278 帰還4
ヤルモから魔王討伐の報告を受けた勇者パーティは、イロナの驚異に怯えていたが、エイニとリーサが夕食を運んで来たので空気が変わる。
「いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
エイニの音頭で美味しい食事を味わう一同であったが、どう考えてもおかしい。
「いや、お前たち、いつも一緒に食ってたのか?」
そう。ヤルモの言う通り、流れが自然すぎるのだ。
「アレ? そう言えば、他のお客さんとかは食堂で食べてたわね……」
「他の従業員の方とも、何故か一緒に食べたことありますね」
そのヤルモの一言から、疑問が浮かび出したクリスタとオルガ。
「こ、これがうちのスタイルですから……」
さすがにエイニ自身も無理を言っている自覚があったらしく、クリスタの前では自信満々に言えないようだ。
「まぁいいんじゃない? 家族みたいで楽しいし」
「勇者様~~~」
なのにクリスタは簡単に許したので、エイニはうるうる。
「確かにいまさらか。こんなことになってるのは、俺のせいでもあるしな」
「ヤルモさ~~~ん」
そこにヤルモまで乗っかるので、エイニには号泣。しかし、クリスタはまた疑問が浮かぶ。
「ヤルモさん……なんだか丸くなった?」
「どういうことだ?」
「ほら? 昔はもっと冷たかったじゃない。『誰も信じないぞ~!』って、顔に書いてたよ」
「んなわきゃ……あるか」
「あはは。やっぱり丸くなってる~。アルタニアでなんかあったんじゃな~い?」
ヤルモの話題になると、エイニとリーサがホッとしながら話を聞き入る。クリスタが泊まっている間は、このスタイルはなんとしても捨てたくないのだろう。
そうして楽しく食事をしながら、ヤルモが丸くなった理由の当て合い。クリスタたちからの質問は、的外れなことから核心を突くものもあったが、ヤルモは適当に流しているからまったく正解がわからない。
なので、クリスタはイロナから聞き出そうとしている。
「やっぱり家族との和解が大きいのかな?」
「我に聞かれてもよくわからん」
しかし、人の心に疎いイロナでは、ヒントすらなかなか出て来ない。
「旧友と会ったとか……いや、ヤルモさんに友達なんかいないか」
クリスタは自分で言った言葉を否定したら、ヤルモがイラッとしたがすぐに元に戻った。だって友達なんていないもん。
「あっ……それかもしれないぞ。勇者パーティを親友とか呼んでいた」
「「「「「えっ!?」」」」」
イロナの親友発言に、クリスタたちは驚愕の表情。誰も信じないようなことを言っていた男の言葉とは思えないのだろう。
「ヤルモさん……友達できたの?」
「その言い方だと、俺に友達がいないみたいだろ」
「だって~。作る気ないと思ってたんだも~ん」
「たまたま信用できないヤツばかりだっただけだ」
「それなら私も友達にしてよ~。ねえねえ~?」
「私も友達になります!」
ヤルモに友達ができたと聞いたからには大騒ぎ。クリスタやオルガに続き、パウリやリュリュやヒルッカ、エイニとリーサまでしれっと手を上げている。
「うっせぇな。若い子が、こんなオッサンが友達でいいのかよ」
「「「「「是非!」」」」」
「わ~た。友達になればいいんだろ」
「「「「「やった~!」」」」」
ヤルモが折れると、全員万歳。ヤルモも嫌そうに言っていたが、けっこう嬉しそうにしている。
そうしてわいわいやっていたら、クリスタはイロナに、さらに質問。
「他にヤルモさんに近付いて来る人はいなかった?」
「他か……ああ。一人いたな」
「どんな人!?」
「主殿より歳上の女だ。同郷で、主殿の初恋相手だと言っていたぞ」
「「「「「詳しく!!」」」」」
「そっとしておいてくれよ~」
クリスタたちが鼻息荒く聞くので、ヤルモはこっぱずかしい。しかし、イロナがイロイロ吹き込むので訂正の必要が出て来た。
「ヤルモさんの体に女性の顔がくっついてるって……マッチョな女性がタイプだったの?」
「ちが~う! 昔は華奢で清楚なお姉さんだったんだ~~~!!」
こうなっては、ヤルモがきちんと説明しなくてはいけなくなり、自分もクラーラと久し振りに会ったらガッカリしたと酷いことを言うヤルモであった。
「え……オークジェネラルをハンマーでぺちゃんこって……また聞くことが増えたんですけど~~~??」
クラーラの人となりを教えたら、さらに疑問が増えるクリスタパーティ。
「てか、ヤルモさんとイロナさんが増えたようにしか聞こえない!?」
「本当ですね……世界には、まだまだ不思議な職業があるのですね」
ヤルモはクラーラの職業は秘密にして伝えたようだが、レア職業はバレバレ。イロナの戦女神のようにヤバイ職業ではないことを祈るしかないクリスタとオルガであったとさ。




