310 トゥオネタルのダンジョン4
ヤルモ&イロナVSベヒーモスの戦闘は、ヤルモがジリジリ前進して間合いに入ると、ベヒーモスの咆哮と共に開始する。
初手はベヒーモス。角を前に向けて、凄い速度で突っ込んで来た。
「重っ!?」
さすがは地下280階もあるダンジョンボスと同じ強さのレアボス。ヤルモの実力を持ってしても、ベヒーモスの角を大盾で受け止めると押し込まれてしまった。
「ぐおっ!?」
「偉そうなことを言っておいて、その程度か?」
そこをイロナが、ヤルモの背中を片手で受け止めてからのちょっとした説教。ヤルモはベヒーモスとイロナに押されて辛そうだ。
「ちょっと速度を見誤っただけだ。次は完璧に受け止める。とと……」
喋っている暇は与えてくれないベヒーモス。両腕に力を込めて、拳を落としまくる。
その猛烈な攻撃に、ヤルモは力だけでなく技で対応。少しだけ前に出たり下がったりしながら、攻撃の一番力が乗るポイントをずらしてしっかりと大盾で受け止める。
「オラッ! いまだ!」
「わかっている!」
ヤルモがベヒーモスの攻撃を弾き返した瞬間、合図の前にイロナは動き出す。そしてベヒーモスの右から斬り付け、大ダメージを与えた。
「うおおぉぉ~!!」
このままではイロナがターゲットになるので、ヤルモはロケット弾を連射しつつ、ベヒーモスの足をバズーカでぶん殴る。
ベヒーモスは顔面に五発のロケット弾を喰らったがダメージは少ない。だが、目を眩ますには十分。そこにきつい一発を足に喰らったので、ベヒーモスはヤルモを睨んだ。
「フンッ!」
ベヒーモスがイロナから目を離すと、連続斬り。またしてもイロナにベヒーモスのターゲットが移ったがすぐにヤルモの後ろに戻ったので、攻撃はヤルモが大盾で引き受ける。
「その調子だ!」
「なんだかな~」
ヤルモとしては、最高のデキ。イロナとしては、簡単すぎるのでイマイチ。しかし、今回はヤルモの作戦通り動く約束をしているので、イロナは指示に従ってくれている。
ヤルモは上手く受けてはいるが、ベヒーモスの攻撃力は本物だ。少しずつだがHPは減っている。しかしヤルモのHPは膨大なので、いまのところ回復アイテムの出番は無し。
でも、ダメージの減少は少なくしたいのか、他の対策。ベヒーモスが攻撃するタイミングで、ロケット弾を放って顔にぶつける。
これで三回に二回はHP減少はゼロ。今度はMPの節約方法を考えながら戦い続ける。
その間もイロナはヒットアンドアウェイでベヒーモスのHPをガンガン減らしていたので、ヤルモが思っていたより早く、ベヒーモスの【発狂】が発動するのであった。
ベヒーモスの【発狂】は、炎を撒き散らしながらの暴れ牛状態。真っ直ぐヤルモに向かって来る場合もあるが、ほとんどヤルモに当たらずに走り去り、戻るを繰り返している。
「ほとんど時間稼ぎだな」
「うむ……」
「イロナなら正面から向かい撃てるんだろうけど、俺が止めてから足を狙ってくれ」
「はぁ~~~」
やはりヤルモの作戦にイロナは乗り気ではない。しかし反論はせずにため息だけだったので、ヤルモは肯定と受け取って最後の戦いに挑む。
ベヒーモスが切り返してヤルモの近くを走り抜けるコースを見定めると、ヤルモはドタドタ走ってどっしり構える。
予定通りベヒーモスが正面から走って来たら、ヤルモはロケット弾を乱射。プラス、バズーカからエネルギー波を放ってベヒーモスの推進力を削る。
「ぐおおぉぉ!!」
「チッ……」
ヤルモが声を張り上げてベヒーモスの突撃を大盾で止めると、イロナは舌打ち。失敗を望んでいたようだが、瞬く間にベヒーモスの右足と左足を斬り落とした。
「一気に仕留めろ!!」
「はいはい」
ここまで来たら、もうイロナはやる気なし。ヤルモは正面からベヒーモスの攻撃を大盾で受けているから大変だけど、イロナがベヒーモスの背中を斬りまくってくれたので、すぐに決着となるのであった。
「フゥ~……しんど。やっぱ、トゥオネタルのラスボスは他と全然違うな」
ベヒーモスが倒れると、ヤルモもその場に腰を落とし、戻って来たイロナに目を向けた。
「せっかくのレアボスなのに、主殿のせいで興醒めだ」
ヤルモとは違い、イロナは楽すぎて手応え無し。頬を膨らませている。
「そんな顔するなよ~。俺だって魔王と戦う前に練習しときたかったんだ。どれぐらい強いかわかっていないと、イロナを守れないだろ」
「我を守る、か……」
「そうだ。もしもの時は俺を捨てて、カーボエルテまで逃げろ。イロナさえ生き残れば、世界は守られるはずだ」
ヤルモの作戦はこうだろう。カーボエルテ王国にはクリスタかいる。イロナでも倒せなかった魔王ならば、クリスタが世界中の勇者パーティを集めてくれる。
その戦力と、敗北を知ってレベル上げをしたイロナなら確実に魔王を倒してくれると……
「主殿……我のために死ぬ気なのか?」
まさかヤルモが自分のために命を差し出そうとしていると知って、あのイロナでも驚いている。
「イロナと結婚式ができないのは残念だけど、イロナが死ぬよりマシだ。先に言っておく……こんな俺と愛し合ってくれてありがとう」
ヤルモが頭を下げるとイロナは……
「そんなのダメ~~~!!」
涙ながらの抱擁。ヤルモが男気を見せたから、イロナは初体験だったので感動したのだろう。
「ごふっ!? し、死ぬ……」
その抱擁は、ヤルモでも死ぬレベルのタックルと締め付けだったので、瀕死の重傷となるのであったとさ。