306 トゥオネタル族の里8
イロナがトゥオネタル族の長をヤルモに挿げ替えようとするので、家族とまたケンカ。ヤルモもいきなりの展開についていけずポカンとしていたが、トピアスと三人の兄が倒れたところで再起動した。
「ま、待った! 俺はそんなのできないぞ!!」
ケンカに巻き込まれないように割り込んだヤルモの言葉に、イロナが殺気を飛ばす。
「我の命令がきけないだと……」
「待てって! いたっ!? 俺の命令なんて、ここの人はきかないだろ~! あだっ!?」
ヤルモとしては当然のことを言って阻止しようとしたが、イロナの小突きが止まらないので覚悟を決めなくてはならない。
「やる! やるから! だけど、俺は参謀に……いたっ! お義父さんが俺の作戦を伝えたほうがスムーズに行くんだって~!!」
ようやくイロナの小突きは止まったが、まだ納得がいく顔をしていないので、ヤルモはトピアスの元へと滑り込んだ。
「俺が作戦を立てるから、お義父さんは命令してくれ。要は、俺は裏方だから、作戦が上手くいけばお義父さんの手柄。失敗したら俺のせいにしたら、お義父さんの名誉に傷が付かないってわけだ。どうだ?」
耳元でヤルモが美味しいことをまくし立てると、トピアスはそれはアリかと損得勘定している。しかし、譲れないことはあるみたいだ。
「わかった。わかったが、お父さんと言うな~~~!!」
交渉成立。ヤルモはもうお義父さんと言わない約束をして、トピアスを丸め込んだのであった。
「というわけで、指揮はトピアスさんがして、俺は参謀として裏から操ることに決まったんだけど……黒幕みたいでかっこよくない??」
「なるほど。黒幕か……確かに族長なんかより響きがいいな」
イロナには違う説明をしてなんとか丸め込めたので、ヤルモは物凄く安堵するのであったとさ。
それから皆はお風呂にすると言っていたので、ヤルモも嫌な汗を掻いたからイロナに案内してもらったら、公衆浴場に到着。いちおうトピアスたちと一緒に来たので、ヤルモはコソコソと後ろについて入った。
そこで作法を見ていたら、人族と入り方は一緒だったので安心して入って行ったが、トゥオネタル族を見てカルチャーショック。体だけでなく、ある部分までもがカックカクでは驚きが大きい。
あまり見すぎると、そっちの趣味かと思われて襲われたらたまったものじゃないので、ある男が一人の男をガン見して大きくしているモノを見てまた驚いていた。まさか八角形とは……
ヤルモはめちゃくちゃ誰かに言いたくて仕方がなくなって、土産話を約束したクリスタを思い浮かべたが、女子にする話ではないと思い直し、オスカリに今度会ったら真っ先に話そうと心に誓っていた。
その時、遠いカーボエルテではクリスタが謎の悪寒に襲われていたのは、ヤルモには知る由もなかった……
お風呂から上がると、公衆浴場の前でイロナを待ち、合流したら家に帰った。その時、トピアスとイロナが揉める一幕があった。
嫁入り前の娘の部屋で彼氏が寝るのは、親として許せなかったからだ。
「何をいまさら……我と主殿はヤリまくっているぞ」
「イロナ! シーーーッだ!」
イロナがよけいなことを言うとトピアスから魂が飛び出したので、ヤルモが魂を捕まえてやけ酒に付き合うのであったとさ。
結局ヤルモはあまり飲まずに、大部屋に出した寝袋で寝て、朝になったら朝食と打ち合わせ。そのとき魔王の特徴を聞いてみたが、人型以外の情報は無し。一番最初に戦った者も亡くなっていたので、会話の内容も得られなかった。
お昼までヤルモとトピアスは集落をウロウロし、住人を集めることと各種確認をして、昼食後に決闘広場で集会を始める。
「まずは、武器とかを集めるんだ! な?」
「ああ」
トピアスの司会で始まった集会は、ヤルモに確認をしながら進む。
ヤルモが危惧したことは、武器防具の少なさ。トゥオネタル族では気に入った物しか持ち帰っていないので、先の魔王討伐失敗のせいでろくな物が無かったのだ。だからペッコは、サイズ違いのメイスを装備してたっぽい。
今回のダンジョン攻略は、戦える者全員参加で地下100階まで。場合によっては、もう少し延長する。
その攻略で、宝箱の物やドロップアイテムを根刮ぎ持ち帰る。弱くても数があれば攻撃力が上がるので、この点だけは念を押して約束させている。
アイテムボックスも無いようなので、戦闘力の低い者が有無を言わさず荷物持ち。かなりブーイングがあったが、イロナとトピアスタッグで黙らせていた。
「いいか? この作戦には、トゥオネタル族の存亡が掛かっている。お前たちは、魔王に故郷を滅ぼされていいのか? 人族の領域に逃げるのか? 違うだろ! 俺たちは誇り高きトゥオネタル族だ! 自分たちの手で、魔王を倒してやるぞ!!」
「「「「「おおおおおおお!!」」」」」
最後はトピアスの決めゼリフ。いちおうヤルモに鼓舞するように言われていたが、さすがはトゥオネタル族をまとめる長。トピアスの言葉に鼓舞されたトゥオネタル族は、拳を振り上げて大声で応えるのであった。
「魔王は我の獲物……」
「イロナ! イロナに確実に回すから、いまは殺気は引っ込めておこうな?」
水を差そうとするイロナがヤルモに止められながら……