282 ヤルモ先生再び1
カーボエルテのお城にて、模擬戦や会食が終わって数日。リュリュとヒルッカは仲直りしたもののまったく進展しないことを確認して、ヤルモたちは特級ダンジョンに潜っていた。
「どうどう? 上層は余裕でしょ??」
クリスタパーティと一緒に……
「まぁ……警戒の仕方、モンスターとの戦い方、全て言うことはないな。問題は、初めてのダンジョンで同じことができるかだな」
「あはは。言うことないとか言って、ちゃんと先生してくれてるじゃ~ん」
というのも、ヤルモたちが特級ダンジョンに行くと聞いて、クリスタたちがどうしても一緒に行きたいと駄々を捏ねたので、講師代を貰うことで落ち着いたのだ。
「つっても、ここもダンジョンレベルがかなり下がってるな~」
「そりゃ私たちが何度もクリアしてるし、他の町からランクの高い冒険者も数組呼び寄せたから、下がるに決まってるよ」
「まぁこれぐらいが丁度いいとは思うけど……」
「え? 何か問題あるの??」
いちおうヤルモには先生の自覚があるらしく、アルタニア帝国やユジュール王国で起こっているダンジョン問題を聞かせていた。
「はぁ~。入場制限しても冒険者が多すぎても問題が起こるんだ……それは難しい問題ね」
「だな。ユジュール王も頭を悩ませていた」
「どちらもうちにも起こりそうな問題だし、お父様に相談してみるよ。それにしても、そんな難題にも首を突っ込んでるって、ヤルモさんはやっぱり先生の才能あるね。いや、ダンジョンアドバイザーみたいな仕事でも食べて行けそう」
「なんだその仕事は。聞いたこともないぞ」
「いま私が作った。どう? うちで働かない??」
「また勧誘かよ。無理に仕事を作っても、すぐに決められないぞ」
「残念。あはははは」
軽口を叩きながらもダンジョン攻略は続き、イロナを優先に進んでいたら、地下20階のセーフティーエリアに到着。ここで夜営となり、オルガとヒルッカの作った食事をヤルモたちもご馳走になる。
「うまっ。前より腕が上がってないか?」
「ウフフ。お気に召したみたいですね。この料理は、暇な時間にエイニさんから教わっていたモノなのですよ」
「そうなんです。夜営用のメニューも開発してくれたんですよ~」
「へ~。俺も帰ったら教えてもらおうかな」
「でしたら、私たちで教えますよ。イロナさんもどうですか?」
オルガが話を振ると、イロナは食べる手を止めた。
「それは我でも美味しく作れるのか?」
「はい。わりと簡単ですし」
「本当に、我でも美味しく作れるのか?」
「えっと……なんでそんなに殺気を放っているのでしょうか……」
「貴様が味見しろよ」
「あの……その……才能がない人はやめたほうがいいと思います……」
オルガ、簡単とか言っていたわりにはすぐに意見を変える。これはイロナの圧が強いこともあるが、なんだか嫌な予感が働いたから。誰かを料理で殺したのではないかと……
その誰かとはヤルモしかいないと察したオルガは質問してみる。
「ヤルモさんはイロナさんの料理を食べたことがあるのですか?」
「ああ。結構うまかったぞ」
「えっと……その滝のような汗はなんですか?」
「え……あれ? 辛い食べ物でもあったのかな??」
「もう大丈夫です!」
体は正直だ。ヤルモは嘘をついたつもりはないのだが、イロナの料理で何度も死に掛けたから拒否反応が出ている。
このことから、イロナの作る料理は「魔王クッキング」とオルガたちから恐れられるのであったとさ。
翌日からもモンスターをイロナに多く回しつつダンジョン攻略を続け、クリスタたちに軍服少女人形を見られてヤルモがからかわれ、セーフティーエリアではヤルモは料理を習ったりイロナの性的虐待を受けたりしていたら、最下層に到着。
クリスタパーティとヤルモパーティで一緒にダンジョンボス部屋に入って、どちらが戦うのかとイロナに視線を向ける。
「う~ん……カイザーグリフォンか。次に期待すべきかいま行くべきか……」
イロナの好みのモンスターに近いから悩んでいるので、ヤルモは助け船を出す。
「撫でたかったら手伝うぞ?」
「おお! その手があったか!! それで行こう」
「う~い」
ひとまず巨大なモンスター、カイザーグリフォンはイロナがもらうことになったので、ヤルモを先頭にゆっくり近付く二人であった。
* * * * * * * * *
「撫でるってどういうことだろ??」
ヤルモとイロナがカイザーグリフォンに向かって行くと、クリスタはオルガに質問していた。
「隠語か何かでしょうか? 撫でるイコール倒すみたいな??」
「あ~。冒険者ならアリそうな話ね。私たちも、一言で動けるような合い言葉みたいな物を作るのもアリだね」
オルガの答えでクリスタはフォーメーションの名前や攻撃の名前を考えていたが、次の瞬間には忘れた。
「撫でてるね……」
「撫でてますね……」
そりゃ、ヤルモは普通に戦っているのに、イロナがカイザーグリフォンの背中に乗って撫で回していたら忘れるよ。
「「「「「ええぇぇ……」」」」」
その後、【発狂】に突入したカイザーグリフォンの猛攻をヤルモが耐えていたら、攻撃もしていないのにカイザーグリフォンが倒れたので、クリスタたちはドン引きするのであったとさ。