276 帰還2
エイニが言うには、勇者クリスタはもう2、3日はダンジョンから帰って来ないから、予約している部屋は使っても大丈夫とのこと。
それにクリスタからは、ヤルモたちが帰って来た時に部屋に空きがない場合は、自分たちの部屋を使ってでも引き止めるように言われていたようだ。
そこまでされては、ヤルモも出て行くわけにもいかず、お言葉に甘える事にして、いつも使っていた部屋に案内してもらっていた。
この部屋は岩風呂が付いているので、さっそく旅の疲れを落とすヤルモとイロナ。ついでに「ハァハァ」。よくこの岩風呂でやりたい放題していたから、盛り上がってしまったっぽい。
少し長風呂になったので部屋に戻って涼んでいたら、頼んでいたルームサービスがエイニとリーサの手によって運ばれて来た。
「では、いただきます!」
エイニの挨拶で始まる夕食だが、ヤルモには言いたいことがある。
「部屋に運んでまで一緒に食うんだ……」
「これがうちのスタイルですから!」
そう。これがウサミミ亭のスタイル。というか、エイニが一人で切り盛りしていた時に、夕食を一人で食べるのが寂しかっただけ。プラス、勇者クリスタと食事をしたいがために、このスタイルを貫いていただけだ。
「プッ……そうだったな」
「た~んとめしあがれ~」
ヤルモもそのことには薄々気付いていたが、懐かしい返しが面白いのか、笑顔で認めて食べ始める。
「やっぱうまいな~」
「うむ。泊まった宿の中では一番だ」
「そうでしょう? 今日はいつもより愛情込めて作りましたもの!」
高級料理店でアルバイトをしていたエイニの腕前は本物。ヤルモとイロナは美味しく食べ、エイニも鼻高々。
ちなみに現在は、ルームサービス以外にも食堂で料理を提供しているが、客と一緒に食べることはしていない。しかし、客から褒められることが多いので、エイニは度々キッチンから顔を出しているようだ。
そうして美味しい料理で機嫌を取ったエイニは、あの話を切り出す。
「勇者様から魔王を倒したと聞きましたけど、どんな姿だったのですか?」
「あ~……俺たちの行動は筒抜けか」
ヤルモからアクションは起こしていなかったが、カーボエルテの使者が数日置きに手紙を送っていたのだから、クリスタからエイニにも伝わっていたとヤルモは納得。
「他国の勇者様と一緒に戦ったのですよね? その勇者様はどんな人だったのですか? かっこよかったですか??」
「質問が多い。まずはユジュールの勇者と出会った話から聞かせてやるから落ち着け」
ヤルモから語られる土産話。エイニはオスカリたちが味オンチのオッサンの集団と聞いてガッカリしていたようだが、共に戦う話を聞いて行くうちに素敵なおじ様像に変化。実力は本物なのだから、エイニの勇者像に合致したようだ。
しかしながら、一番の立役者はイロナ。誰よりも先に切り込む話や魔王にトドメを刺す話を聞いて、勇者オスカリよりもイロナに感動している。
「まさに戦女神様ですね! キャーキャー!!」
もうヤルモの話はどこへその。エイニとリーサの質問はイロナに向かい、サインまで貰ってる。この二人は、かなりミーハーだったみたいだ。
それからイロナの話が途切れたら、エイニとリーサはお腹いっぱいって仕草をしたが、急に二人の頭の上にハテナマークが浮かんだ。
「ヤルモさんって、何しに行ったのですか?」
そう。土産話の中にヤルモが少ししか出て来なかったから、いまさら疑問に思ったらしいけど、エイニの聞き方が悪い。
「俺はただのオマケだから、聞いても面白くないからはしょった」
「え~! 家族を助けに行くような話をしてたじゃないですか~。ハートウォーミグな話もくださいよ~」
「ぜんぜんハートウォーミグじゃねぇし」
「それならば、我から教えてやろう」
戦記物はお腹いっぱいなので、心温まる話を欲するエイニ。ヤルモは恥ずかしいから言いたくなかったようだが、イロナが誇らしげに語っている。
しかし、そこまで話が上手くないので、ぜんぜん温かくならない。ヤルモが泣き虫だとか情けないだとか母親に頭が上がらないと言われては、笑い話にしかならなかった。
「あとは~……勇者パーティの盾役より活躍していたぞ。それに勇者と決闘して、互角の戦いをしていた」
「「そこも詳しく!」」
「主殿、説明してやれ」
「ここでチェンジ!?」
自分の活躍なんて自分の口から言いたくなかったからはしょったのに、イロナから無茶振りが来たので渋々喋るヤルモ。
基本的にはイロナひとりを守るように戦っていたので、女神を守る騎士としてエイニたちの受けがよかった。さらには、魔王とも勇者パーティと一緒に戦ったので、尊敬の眼差しを向けられてヤルモは困っていたのであった。
話が終わると、ウサミミ亭に厄介になるヤルモとイロナ。いま現在は予約は取っていないので翌日には隣の部屋が空いたら貸し切りにして、ヤルモたちも移動。
ここで毎日エイニたちが食事の時間に現れたので積もる話をしていたら、あっという間に3日が経ち、待ち人来たる。
「「ヤルモさ~~~ん!!」」
待っていたのは、勇者クリスタと聖女オルガのほう。エイニに部屋に案内された二人はヤルモの顔を見た瞬間、泣きながら抱きついたのであった……