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297 イロナの里帰り2


「ならん!」


 イロナがヤルモのことを彼氏で結婚相手と紹介すると、一族郎党大反対。やれ体が丸いだとか、やれ弱そうだとか、やれ許嫁がいるだとか……


「うるさい! お前たちの意見なんて聞いてない! 殺すぞ!!」


 なので、イロナが臨戦態勢。ちょっと里帰りしただけなのに、イロナVS一族との殺し合いがいつ勃発してもおかしくない状況になってしまった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! イロナも落ち着けって!!」


 そんな殺し合いを見たくないヤルモは、両者の間に割って入った。


「挨拶が遅れた。俺はヤルモと言います。種族は人族です」

「人族だと……」


 まさかこんなところに人族がいると知って、トピアスたちの殺意が少し下がる。


「こんなわけのわからない輩に大事な娘を嫁がせるのは不安だろうが、俺はイロナを愛している。お義父さん……娘さんをください!!」


 ヤルモがようやく普通の結婚報告レールに戻したのだが……


「誰がお前のお父さんだ! 死ね~~~!!」


 当然の火に油。父親には言ってはならないことを言ってしまったので、トピアスはブチギレて殴り掛かるのであったとさ。



「うおおぉぉ~!」

「ぐううぅぅ……」


 イロナVS一族の殺し合いは阻止できたが、ヤルモVSトピアスのケンカが勃発してしまい、ヤルモはトピアスの硬くて重たい四角いパンチを防御し続けている。

 そのパンチは、イロナに次いでスピードと重さがあるが、ヤルモは技術を駆使して一歩も下がらず受け続けている。


「なるほど……最近下がるのが減ったと思っていたら、そんなことをしていたのか」

「み、見てないで止めて……」


 イロナ対策の防御方法はトピアスには役に立っているのだが、それを傍目から見ているイロナにバレちゃった。

 ヤルモはこれ以上イロナに見せたくないのでトピアスを止めてほしいのだが、イロナはしばらくヤルモがサンドバッグにされているのを見ているのであった。


「もうよい。やめろ」


 ついにイロナの助け船。跳び蹴りでトピアスの顔面を蹴って吹っ飛ばし、苦情を入れる。


「主殿。どうして攻撃しないのだ? それでは面白くないだろう」


 それも何故かヤルモに……どうやら二人の殴り合いが見たかったのに、ヤルモがまったく攻撃に移らないから飽きて止めたようだ。


「どうしてって……俺のお義父さんになる人を殴れるわけないだろ~」


 ヤルモ、常識人。一族の者も半分以上ウンウン頷いているので、イロナの思考に染まっているわけでないとホッと胸を撫で下ろすヤルモであった。



「はい! 一旦ケンカはおしまいね。イロナちゃんも帰って来てくれたんだから、今日は美味しい物を食べましょう。ヤルモ君も参加するのよ」


 母親のアイリが手を叩いてからは、一同冷静に。あのイロナでさえ言うことを聞いて、奥の部屋に入って行った。

 そこは広い空間で、大きな石製のちゃぶ台、座布団のような物が配置してある。主に家族の食事に使っているらしいが、集落の話し合いの場にも用いられる部屋だ。


 とりあえず全員が席に着くと、アイリが水の入った石製のコップを回してから、トピアスの隣に座った。


「本当に久し振りね。食べる物に困ってなかった?」

「うむ。親切な者もいたからな」


 イロナが暴力で食事を出させた者ばかりなので、一般的には親切な者は一人もいなかったことになっている。


「特に主殿と出会ってからは、うまい物も食えるし毎日楽しかったぞ」

「まあ! イロナちゃんが楽しむのなんて、血が舞っている時ぐらいなのに珍しいこともあるのね。ヤルモ君……この子と出会ってくれてありがとうね」

「いえ……こちらこそです」


 アイリの例が怖すぎて話が入って来なかったヤルモであったが、なんとか相槌は打てた。


「ところでジイさんが見当たらないが、どこに行ったのだ?」

「ああ……そのことは、食事のあとにしましょう。それより、自己紹介がまだだったわね。私はアイリ。こっちのゴツイのが家長のトピアス……」


 イロナの質問に暗い顔をしたアイリだったが、すぐに笑顔に戻して一族の紹介を始める。


 イロナの家族構成は、父、母、男兄弟が三人、祖父母。イロナは一番下の娘とのこと。父親のトピアスは族長ということもあり舐められるわけにもいかないから、祖父にしごかれて一番強い男とされていた。

 イロナのせいで格下げになっているが、トゥオネタル族の腕に自信のある物は全てトピアスとイロナに半殺しにされたので、誰もそのことに触れない。

 長男のスレヴィもかなり強く、祖父に続いて暫定ナンバー3の位置におり、族長一族の男が上位を締めているようだ。


 残りの一族は名前だけで紹介を終わると、アイリは「ケンカしちゃダメよ」と言って食事の準備に向かったので、ヤルモは味方がいなくなっていたたまれない。

 残った男共が睨み殺さんばからに睨んで来るから居心地が悪いみたいだ。イロナと喋ると殺気が飛んで来るし……


 それから食事が並んだら、アイリの音頭で食べ始めるのだが、山積みの焼いた肉の塊しかないのでイロナとコソコソと喋るヤルモ。


「肉だけ?」

「うむ……そういえば毎日これだったな……」

「あ、肉の味はうちより格段にいいな。うめぇ~」


 ヤルモだって気を遣えるいい子。イロナはお袋の味に不満な顔をするので、うまそうにモリモリ食べる。しかし、一族の者は毎日食べて飽きてるのか、無言で腹に押し込むだけであった。



 とてもイロナの里帰りを歓迎した宴会とは思えないくらい静かな宴会が終わると、トピアスが咳払いして神妙に語り出す。


「オヤジの話なんだが……」

「うむ」

「……死んだ」

「なんだと!?」


 祖父はまがりなりにも長年最強の位置にいたので、まさか死ぬ日が来るとは思っていなかったイロナはさすがに取り乱す。


「誰に殺されたんだ!?」


 イロナが怒鳴るが、トピアスは冷静に語るのであった……


「魔王だ」


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