286-1 ヤルモ先生再び5
「いや、アサシンってけっこう強いんだよ~? モンスターも一撃で倒せたりするんだよ~? アメちゃんあげる」
ヒルッカがアサシンになりたくないと泣き出してしまったからには、ヤルモは優しいおじさんになる。ただし、クリスタたちからは「誘拐犯のオッサン」とかコソコソ言われていたけど……
ヒルッカがなんとか落ち着くと、クリスタはヤルモにアサシンのメリット等を質問していたら、ヒルッカもパーティのためならばと考え出した。
「他には何かいい転職先はないのかな~?」
「シーフの派生は俺もそこまで詳しくないからな~……あ、そうだ。帰りしにレア職業のヤツがいたな」
「レア職業??」
「忍者つってな。アサシンとレンジャーを合わせたような職業だ」
「何それ強そう!? どうやってなるの?」
クリスタが興奮し、ヒルッカもなりたそうな眼差しを向けるが、ヤルモは困った顔をする。
「俺もなり方まではわからない。そういうのは教会の管轄だから、そっちに聞け」
「そっか……ま、聖女様がいるから大丈夫かな?」
「どうだろうな。あいつら情報だけでもぼったくるから、大金は用意しておけよ」
「何その酷いシステム!?」
ぼったくりと聞いてクリスタの語気は強くなるので、オルガはムッとする。
「勇者様。私たちを育ててくれた施設なのですから、その言い方はちょっと」
「あ……あははは」
「ヤルモさんも、冒険者は死者が多いから、その子供を教会が引き取っているのをお忘れですか?」
「あ……そんな噂は聞いたことがある」
「噂ではなく事実です。国からの支援金だけでは全然まかなえませんし、情報料金も適正価格だから赤字になることもあるんですよ!」
「いや、アルタニアでは……」
「アルタニア帝国の教会と一緒にしないでください!!」
ここからはオルガの愚痴でヤルモたちはたじたじ。そもそもレア職業に転職するにはそれなりの制約があるので、情報を買った者もなかなかなれないから、買い損だと風評被害が酷いんだとか。
さらに、【職業の書】なるアイテムがあって、こちらは制約無しに転職できるがレア職業は恐ろしく高いので、販売元は教会ではないのに、何故か冒険者の間では教会が悪者扱いになっているのが納得できないんだとか。
「「なんかすんません」」
なので、ヤルモとクリスタは謝るしかなかったとさ。
ダンジョン講座やクリスタパーティのその後、あとオルガの愚痴を聞いていたらもうお昼。オルガの愚痴を止めるために昼食を提案して、ヤルモの部屋に移動した。
「なんの話をしてたんだ?」
そこではイロナとリーサが楽しそうに喋っていたので、ヤルモは質問しながら席に着いた。
「主殿に使うテクニックを聞いていたのだ。夜は期待していろ」
「あ、ああ。お手柔らかに……」
ヤルモとしては何をされても痛いので、リーサに対して「このウサミミ、よけいなことを!」とか思っていたけど、子供もいるのでその話題はすぐに変えていた。
クリスタとオルガはコソコソと「キャーキャー」言ってたけど……
全員が席に着き、エイニとリーサが料理を運んで座ったら昼食の開始。いつものことなので美味しく食べて談笑していたら、ヤルモの元へクリスタの質問が来た。
「私たちはもう一回特級ダンジョンに潜ったら、違う町のダンジョンを見に行くんだけど、ヤルモさんたちはどうするの?」
「俺たち? 俺たちは……北上する」
「北上ってことは……ハミナかな? 私たちもハミナに行こっかな~?」
「いや、目的地はずっと先だ」
「ハミナより先には町はないんだけど……あっ!?」
ヤルモは目的地をボカして言ったが、カーボエルテの地図が頭に入っているクリスタにはバレてしまった。
「ま、まさかトゥオネタル族に……」
「チッ……珍しく鋭いな」
「何しに行くの!?」
「たいした用事じゃない」
「イロナさ~ん」
詮索されることを嫌うヤルモはいつも通り口を閉ざすので、クリスタはイロナの隣に移動した。
「主殿の言う通り、たいした用事じゃないぞ。我が主殿の親に挨拶したから、今度は主殿を我の親に引き合わせるだけだ」
イロナならわりとすぐ喋ってくれるので情報は得られたのだが、クリスタたちは何やら驚きながら目だけで語り合う。
「えっと……それって結婚のご挨拶ってヤツじゃない??」
そう。たいした用事じゃないとか言っていたのに、一般的なカップルからしたら大イベントだったので、クリスタたちは驚いていたのだ。
「「結婚??」」
「なんで二人して首傾げるのよ!」
そして自分たちが何をしているかわかっていないヤルモとイロナは、クリスタたちに正式にツッコまれるのであったとさ。
「つまり、結婚している設定をしていたら、ヤルモさんのお母さんに挨拶に行けと怒られたと。イロナさんも約束した手前、破りたくないと……」
「俺は行くつもりもなかったけど、イロナが……」
「それは仕方ないわ~」
クリスタたちがうるさかったので、ヤルモも説明しなくてはいけなくなり、説明したらイロナに脅されたのだと納得してもらえた。
「てか、もういっそ、結婚しちゃったらどう? 二人ってお似合いよ」
「そうですね。これ以上のお似合いカップルはいません。結婚式は是非とも私たちに祝わせてください」
突然、クリスタとオルガに結婚を勧められたヤルモとイロナは……
「こここ、こんなオッサンと、び美女じゃ釣り合いがとれん……」
「こ、ここんな料理もできない女、ああ主殿にもったいない……」
何故かガッチガチに緊張。顔も真っ赤だ。
(((((あっれ~~~?)))))
クリスタたちは思っていた反応と違っていたので、部屋に帰ってから長い会議に突入するのであった。
次話『 286-2 』は性的な描写が含まれていますのでアルファポリスにて『 R-27 』のサブタイトルで、明日更新します。
18歳以上でもしも読まれたい方は、アルファポリスにてしばしお待ちください。