300 トゥオネタル族の里2
せっかくヤルモがいい作戦を立ててくれたのに、イロナとの結婚のせいでトピアスは聞く耳持たず。父として、ヤルモとの結婚が許せないみたいだ。
「貴様の許可など知らん。どうしても止めたいなら、我を殺すのだな」
イロナもヤルモとどうしても結婚したいようだが、そのセリフは返り討ちにすると明言しているように聞こえるので、ヤルモは「家族で殺し合いしないでくれ」とか思っていた。
それでもトピアスはヤルモを諦めさせたいらしく、次の手で説得する。
「イロナの許婚はどうするのだ? もうすぐ結婚する予定なのに、おじゃんになったら悲しむぞ」
「貴様が勝手に決めただけだろうが。我はあの男が好かんから、何度殺そうとしたことか……」
噂をすればなんとやら……
「お義父さん! いっちゃんが帰って来たって本当ですか!?」
四角く整形されたリーゼントを頭に乗せた男、許嫁のペッコがイロナ家に飛び込んで来たよ。
「い、いっちゃん……愛してるよ~~~!」
「フンッ!」
「ぶぎゃっ!?」
そして抱きつこうと飛び付いたので、イロナの鉄拳制裁。手加減抜きのパンチをペッコの顔面に入れて吹っ飛ばした。
「これこれ~! やっぱりいっちゃんはこうじゃなくっちゃ。いっちゃんの愛は重たくて刺激的だ~」
本気でどつかれたのに、ペッコは恍惚の表情。どうやらそっち系の趣味の持ち主のようだ。
「イロナ……あいつ殺さないのか?」
「殺したいのは山々なのだが……どんなに痛め付けても死なないんだ」
「殺そうとはしてたんだ……」
イロナならすでに殺していてもおかしくないと思って質問したら、すでに行為に及んでいたと聞いてヤルモはドン引き。ペッコが生きてる理由より怖いみたいだ。
そんな感じで二人で喋っていたら、ペッコは飛び起きてイロナたちの元へダッシュでやって来た。
「いっちゃん! 許婚の俺がいるのに、何そんなオークみたいなヤツと喋っているんだよ!!」
「貴様など知らん。我は主殿と結婚するのだ」
イロナが見せ付けるようにヤルモの腕を組むと、ペッコは奇声を発する。
「ケケケケケ、けっこ~~~ん!?」
「「うるさい!」」
目の前でそんな大声を出すものだから、イロナは再び鉄拳制裁。ヤルモも不快だったらしく、ケンカキックを入れてペッコを吹っ飛ばした。
「きっく~……じゃない! 俺のいっちゃんに触れるな!!」
「お前のじゃねぇし。見てわかれよ。俺たちは相思相愛だ」
さすがにイロナのストーカーに対しては冷たいヤルモ。イロナも見せ付けるように組んでいる腕をギュッとするので力が入り過ぎて痛いから、ヤルモは早くこの茶番を終わらせたいってのもある。
「ケケケケケ……」
「まだ結婚に驚いているのか」
「ケケケ、決闘だ! お前を殺して、俺のいっちゃんを取り戻してやる!!」
「はあ?? 俺を殺してもお前がイロナに殺されるだけだぞ」
ヤルモは両想いだからやる意味がないと言いたかったが、思考がイロナ寄りになって、イロナに殺されるからやめたほうがいいようなことが口から出てしまった。
「ほう……決闘か……」
なのに、イロナが妖しく笑う。たぶん、ヤルモが戦うところを見て楽しみたいのだろう。
「「「「「決闘……」」」」」
さらに、イロナ家族も同じような顔で笑うので、ヤルモの額に汗が浮かぶ。
「よし! 主殿の代わりにその決闘、我が受理してやる!!」
「いや、イロナさん。それ、やらなくいいヤツなんだけど……」
ヤルモが拒否してイロナに蹴られそうになったその時、トピアスから助け船が……
「よし! お前が勝ったら、さっき言ってた案を呑んでやろう」
「いや、お義父さん。この流れはイロナとの結婚でしょ?」
「あらあら。ご近所さんに決闘するって伝えに行かなきゃ」
「いや、お義母さん。そんなお隣に塩を借りに行くみたいな軽いノリで広めに行かないでくれます?」
「「「決闘だ! ヒャッハ~~~!!」」」
「『ヒャッハ~!』じゃねぇよ! 誰も止めるヤツはいないのか~~~!!」
トゥオネタル族、三度のメシより決闘が大好き。てっきりイロナの趣味だと思っていたヤルモは、カルチャーショックを受けるのであったとさ。
決闘の場所は、集落の端にある広場。よく決闘で使われるからか円形に整地されており、両側に選手控え室のような石の建物がある。
そこにセコンドのイロナに連れ込まれたヤルモは準備させられるのだが、ぜんぜん乗り気じゃない。
「マジで? マジで本気の装備なの??」
イロナからダンジョンに挑む装備で行けと言われたからだ。
「向こうも真剣を使って来るのだから当然だ。殺すつもりで行かないと、主殿でも殺されてしまうぞ」
「それって……マジもんの決闘じゃん!?」
「ずっとそう言ってるだろ」
てっきり決闘イコール模擬戦だと思っていたヤルモは、いまさらビックリ。そういえばイロナはオスカリパーティと殺し合いをしていたし、ヤルモもオスカリと殺し合いをさせられたと思い出して震えていた。
しかし、イロナの命令は絶対。いつもの重装備に加え、殺傷能力が低いかもしれないバズーカを装備するヤルモであった。