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275 帰還1


 ユジュール王国でやることをやったヤルモは、お尻を押さえながら宿を立つ。昨夜のプレイが尾を引いているようだ。


「痛そうだな」

「なんで居んだよ」


 王都の門に着いたらユジュール王が待ち構えていたので、弱っている姿を見られたヤルモは嫌み。昨日は現れなかったから、虚を突かれたってのも嫌みの対象だ。


「見送りに来てやったのだ」

「ホント、この国は平和だな」

「だろ? 余もいらないくらいだ。わはははは」

「これも嫌みだからな?」


 嫌みの通じないユジュール王が笑うので、ついにヤルモは言っちゃった。


「わかっておる。平和ボケはここまでだ」

「いや、そこまでは言ってないけど……」


 ユジュール王が急に真面目な顔に変わるので、ヤルモは少し気圧された。


「見送りに来たのは、忘れ物があったからだ」

「忘れ物っすか?」

「ああ……ヤルモ、イロナ。魔王討伐、大義であった!」

「は、ははっ!」

「さらばだ!!」


 突然のお褒めの言葉に、ヤルモは見よう見マネの敬礼。それだけ告げたユジュール王は颯爽と馬車に乗り込み帰って行くのであった。


 そこに残されたイロナは……


「ザコのクセに、なんだか異様に迫力のあるヤツだったな」


 ユジュール王を褒めてるんだか(けな)しているのかわからない感想。


「さすがは一国の王って迫力だったな。あのオッサン、それが見せたくて待ってたのかも」


 ヤルモも似たような感想。しかし、王様とは認めているようだ。


「さってと、カーボエルテに行くか~」

「うむ!」


 こうして数日滞在したユジュール王国王都を出発したヤルモとイロナであった。



 それから町を経由して走り続けたら、国境の町に到着。ここは男爵家のカードを出して、少し揉めたけど早くに通過。カーボエルテ王国に足を踏み入れる。

 ここからは、前回は飛ばしまくって寄らなかった王都とちょうど中間地点にある町にて休憩。上級ダンジョンがあると聞いたので、イロナに脅されて挑戦。

 地下70階しかないのでは、イロナが楽しめないとか言ってヤルモが餌食になっていた。


 ちょっとした寄り道をしたら、またダッシュ。相変わらず二人は道行く人に変な目で見られていたが、アルタニア帝国から普通は一ヶ月かかる道のりを、寄り道したのにたった三週間で走破したのであった。



「あ~。なんだか懐かしいな~」


 カーボエルテ王国の王都に入ったヤルモは、故郷でもないのに大きく息を吸って感慨深い顔をしている。


「人族の領域は本当に広い。人も物も各地によって全然違うのだな」


 イロナは世界の広さが面白かった模様。ここの王都は二度目だというのに、またおのぼりさんのようになって歩いている。

 そうして二人で喋りながら歩いていたら、贔屓(ひいき)にしていた宿屋「ウサミミ亭」に到着。初めて来た時はボロボロの幽霊屋敷だったのに、いまではヤルモが入りにくそうな高級店に様変わりしていた。


「おお~。俺たちが出発した時より立派になってる」

「貴族だったか……そいつらの巣並だな」

「まったくだ」


 イロナの感想は酷い物であったが、貴族を毛嫌いしているヤルモの感想も似たようなもの。褒め言葉のボキャブラリーの足りない二人であった。



 外観を少し楽しんだ二人が扉を開けて中に入ると……


「大変申し訳ありませんが、只今満室となっておりますのでお泊めし兼ねます。お帰りはあちらとなっております」


 ウサギ耳の執事風の老紳士が丁寧に対応しているように見えるが、早くもヤルモたちを追い出しに掛かっている。


「あ~……ここのオーナーに顔を見せに来ただけだ。エイニにヤルモが来てると言って来てくれるか?」


 ヤルモもヤルモで場違い感があるのか、泊まるのに気が引けている。


「ヤルモ……ヤルモさん……あっ! オーナーから聞いております。大変申し訳ありませんでした。すぐにオーナーを呼んで参りますので、そちらにお掛けになって少々お待ちください」


 名前を出しただけで、VIP対応。おそらく執事は、エイニから名前は聞いていたから思い出したのだろう。しかし、布の服の袖を破いたオッサンでは、すぐには思い出せなかったみたいだ。


 それからロビーのソファーに座って待っていたらウサミミメイドのリーサが現れ、お茶を注いでくれたので世間話していたら、廊下を走る音が聞こえて来た。


「ヤルモさん!」

「オッフ……」


 この走って来てヤルモに抱きついたウサミミの若い女性こそ、この宿のオーナーであるエイニ。ヤルモたちが泊まってから運が向いて来て、両親の残したウサミミ亭を復活させた人物だ。


「おかえりなさ~い! うわ~~~ん」

「ちょっ……落ち着けって。イロナも落ち着いてください。痛いから!」


 エイニが涙ながらに出迎えてくれたが、テーブルの下ではイロナが足を踏んで来るのでヤルモは痛そう。エイニの胸に埋もれてだらしない顔をしていたのでは、仕方がない罰なのだ。



 しばしエイニが大泣きし、ヤルモのHPが5分の1ほど減った頃に、ようやく話ができる体勢となった。


「しっかし、建物は綺麗になってるわ従業員は増えてるわで見違えたな」

「そうなんですよ~。古株の従業員の人も戻って来てくれたので、完全復活となりました! 客層は少し違いますが、両親が健在していた時のような活気も戻って来て、嬉しくって嬉しくって……」

「そいつはよかったな。でも、そんなに客がいるんじゃ泊まるのは難しいか」

「大丈夫です! 勇者様がダンジョンに潜っているので、予約している部屋が空いてます!!」

「それは空いてると言うのか? てか、あいつら、まだ泊まってるのかよ……」


 エイニの話を嬉しそうに聞いていたヤルモであったが、まさか勇者クリスタがまだ使っているとは驚き。それに、人の部屋を勝手に使うのはさすがに気が引けるヤルモであった。


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