族が食事を掻き込んでいる間に、ヤルモは荷物を背負った少年を転送魔法陣に連れて行く。魔王が移動していても転送魔法陣は使えたので、食事の終わった者から荷物を担いで地上へ。

 最後のトピアス家族に人数確認させて、漏れがないことを確認したらヤルモとイロナも地上に戻るのであった。


 地上に戻ると、今日のところは一時解散。地下280階から魔王はモンスターを配下に加えながら地上を目指すのだから、2、3日は確実に猶予があるので、皆を休ませるようだ。

 とりあえずヤルモたちも今日は休むので、まずはお風呂。トゥオネタル族が押し寄せる公衆浴場は人がいっぱいなので、イロナの秘密基地にて疲れを落とす。

 しかし、二人は久し振りにはっちゃけていたので、イロナの家に帰った頃には疲れた顔になっていた。特に暴力を受けたヤルモが……



 夜の食事の席では、アイリがシチューを作ってくれていたので美味しくいただき、食事が終わればヤルモとトピアスは話し合っていた。


「問題は、魔王が何日でダンジョンから出て、どこで迎え撃つかだな」

「さっぱりわからん。お前が考えろ」


 トピアスはヤルモに丸投げなので、ヤルモはブツブツ言いながら考える。


「俺の足だと、単純計算で14日か……魔王って寝るのかな? 寝ないと考えたら7日。最低5日は時間があるか……」


 ヤルモは予想の日にちを決めると、次は場所をトピアスに確認する。


「ちなみにだけど、ダンジョンの外で戦うのはアリか?」

「う~ん……ま、家が壊れたら建てたらいいか」

「すぐ諦めるなよ」


 トゥオネタル族では物の価値観が違うので、たとえ実家を壊されたとしてもたいして悲しみもない模様。しかし、ヤルモとしてはかわいそうに思えて仕方がない。

 ダンジョンのすぐ近くに民間が囲むように建っているのでは、壊れるのは確実。最悪、イロナと魔王の戦闘の余波で、集落は消し飛んでしまう。いや、これも確実に待っている未来だ。


「やっぱ中で戦うほうが被害が少なそうだな。1階で戦いたいけど、広い場所もあまりないし、モンスターがうっとうしいか……20階のセーフティエリアが一番無難かもな」

「じゃあそんな感じで」


 ヤルモがブツブツ言って結論が出たところでトピアスは即決。あとは日にちもヤルモに決めさせて、討伐の日まで休養を取る一同であった。



 魔王が動き出してから三日後……


「「「「「ヒャッハ~~~!!」」」」」


 休養や装備品の確認、諸々の準備を済ませたら、トゥオネタル族は進軍した。


 今回もトゥオネタル族は元気ハツラツでモンスターに向かっているのだが、無駄に体力を使わせないために、ヤルモの作った地図通りに進ませる。

 最初は戦えなくてブーブー言っていたトゥオネタル族だが、一切迷いなく下の階に続く階段に辿り着くのだから、その声は小さくなった。けど、慣れて来たらまたブーブー言ってた。


 多少は隊列が乱れることはあったが、強いトゥオネタル族ばかりなので、夕方には地下20階のセーフティエリアに全員集合。炊き出しのあとには、全員集めての打ち合わせをする。


「まず、魔王は俺とイロナで倒す! 四天王は……」


 ここまでくれば、トピアスはもうヤルモに丸投げ。細かい作戦は面倒らしい……


 しかし、ヤルモも細かい作戦は苦手。大雑把に強いパーティから四天王に当てて、その他は魔王と四天王にモンスターを近付かせない役目。

 モンスターが上の階から来たり横を抜けて上に逃げようとした場合は、階段を封鎖している子供たちの仕事。もしもの撤退の場合は、この子供たちには地図を持たせているので、イロナを連れて帰るのも仕事だ。



 打ち合わせが終わり、各々自由に過ごして二日……


「来たぞ~~~!!」


 地下へ向かう階段を見張らせていた男が、大群の足音を聞いて走って来た。


「上で遊んでる奴らを呼び戻せ! すぐに戦支度(いくさじたく)だ!!」


 その声に呼応して、トピアスが大声を張り上げて指示。トゥオネタル族は慌ただしく動き回る。そして……


「さあ来い……クックックックッ」

「その笑い方、怖いんだけど……」


 イロナは妖しく笑ってヤルモを引かし……


「ぎゃははは」

「キャハハハ」

「ぐふっぐふふ」

「ゲッゲッゲッゲッ」

「全員笑ってるよ……」


 トゥオネタル族全員が気持ち悪い笑い方するので、ヤルモは背筋に冷たいモノを感じる。


 これって、イロナのクセじゃなかったんだ、と……


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