029 上級ダンジョン2
「うっうぅぅ……ハッ!? イロナ……」
うなされて寝ていたタピオは清々しくない朝を迎え、目の前のイロナの顔を見つめる。その数秒後には、イロナも目を開けた。
「今日は驚かなかったな」
「あ、ああ……でも、いつの間に俺は寝てたんだ?」
「覚えていないのか? 主殿は我の料理を食べたあとに倒れたんだ」
「そういえば食べたような食べてないような」
どうやらタピオは、イロナの料理を食べた記憶すら曖昧らしい。これは、タピオの防衛本能。味を思い出してしまうといまからでも発狂してしまうから、記憶から消してしまったのだ。
ちなみにタピオはイロナのお姫様抱っこで運ばれて寝袋に詰められたので、一応は睡眠時間は足りたようだ。
目覚めた二人はゴソゴソと準備を始め、外に出るとタピオだけが驚く。
「なあ? この亀裂の数々はなんだ??」
そう。テントの周りは猛獣が縄張りを主張するかのように、地面に多数の亀裂が入っていたのだ。
「ああ。それは……朝メシを食べながらにしようか」
イロナはタピオを殺しかけたこともあり、料理をする素振りは一切ない。タピオは少し期待していたようだが、イロナの料理を思い出そうとすると悪寒が走るので、不思議に思いながらもインスタントスープとパンを用意して食べ始める。
「ふ~ん……また勧誘が来てたのか」
「あとからあとから増えてな。我に勝ったなら入ってやると言ってやったんだ」
「……殺してないよな??」
「だから地面を斬ったのだろう」
イロナが負けるわけがないと信じているタピオは、違う心配。それでも話は奇跡的に噛み合い、地面を斬りまくったら蜘蛛の子を散らすように逃げ出したとイロナは説明していた。
「俺一人の時は、あまり人は近付いて来なかったのにな~。やっぱりイロナが美人すぎるから目立つのかな?」
「フッ……そう褒めるでない」
勧誘殺到を不思議に思ったタピオが謎解きをしていたら、イロナは容姿を褒められたと勘違いして照れる。タピオも今さら恥ずかしいことを言ったと思って照れているけど……
喋りながらも食事は終わり、夜営の撤収を済ませると、周りのパーティが動き出す前に地下へと潜る。
地下21階に下りたタピオとイロナは急いでモンスターを蹴散らし、22階に下りる。ここでようやく、タピオは大盾を装備。念のため、剣は大盾の裏にある鞘に入れて目立たないように持ち歩くみたいだ。
「このフロアも一気に抜けて、次の階から本格的な探索をして行くからな」
「おう!」
イロナの男らしい返事を受けてタピオは歩き出し、モンスターに突撃。さすがはタピオ本来の防具ともあり、盾による攻撃も強いようだ。
盾を前に構えてのタックル。攻撃して来るモンスターにはカウンターでシールドバッシュ。本来ならばどちらもそこまでダメージにはならない技だが、レベル差のたまもので瀕死に追い込み、踏み付けてトドメを刺す。
敵は強くなっていたものの盾ひとつでタピオの本来の動きに近付き、イロナの出番が減るので、地下22階も楽々抜けるのであった。
「主殿は盾だけなのに、妙に強くなるのだな」
「あ……倒しすぎたか?」
イロナは頬を膨らませているので、タピオは申し訳なさそうにしている。
「主殿のレベルアップのためだから仕方がないが……それにしては敵が弱すぎる」
「そっちか~。ま、そのうち強くなるよ」
獲物を取りすぎてイロナは怒っていると思っていたタピオはホッとするが、機嫌を損ねると怖いので、これ以降、半分はイロナに回すタピオであった。
その甲斐あってか、少しは機嫌が戻ったイロナ。宝箱を漁り、ビックアントの大群も蹴散らし、襲い来るモンスターを撃破する二人。
そうこうしていたら地下30階に到達し、中ボスの部屋の前に辿り着く。
少しの休憩の後、タピオとイロナは扉を開けて中へと入った。
「お! スライムロードだ。イロナがやるか?」
「まぁあの程度では主殿の経験値には少ないだろうし、我が相手してやろう」
中ボスは、直径5メートルはありそうな緑色のスライム。タピオが譲ると、イロナは嬉しそうに歩き出す。
タピオが腕を組んで壁に持たれた瞬間、イロナVSスライムロードの戦いが始まった。
「プルンプル~ン」
いや、イロナの撫で回しが始まった。
スライムロードは体当たりしたのだが、イロナは両手を前に出して受け止めてからの撫で回し。イロナは優しく撫でているつもりだけど、スライムロードはHPがガンガン減って行くのではたまったものではない。
距離を取ったり魔法を使ったりと暴れ回るが、イロナに追い付かれ、魔法は避けられ、カウンターの撫で回しでHPを削られる。
なんとか打開しようと回復魔法を使いつつ逃げ回るが、その先にイロナは回り込んで撫で回すので、回復魔法を止めるわけにもいかない。
そうしていたらスライムロードの魔力も尽きてしまい、HPがゼロになり、ビチャッと倒れるのであった。
「そんな倒し方……トゥオネタル族では一般的なのか?」
満足そうな顔のイロナに近付いたタピオは問う。
「ただ愛でていただけだから、倒し方というわけではないのだが……」
「イロナだけなんだ……」
トゥオネタル族でも普通に攻撃をして倒していたと知って、イロナだけが異端児だったと気付かされたタピオであったとさ。