284 ヤルモ先生再び3
「おお~。チームプレイがよくなってる」
クリスタパーティとアークデーモンの戦闘を見ていたヤルモは、クリスタたちの成長を喜んでいた。
「まだまだ。まだまだだ」
しかし、イロナの裁定は厳しい。
「出会った頃よりは幾分マシだろ? そこは認めてやろうぜ」
「まぁ……成長速度は早いほうか」
「な? これなら思ったより早く、オスカリたちに追い付けそうだ」
「追い抜いてもらわねば我が困る」
アークデーモンの猛攻を危なげなく捌くクリスタパーティを、親のような眼差しで見るヤルモ。獲物でも見定めるイロナであった。
* * * * * * * * *
一方その頃、クリスタパーティはアークデーモンの猛攻を耐えながら着実にダメージを積み重ねていた。
「させるか~~~!!」
ここまで順調に事を進めているのは、やはり勇者クリスタの活躍が大きい。アークデーモンが魔法を使おうとしたり炎を吐こうとする際には必ずダメージの大きい会心の一撃を入れているので、不発に終わるのだ。
それでクリスタの体勢が崩れる場合もあるが、パウリが大盾を構えて割って入ったり、リュリュが遠距離から魔法を放ったり、ヒルッカが後ろからザクザクと斬り付けたりと、有りと有らゆる方法でクリスタを守っているのだ。
もちろん全てが上手くいくわけでもなく、アークデーモンの攻撃を受け切れなかったり掠ったりしているので、ダメージは少なからず受けている。
その場合はオルガの出番。支援魔法の合間に、HPの減りが早い者に確実に治癒魔法を使って回復させている。
それらを簡単な指示だけでやってのけるのだから、クリスタパーティはヤルモと離れたあとも、真面目に鍛錬に励んでいたのだろう。
「集合!!」
そんな戦闘を続けていたら、アークデーモンの【発狂】に突入。アークデーモンは自身を巻き込むように炎を吐いたものだから、クリスタは皆を集めて【絶対防御】で皆を守るしかなかった。
「ふぅ~。もう一息ね」
「ここまでは完璧なのですが……」
「問題はイロナさんね」
「はい。これから何を言われるかと思うと……」
「あははは。懐かしいね~」
オルガの心配をクリスタは笑って吹き飛ばす。
「私たちはまだ成長過程なんだから仕方がないよ。考えるだけムダムダ」
「それもそうですね」
「それにあのイロナさんが満足する相手なんて、魔王とヤルモさんぐらいしかいないしね~」
「それもそうですけど、ヤルモさんはかわいそうです」
「ま、しばらくヤルモさんには犠牲になってもらいましょう」
「「「「あはははははは」」」」
炎を吐き続けて魔法を四方八方に撒き散らしているアークデーモンを前にして、クリスタパーティは笑い合う。それほど余裕が出て来たのだろう。
「さってと。そろそろスキルの制限時間。最後まで引き締めて行くよ!」
「「「「はい!!」」」」
軽口を叩いていても、集中力を切らしていないクリスタパーティは、アークデーモンに突っ込んで行くのであった。
「ブレイブスラ~~~ッシュ!!」
ここでも切り込み隊長は、勇者クリスタ。斬撃を飛ばして炎や魔法を斬り裂く。
「ホーリーアロー!!」
その開いた穴にリュリュの攻撃魔法の乱れ打ち。少し威力を抑えて手数で勝負。無数の光る矢が飛び交う。
そこをドタドタと走って距離を詰め、アークデーモンから攻撃が来ればパウリの大盾とオルガのシールド魔法で一時防御。またクリスタが斬撃を飛ばしてリュリュが道を広げる。
そうこう繰り返していたら、アークデーモンの懐に到着。炎と魔法の切れ間に、クリスタ、パウリ、ヒルッカの一斉攻撃。剣やナイフでアークデーモンを怯ませた。
「パウリ。ここは任せた!」
「うおおぉぉ!!」
正面はパウリ担当。アークデーモンの重たい三つ又の槍の振り回しをパウリが受けたと同時に、クリスタは後ろから飛び出した。
「喰らえ~~~!!」
そしてアークデーモンの後ろに回り込んだら剣を振り、会心の一撃を叩き込みまくる。
接近戦中もアークデーモンの炎や魔法が放たれるが、盾やシールド魔法や治癒魔法でなんとか耐え、隙あらばヒルッカとリュリュが軽いながらも攻撃を入れ続ける。
やはりここでも主役は、勇者クリスタ。一人でアークデーモンのHPをガンガン削っている。
「これで最後だ~~~!!」
クリスタの予告通り、叫びながら振るった剣はアークデーモンの背中を深々とえぐり、膝から崩れ落ちるのであった。
「お疲れ」
激闘を制したクリスタパーティが地面に座って息を整えていたら、ヤルモたちがやって来た。
「ありがとう……」
ヤルモが声を掛けると、クリスタは素っ気なく返事をするものだから少し不思議に思う。
「いつもなら俺が聞きもしないのに、嬉しそうに感想を聞いていたのにどうした?」
「ああ~……」
「あ、ああ~……」
ヤルモ、納得。クリスタだって感想を聞きたいのだが、ヤルモの後ろにイロナがいては聞くに聞けないと察した。
そのイロナはというと、怒るでなく笑うでなく普通の顔をしているのだが、それでもイロナブートキャンプの生徒には恐怖の対象なのだろう……