291 寄り道2
奴隷館に行って宿屋で甘くない夜を過ごした翌日、今日は情報を仕入れようとヤルモたちは冒険者ギルドにやって来ていた。
混み合う時間は避けていたので、冒険者は数える程しかいないので歩きやすい。しかし、扉から最短距離の受付にヤルモたちが向かっていると、突如大声が聞こえる。
「ああぁぁ~~~!!」
何事かとヤルモが目を向けると、そこには猫耳受付嬢のミッラが指を差していた。
「呼んでるんだから、こっち来てくださいよ~」
当然、そんな反応をする者が手招きしていたら、ヤルモに取って要注意人物。なので違う受付嬢に声を掛けると、ミッラのほうからやって来てチェンジ。
「いや、知らない人だし……」
「ひどい!? いっつも私が受付してたのに……もう忘れたのですか!?」
「いつもだと? ……あっ! 見たことあるかも……」
「ひどいですぅぅ~」
「す、すまん」
ミッラが目に両手を持って行くのでヤルモもいちおう謝っているが、ぜんぜん悪いと思っていない。
数ヶ月前に何度かやり取りをしても、町を転々として暮らしていたヤルモではまた会う確率が低いので、移動したら記憶から消して脳のメモリーを増やしているからだ。あと、ミッラも涙が出てないし……
「んで……なんか用か?」
「もう、タピオさんのせいで大変だったんですよ!」
「……タピオ??」
「あっ! そういえばタピオは偽名でしたっけ。ヤルモさん……」
「なっ……お前、何者だ!?」
ヤルモは自分が偽名を使っていたことを思い出して、あからさまに動揺してしまった。
「私の正体を知りたいならば、ついてきてもらえますか? いまなら料金は発生しませんよ~?」
「くっ……いいだろう」
ミッラが挑発すると、ヤルモは了承。ヤルモとイロナなら簡単に逃げられるから、情報を仕入れてから逃げようとしているようだ。
ミッラのあとに続いて入った部屋は、この冒険者ギルド最高責任者のギルドマスターの部屋。ヤルモたちがソファーに座ったら、ミッラはギルマスに近付いて耳打ちした。
「あなたがヤルモさんで、そちらがイロナさんですね。この度は、情報収集をお手伝いくださり、心から感謝いたします」
「……はい?」
ヤルモが構えていたら、思っていたような内容ではなかったのでとぼけた声が出てしまった。
「えっと……アルタニア帝国のことなんですが……ミッラ。どのように説明してここに連れて来たんだ?」
「いや~。普通に説明したら逃げそうだったので……」
それでミッラが何かやったと気付いたギルマスが質問したら、てへぺろ。というか、ヤルモの性格を的確に掴んで、ミッラは最善の方法で連れて来たのだ。
「騙すようなことをして、申し訳ありません。私から詳しく説明させていただきます。事の始まりは……」
ギルマスの話は、アルタニア帝国の聖女マルケッタがここに現れたことから始まる。その情報を王家に上げたらめっちゃ褒められて評価が上がったので、ヤルモが現れたらお礼を言いたかったらしい。
「まさかこんな田舎のギルドに最重要人物が現れた上に、さまざまな情報を置いて行くなんて、ヤルモさん様々です。少ないですが、お納めください」
ギルマスが笑顔で金貨3枚を前に出すので、ヤルモは「安いな」と思うと同時に、違う考えも浮かんだ。
「なんか裏がありそうだな……」
「まぁ少しは……アルタニアの聖女が王都で拘束されたまでは知らされたのですが、それ以上のことは教えてもらえなくて……」
「つまり、聖女がどうなったか知りたいのか」
ヤルモが勘繰ると、ギルマスが洗いざらい喋ったので答えに行き着いた。だがその時、黙って聞いていたミッラが立ち上がる。
「あのクソ聖女、めちゃくちゃムカつくんです! 酷い目にあったのですよね!?」
そう。ミッラもマルケッタ被害者の一員。この情報が知りたいがために、ギルマスの身銭を切らせたのだ……あ、自分のポケットマネーは出さず、金一封を貰っていたギルマスから出させたのだ。
「それだけ??」
「めちゃくちゃ横柄だったんですよ~。それを相手にさせられた私の気持ち、わかりますか~?」
「まぁちょっとは……しゃあねぇ」
ヤルモも同じマルケッタ被害者なのでミッラがかわいそうに思い、出せる情報だけは教えてあげるのであった。
「プププ。勇者様と聖女様に往復ビンタされて誰だかわからなくなったって……ざまぁ!」
「何をされたか知らんが、最後に会った時はけっこう反省してたぞ」
「あのクソ聖女がですか~? 助かりたいからって、どうせ適当なこと言ってただけでしょ」
「だろうな。ま、嘘でも謝罪させたから、俺は満足だ」
「いいな~。私も土下座してるところに頭を踏ん付けてやりたかったな~」
「そこまでしてないぞ?」
わりと話が弾んでいたがミッラの趣味を聞いて、ヤルモとギルマスはドン引きするのであったとさ。