277 帰還3
「オッフ……」
突然、勇者クリスタと聖女オルガに抱きつかれたヤルモは、ちょっと嬉しそう。特にオルガの大きな物が顔を包んでいるので、幸せを噛み締めている。
「主殿……死ぬか?」
「うわっ!? 死にたくないです! 離れろ~~~!!」
そんなだらしない顔をしていては、イロナがオコ。イロナに殺気を放たれたヤルモは必死に謝り、クリスタたちもカチンコチンに固まるのであったとさ。
ヤルモが半殺しにあった現場を見せられた皆は、再会の感動が消し飛び、冷静になったので備え付けのソファーに移動して、足りないので椅子を何個か持って来てクリスタのパーティメンバーも同席する。
「えっと……とりあえず、二人ともおかえり。魔王討伐もお疲れ様」
「お、おう……つつつ」
クリスタは何から話していいかわからなくなっていたので、とりあえず労いの言葉を掛けるとイロナは頷き、ヤルモは体を擦りながら応じた。
「やっぱり二人は凄いね。一ヶ月そこそこで魔王を倒すなんて、心配して損した」
「勇者様はその手紙が届くまで、毎日『大丈夫かな?』なんて聞いて来るんですよ」
「聖女様だって、毎日同じくらい心配してたでしょ~」
クリスタとオルガだけでなく、ここにいる全員がヤルモたちの心配をしていたらしいので、ヤルモは頭をガシガシ掻きながら口を開く。
「イロナがいるんだから、心配するだけ無駄だ」
「そうだけど~……てか、やっぱりイロイロやらかした? 大丈夫だった??」
「まぁ……何度か魔王とか呼ばれたけど……」
「ギリギリだったんだ……」
ヤルモの一言で、違う心配が生まれたクリスタたち。ここの魔王すら赤子のようにあしらったり、制御不能の現場を何度も見たのだから、ヤルモの苦労は死ぬほど伝わった。
「それで……魔王討伐の話、聞かせてくれる?」
「またか……」
「話したのなんて、エイニぐらいでしょ~」
「俺にだって、知り合いの一人や二人いるんだぞ?」
「うそ……うそうそうそうそ。うそだよ~?」
「何に対して嘘だと言ってるんだ!」
クリスタの嘘発言の一回目は、もちろんヤルモの知り合い発言。でも、ヤルモがあからさまに怒った顔をしたのでごまかしていたのだ。
「お願い~~~」
「聞かせてやるから甘えるな! 痛いんだよ!!」
女を使うとイロナが反応するとわかりきっているクリスタの策略に負けて、ヤルモも話すしかない。というより、元々話すつもりだったけど、ちょっと焦らしたみたい。でも、イロナに足を蹴られるとは思っていなかったようだ。
今回も一から語るヤルモ。四度目だから慣れた口調だが、クリスタには貸しがあるので、報告に近い語り口調だった。
「ヤルモさんの家族、全員無事でよかったね」
「ああ。おかげさまで。仲直りもして来たよ」
「うんうん。ご両親も本気じゃないと思ってたのよね~」
「……本当か??」
「それよりも!」
相変わらず疑り深いヤルモに睨まれたからには、適当なことを言っていたクリスタもいきなり話を変える。
「イロナさん一人でユジュール王国の勇者パーティをやっつけるなんて、やりすぎだよ~」
「どこがやりすぎだ。そのために我は向かったのだろうが」
「いや……魔王を倒しにじゃなかったっけ?」
イロナに喋り掛けたら話が食い違っていたのでクリスタは本筋に戻そうとしたが、それをイロナが許してくれない。
「オスカリとかいう勇者は、お前よりよっぽど勇者らしかったぞ。我と離れてから、少しはマシになったのか?」
「そりゃちょっとはね。パウリもパラディンに転職させたし、ラスボスぐらいならもう楽勝よ」
「ほう……それは楽しみだ」
「え? これって、戦わないとダメなヤツ??」
「クックックックッ」
ただの世間話なのに、イロナの生け贄決定。ヤルモもなんか両手を合わせてペコペコしているので、クリスタも諦めるしかない。
「えっと……魔王討伐まで、ノンストップで聞かせてちょうだい!」
こうなっては、恐怖を面白い話で打ち消したいクリスタ。ヤルモの話を真剣に聞いてハラハラドキドキてしいたけど、イロナの恐怖を知っている者からすると、聞けば聞くほど鼓動が早くなって行くみたいだ。
「城を更地に変えたって……」
「「「「あわわわわ」」」」
目の前で見ていたヤルモたちでも怖がっていたのだから、クリスタパーティが全員あわあわしても仕方がない。
「本当!? イロナさんが気絶するほどのダメージを負ったの!?」
そんなイロナが魔王に吹っ飛ばされたと聞いたら、なんか嬉しそう。皆、何故か小さくガッツポーズしてるよ。イロナでも倒れることがあるのだと知ったから……
「うふふ。ヤルモさんだけじゃなく、ユジュールの勇者パーティも酷い目にあってたんだ~」
「笑うなよ。お前たちなら何もできず挽き肉になってんぞ」
「うっ……」
自分たち以外にも被害者がいて嬉しいクリスタであったが、ヤルモに実力違いの話と聞かされて自信を無くすのであった。
「はぁ~~~」
魔王が倒れるまでの話を聞き終えたクリスタは、大きなため息を吐きながら仲間を見る。
「これって……なんの話を聞いてたんだろ?」
「「「「魔王VS魔王?」」」」
エイニたちには好評だったお話は、イロナ被害者の会の者には不評。ただの魔王どうしの縄張り争いのように聞こえたらしい……