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293 寄り道4


 ヨーセッピのお店で魔王討伐談を終えた頃には指輪のサイズ合わせも終わったので、ヤルモたちはお礼を言ってから帰路に就く。その道中、綺麗な噴水があったので、ヤルモは丁度いいかとイロナを呼び止めた。


「ちょっと左手を出してくれるか?」

「こうか?」


 ヤルモはイロナの手を取ると、先ほど買ったダイヤの指輪を薬指に嵌めた。


「何か緊張していたようだがどうしてだ?」

「こっちでは指輪を好きな人に贈るのは、一大イベントなんだ」

「ふ~ん……こんなのがな~」


 イロナが左手を上げると、指輪の石に夕日が吸い込まれてキラキラと輝いた。


「うむ。悪くない。主殿……ありがとう」


 イロナがニッコリ微笑んでヤルモの手を取ったその時……


「あ~~~! タピオさんだ! 戻って来てたんですか!?」


 若手パーティのシモが大声を出して走って来た。そのあとにメンバーもやって来て取り囲むので、ヤルモはなんとも言えない顔をしていた。


「ひょっとして……お邪魔でした??」

「もういい。確かお前たちって……」


 甘い一時を邪魔されたが、女の子のアイリにそのことを聞かれるのはヤルモは恥ずかしいので話を逸らす。


「助けてくれたしアドバイスもしてくれたじゃないですか~」


 しかし、若手パーティのことを忘れ掛けていたからシモの情けない声の説明で、ヤルモは辛うじて思い出した。


「あの時のか。アレから無茶なことしてないだろうな?」

「はい。少しでも不安がある場合は撤退しているので大丈夫です。それより久し振りにあったのですから、僕たちが出しますんで一緒に食事でもどうですか? また為になる話を聞かせてください!」


 ヤルモは断ろうとしたが、イロナが仲良くしていたのでいちおう意見を聞こうとしたら、女子に指輪を褒められている最中だったので話し掛けにくい。


「安くてうまい店に連れて行けよ」

「任せてください!」


 というわけで、やって来たのはみすぼらしい屋台。味はボチボチなのだが量が多いので、若手冒険者が集まって騒がしい場所だ。ヤルモは他の店に行きたかったようだが、ちょうど人数分の席が空いたので渋々座った。

 そこでシモの音頭で食事会が始まったのだが、シモたちはお腹がすいていたのか食事に夢中なので、ヤルモもガツガツ食べていた。

 それからお腹が落ち着いた頃に、ヤルモは偽名を使っていたと説明していたが、シモたちはマルケッタを見たことがあるのですんなりと受け入れられていた。


「ところでヤルモさんたちって……」


 マルケッタの話を終えたら、シモは神妙な顔で質問。


「王都に出た魔王を倒したって本当ですか?」


 どうやらミッラから聞いたホラ話を信じてしまっているから、確認したくて食事に誘ったようだ。


「あん? 王都の魔王??」

「ほら、ヤルモさんたちがハミナを離れたあとに、すぐに魔王が討伐されたじゃないですか? だから俺たちはお二人が倒したんじゃないかと思っているんですよ」


 カーボエルテの魔王はかなり前の出来事で、アルタニアの魔王のほうが大変だったからヤルモはド忘れしていたので反応が遅れる。そのせいで若手パーティからキラキラした目を向けられてしまって困ってしまう。


「アレは……勇者パーティだと聞いたぞ。近々王都を離れるとか聞いたから、そのうち会えるかもな」

「え~! 絶対ヤルモさんたちだと思ったのに~」

「んなことで残念がるなよ。カーボエルテは知らんけど、アルタニアの魔王は、ユジュールの勇者パーティと一緒に俺たちも戦ったんだぞ」

「えぇ!? 噂のダンジョンから出た魔王って、ヤルモさんたちも戦ったんですか!!」

「声がでけぇって」


 シモが大声で宣伝したものだから、近くにいた若手冒険者がわらわらと寄って来てしまった。


「ああ。嘘だから解散しろ」


 もちろんヤルモの見た目では、半信半疑になっていたから追い払おうとしていたが……


「あの上級ダンジョン最速クリア者がヤルモさんたちだ! 弱いわけないだろ!!」


 それをシモが許してくれない。


「わぁ~たから。ちょっだけ話してやる。魔王はな……」


 こうなっては逃げるに逃げられない。魔王と対峙したところから説明し、できるだけオスカリたちが活躍したように語るヤルモであった。



 完全に日が落ちると、ヤルモたちは席を立つ。その時、ヤルモは金貨1枚だけ置いて「皆の食事代にしろ」とかっこつけていた。

 どうも若手冒険者からチヤホヤされまくったから、シモたちに払わせると先輩としてかっこ悪すぎるので泣く泣く払ったようだ。


 それからシモたちと歩きながら喋り、別れ道になったら再会を約束していたが、ヤルモはもう会えないと思っていた。


 宿にて気持ちいいことと痛いことをした翌日早く、ヤルモたちはハミナの町を立ったのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 ヤルモたちがハミナから凄い速さで離れて行くなか、それを見送るふたつの影があった。


「あの方角は……」

「ほらね? やっぱりトゥオネタル族に会いに行くんですよ!」


 影の正体はギルマスとミッラ。ヤルモからは嘘の出発の日は聞いていたけど、ミッラはすぐに出発すると読んでいたのでビンゴ。その予想の出発日に、わざわざ朝早くから賭けの結果を確認しに来ていたのだ。


「クッ。本当だったのか……と、みせかけて、他国に行くんじゃないか? 前も西門から出て王都に行ったし」

「諦めが悪いですよ。それにもう高級料理店の予約はギルマスの名前でしてあるんですからね」

「なんだと!?」

「ウフフ。楽しみだな~」


 ミッラの策略に完璧にしてやられたギルマスは、それでも値引き交渉をしながら冒険者ギルドに出勤するのであった。


 ちなみに、ミッラの予約していた店は安くて美味しいカップルがよく使うお店。ギルマスは気遣いのできるいい子だとミッラを再評価して、求婚したのはまた別のお話……


 それが策略だと知ったのは、遠い未来のお話……


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