308 トゥオネタルのダンジョン2
「「「「「うんめぇ~~~!!」」」」」
素人のヤルモが教えて素人のトゥオネタル族が四苦八苦しながら作ったシチューなのに、全員大満足。泣きながら食べてる人もいるので、ヤルモはいたたまれない。
「ヤルモ君。うちの婿になって、毎日これ作ってくれない? ヤルモ君が作ったほうが美味しかったのよ~」
イロナの母親のアイリからは印象値が爆上げなので、ヤルモも困っている。
「いや、あのですねお義母さん。俺、最近料理始めたばっかなんで、腕前はたいして変わんないっすよ」
「あんなに美味しかったのに!?」
「俺も知り合いから教えてもらっただけなんで。てか、俺の料理なんて、ちゃんとした料理人が食べたら怒るレベルっすよ」
「天才に見えるのに……人族ではもっと美味しい物があるんだ。今度、あたしも行ってみようかしら~」
「あ……」
ヤルモ、いまさらやっちまったと気付く。料理を広めてもっと美味しい物があると知ったら、トゥオネタル族が外に出てしまうのではないかと……
この日は、自分が人族を滅亡させるのではないかと、不安でなかなか眠れないヤルモであったとさ。
翌日は、二日目のシチューを食べたトゥオネタル族は元気ハツラツ。
「「「「「ヒャッハ~~~!!」」」」」
地下21階からもモンスターは強いのに、美味しい物を食べてテンションの高いトゥオネタル族は、物ともせずに散り散りに進む。
ヤルモとイロナは普通のテンションで真っ直ぐ先行して進み、余裕があるのでお喋りしている。
「ホント、モンスターのレベルが高いな。とてもジェネラル級とは思えない。強さでいったら、キングどころかエンペラーにも届きそうだ」
「まだまだ序の口だ。下層には、魔王クラスがゴロゴロいるぞ」
「マジか……上層でもけっこういいアイテム出たのに、下層はどんだけいいアイテムが出るんだろ……」
ヤルモ、金に目が眩んでモンスターの強さはどうでもよくなる。これはイロナが傍にいるので、安心感もあるから麻痺しているのかもしれない。
でも、自分が巨大モンスターの群れに放り込まれる姿が頭によぎったので、元に戻っていた。
それからも強いモンスターを蹴散らして進んでいたら、今日もヤルモたちが一番で地下40階のセーフティーエリアに到着。
人が寄りつかないような場所でテントを張り、ヤルモたちが集めたアイテムを種類別に並べていたら、トピアス家族が二番目にやって来た。
「また負けた! イロナって、そんなに早かったか!?」
トピアスとしては、家族でパーティ組んでいるし過去にイロナが道に迷うところを見ていたので、負ける理由が思い付かないようだ。
「フフン♪ 主殿は凄いのだ」
「またこいつか……」
イロナが誇らしげにヤルモを褒めるが、ヤルモはトピアスに睨まれているので、首をブンブン横に振ってるよ。さらにアイテムを種類別に出すように言って話を逸らしていた。
「ヤルモく~ん。今日はどんな美味しい物を食べさせてくれるの~?」
なのに、アイリが甘えた声を出してヤルモの腕に絡みついたので、殺気がプラス。トピアスの殺気も怖いのだが、イロナがそれ以上の殺気を放つので、ヤルモは死んだと思った。
「あはは。イロナちゃんも嫉妬なんてするのね。取ったりしないから機嫌直して。ね?」
「頭を撫でるでない。いくつだと思っているのだ」
「いくつになろうとも、あたしの子供よ。かわいがるに決まってるでしょ」
アイリのせいで死に掛けて、アイリのおかげで死を回避したヤルモ。イロナの嫌そうな照れてるような顔を見て、微笑ましく思っていた。
あのイロナも、人の子だったのかと……
仕分けと装備の振り分けが終われば、今日もヤルモ先生の料理指導。レパートリーも少ないが、いまある食材で作れる物を当て嵌めて、なんとかそこそこの料理を作っていた。
それでもトゥオネタル族は、初めて食べる料理なので美味しそうに食べ、イロナがもっと美味しい物を食べたことがあると自慢すると、アイリたちが羨ましそうにしていた。
ヤルモにも作れないかと嘆願が来たが、ヤルモは五品しか習ったことがないので無理。やっぱり人族の領域に行くしかないと結論付けていたので、「俺のせいではない。料理のせいだ」とか、ヤルモは責任転嫁していた。
食事が終わると寝るだけなのだが、アイリがテントが気になって入って来たので、ヤルモは追い出される。柔らかい寝袋が気に入ったみたいだ。外に出たら、またトピアスに絡まれていたし……
この日は、一人用のテントに引っ込んで、ヤルモは寂しく夜を過ごすので……なんか一人でゴソゴソしてから眠るのであったとさ。
それから三日、モンスターを吹き飛ばし、アイテムを根刮ぎ手に入れ、ヤルモ料理を楽しみ、イロナが少しずつ機嫌が悪くなるなか、目標だった地下100階のセーフティーエリアに到着したヤルモとイロナであっ……
「あまり時間がないぞ! 急げ!!」
「おう!!」
さすがに家族が近くにいるとイロナにも羞恥心があったらしく、セーフティーエリアに着くなりテントに入って「ハァハァ」する二人であったとさ。