309 トゥオネタルのダンジョン3
地下100階のセーフティーエリアに着いたヤルモとイロナは、テントに入るや否や何やらヤッていた。ここ数日ずっと我慢していたから溜まっていたようだ。ヤルモは一人の時に発散してたけど……
このために地下80階からブッ飛ばして来たから、二時間は楽しめた二人。スッキリした顔で、トゥオネタル族を出迎えたのであった。
「武器はどれぐらい集まった?」
食事が終わると、トピアスとこれからのことを話し合うヤルモ。
「全員に1本ずつ。半分に2本は行き渡った」
「おお~。まずまずの量だな」
「だな。こんな数の武器を見たのは、俺も初めてだ」
「あとはまだ進むか、戻りながら集めるか……どうしたらいいと思う?」
ヤルモは参謀であっても初体験なので、賢者ヘンリクのように完璧な作戦は立てられない。なので族長であるトピアスに意見を求めた。
「お前が決めろ。その決定に、必ず従わせてやる」
どうもこれまでのヤルモの行動でトピアスも認めつつあるから、こんな信用しているような言葉が出たのだろう。
「つってもな~……イロナはどう思う?」
なのにイロナを頼ろうとしているので、信用が薄れていた。
「知るわけなかろう」
「だよな~……せめて魔王の位置がわかればいいんだけど……勘でもいいから、動いているかわかないか?」
「わかるわけ……いや、なんとなくだが、動いてない気がする」
「おっ! それならもう少し進むか」
ヤルモはイロナに絶大な信頼をしているので、即決定。イロナなら、魔王臭を嗅ぎ分けられるとでも思っているみたいだ。
「そんなのでいいのか??」
しかし、トピアスはそんな不確かな情報で決めるのは些か納得がいかない。
「まぁもしもの時は、ペッコって奴を犠牲にして逃げたらなんとかなるだろう。あいつ死なないしな」
「むう……わかった」
仲間を犠牲にする作戦は、特に何も言わないトピアス。おそらく、イロナとの仲を復活してもらえるようにペッコが頼みに来まくるから、うっとうしいのであろう。
こうしてペッコを犠牲にする酷い作戦は、決行に至るのであった……
地下101階からはモンスターの強さはよりいっそう上がり、トゥオネタル族でも攻略速度が遅くなって来た。しかし、数で押せば楽勝で倒せているので、ヤルモはまだ大丈夫と確信してイロナと先を進む。
そのイロナはというと、手数は増えたものの敵ではないので楽勝でモンスターを倒しているが、ヤルモは早くも辛そう。
「遅い!」
「イロナと比べるなよ~」
そう。二人パーティなのに、イロナが手伝ってくれないし、盾役一人ではどうしても遅れるのだ。なんならイロナがモンスターを多く回して来る場合があるので、ペースも乱されてしまう。
それなのにイロナが怒るから、ヤルモは精神的に辛いのだ。
そうこう進んでいたら、地下120階の今日の夜営地に到着。ヤルモとイロナは急いでテントに入り、スッキリして小一時間待つと、アイテムの分配と食事。イロナの勘頼りに進むことに決めて、次の日の夕方前……
「アレって、レアボスじゃね?」
地下140階の階段の手前だと思われる開けた場所で、魔法陣から巨大なモンスターが出て来た。
「クックックッ。ベヒーモスか。なかなかいいのを引いたな」
「アレがベヒーモス……」
ヤマタノオロチに続いて、伝説級のモンスターの登場。一見、巨大な牛のような見えるが、前足は人間の腕のようになっており、尻尾も太くて強靱。カーボエルテで出くわしたアークデーモンの上位種に当たる悪魔だ。
そんな伝説級の悪魔を引き当てたのに、イロナはのん気なもの。ヤルモは一瞬感動したが、こんな時に出なくていいのにとも思っている。
「クックックッ。どう料理してやろうか……」
イロナは怖い顔で笑っていてまだ行かないので、ヤルモは相談してみる。
「たまには二人で戦ってみないか?」
「二人でか……あまりモフモフしてないから却下だ」
「いや、撫でるために言ったんじゃなくて、コンビネーションをよくするためにな。魔王は強いらしいし、俺も少しは役に立ちたいんだ」
ヤルモとしては、イロナのためを思って言った言葉であろうが……
「我が負けるとでも……」
イロナの髪の毛が逆立っているのでめっちゃ怖い。
「思ってない……こともない……」
「どっちだ!!」
ヤルモが中途半端なことを言うと、イロナの怒りが沸き上がる。
「正直言うと、イロナでも負ける可能性は、ゼロではないと俺は考えている」
「ほう……我に意見するとは偉くなったものだな……」
「だってそうだろ! アルタニアの時には苦戦していた! 今回の魔王は、トゥオネタル族全員で逃げるのがやっとだったんだぞ! それも第一形態でだ!!」
珍しくヤルモが声を荒らげるので、イロナはキョトンとした顔になった。
「第二形態はアレを使えば勝てるだろうけど、もしも第三なんてあったらどうするつもりだ! 俺はイロナに死んでほしくないんだよ!!」
ヤルモが心内をさらけ出すと、イロナはヤルモの胸にもたれかかる。
「イロナ?」
「人に心配されたのはいつ以来だろうか……そうだ。子供の頃に無茶をして、ジイさんに助けられた時か……我は強くなり過ぎて、同じことを繰り返そうとしていたのだな」
ヤルモはイロナがわかってくれたと喜び、頭を軽く撫でた。
「それじゃあ、あいつで練習だ!」
「おう!!」
二人は軽く打ち合わせをすると、ベヒーモスとの戦いを開始するのであった。