295 死の大地2
ヤルモを背負ったイロナは最速の速度で走っていたが、思ったより速度が出なかったのか、肉体強化スキルを使って加速。砂漠の砂に沈み込むこと無く、飛ぶように進む。
道を塞ぐ邪魔な竜巻はイロナの飛ぶ斬撃で切り開き、数秒開いた穴を余裕を持って通り過ぎる。
その間ヤルモは、黙ってキョロキョロしていた。
(うお~。デッカイ竜巻に穴が開いた……と思ったら置き去り……って、もう一個通り過ぎた。はえ~。てか、浮いてね?)
オッサンひとりを背負ってありえない速度で走り続けるイロナが信じられないといった感想を持っていたが、こんな速度はヤルモでは出せないので、ジェットコースター感覚にもなっていた。
(しかし、砂が酷いな。頭がもうジャリジャリだ。よくイロナは目に入らないな)
それと、絶えず砂が全身に当たっているのでイロナの心配をしているけど、心配するところはそこではない。
こんな速度で走っているのだから、本来ならばこの砂は凶器。時速100キロで走行中の車が、砂の舞う場所を通り過ぎるだけで車体が傷だらけになるのだから、人間ならば全身傷だらけで血に染まるに決まっている。
血に染まるだけならまだマシ。イロナの速度なら、体に極小の穴が無数に開いて死に至る。この二人が異常なくらい頑丈だから為せる業だ。
そんなことに気付かないままのヤルモは、辺りの景色に飽きた頃に、イロナに言われていたことを思い出した。
「さっきから左に寄ってるかも?」
「ん。およその秒数でいいから、カウントして止めろ」
「わかった。1、2……ぺぺっ。砂入った」
二人の会話は、方向の話。いまは正午前なので太陽は真上に近いから、影を見ていれば真っ直ぐ走れる。これを報告し忘れていたヤルモはイロナが気付いていないことにホッとしたが、大口開けて喋ってしまったから口に砂が入ったっぽい。
ちなみにイロナは、喋る前に斬撃を飛ばしたから口には入らなかったみたいだ。
それから何度かヤルモの指示でイロナは右に左に進路を微調整して走り、ヤルモの口の中がジャリジャリになって我慢できなくなって来た頃に、ヤルモがのん気な声を出す。
「なんか後方でデッカイやつが出て追いかけてたんだけど、なんだったんだろ?」
そう。モンスターが出たのだがイロナの速度が速すぎて、下から食い付いた時には空振り。追いかけてはみたがすぐに諦めていたから、ヤルモに緊迫感がまったくないのだ。
「なんだと!? 戻るぞ!!」
なのにイロナは焦って戻るので、ヤルモも気になる。
「高く売れたり……は、トゥオネタル族には関係ないか。てことは、うまいのかな?」
「いた! 我の剣の仇だ~~~!!」
「ちょっ!? 下ろしてから戦って~~~!!」
ヤルモの予想はハズレ。さらにはヤルモを背負ってイロナは突っ込んで行こうとするので、いまさら焦り出すヤルモであった。
イロナはヤルモの悲鳴を聞いてか邪魔と感じたのか、ヤルモが乗っているのにも関わらず背負子をポイッと投げ捨てた。砂の上だったからよかったものの、竜巻の中に投げ捨てられていたらと、ヤルモは恐怖していた。
「ぺぺぺっ。アレは……サンドワームかな? 地上でもあんなにデカくなるのか……」
モンスターの正体はサンドワーム。それも直径が20メートルぐらいある巨大な芋虫みたいなモンスターなので、全長に至っては計り知れない。
そんな巨大なモンスターでも、イロナに取ってはザコ。近付いた次の瞬間には、サンドワームは輪切りとなって崩れ落ちるのであった。
「イロナもいるか?」
「うむ」
少量の水で口をゆすいでいたヤルモは、戻って来たイロナに水筒を投げ渡した。イロナがゴクゴク飲んで口を離したら、ヤルモは質問する。
「さっき剣がどうのとか言ってたけど、あいつに折られたのか?」
「うむ。一匹倒したら仲間が湧いて出てな。輪切りにするのが楽しくなって斬っていたら折れてしまったのだ。そのせいで、残りの砂漠越えは苦労させられたのだ」
「それはかわいそうに……」
「だろ? わかってくれるか」
ヤルモがかわいそうと言ったのは、サンドワームのほう。虐殺された上に、八つ当たりまでされていたら哀れに思うのは当然だ。
「……アレ? てことは……そういうこと??」
「うむ。武器が必要なら急いだほうがいいぞ」
「早く言って~~~!」
巨大サンドワーム大発生のイベント発生。仲間の血に反応して、エサを食べようと砂から巨大な芋虫がわらわらと這い出すのであった。
「むう……思ったより少なかった……」
サンドワームイベントは、10分ほどで早くも終了。イロナが以前殺しまくったこともあり、棲息数が減っていたのでは仕方がないことだ。
「思ったより弱かったけど、竜巻がヤバかった……」
その10分、ヤルモもバズーカとロケット弾で応戦していたら、大きな竜巻に全員飲み込まれたので、死ぬかと思っていた。
「休憩はここまでだ。行くぞ」
「あ、はい」
殺戮のどこが休憩かわからないヤルモであったが、イロナが休憩と言えばそれが休憩なので、素直に背負子に乗って担がれるヤルモであった。
それから1時間……
「着いたぞ。これが我の故郷だ」
「え? もう!?」
ヤルモは野営を覚悟していたのに、死の大地を越えたどころかトゥオネタル族の住む集落に着いたとイロナに言われて、なんだか味気なく思うヤルモであったとさ。