273 特級ダンジョン4(ユジュール王国)
「へ~。ヤルモのアニキはオスカリのアニキと親友なんすか。どうりで強いわけっす!」
忍者パーティは、ヤルモのパワーとそれよりも恐ろしい女の出現で、もう舎弟状態。二人のことがよっぽど怖いみたいだ。
「オスカリのアニキ? お前はオスカリの知り合いなのか??」
「いや~。勇者ってのはどれぐらい強いのか絡んで行ったら瞬殺されてしまいまして。そこからは『いつでもかかってこい』と仲良くしてもらってるっす」
「チッ……あいつが甘やかしてるから、この国の冒険者が俺たちに絡んで来てたのかよ」
ヤルモとしては、礼儀正しい冒険者を作ってほしかったのだが、ガサツなオスカリではそうはならず。いつでも挑戦を受け付けていたと、見なくてもわかってしまった。
「んじゃ、俺たちはもう行くからな。楽したからったら、勝手について来い。ただし、ラスボスとアイテムは俺たち優先だからな」
「はいっす!」
ヤルモの予想では、ダンジョンボスまでは残り僅かなので同行を許可して、その他は譲らない。
そうしてイロナが巨大モンスターを倒してヤルモが宝箱を漁り、忍者パーティがキャーキャー言っていたら、最下層に到着。
予定通り、ヤルモたちだけでダンジョンボスの部屋に入って行ったのであった。
「レジェンドドラゴンだけど……小さくないか?」
ダンジョンボスは、ドラゴンの最上位種なのでヤルモはラッキーとか思っていたけど、イロナは大きさに不満がある模様。
「ここのダンジョンでは頑張ったほうだろ。イロナがやらないなら俺が……」
「誰がやらないと言った!」
不満があっても、ドラゴンならばイロナの獲物。ヤルモが引き受けようとしていたが言葉を遮って、あっという間にレジェンドドラゴンの首を刎ねたイロナであった。
「おお~い。魔石と素材かよ~」
ダンジョンボスを倒したのにあまりお金にならないのでは、ヤルモも不満を口にするのであったとさ。
特級ダンジョンをたった三泊四日で制したヤルモたちは、ランチをしてから冒険者ギルドへ報告。買い取りを済ませたら、いまいちの稼ぎだったのでヤルモはへこんでいた。
ユジュール王への報告書はこれから作るので、宿にチェックイン。イロナはどうするのかと聞いたら「外に出る」と言うので、ヤルモも見張りでついて行く。
町並みを見て歩き、観光しつつ二人がやって来たのは娼館。……え? 娼館??
イロナはアルタニア帝国でも娼館に行ってテクニックを学んでいたから、ここでもそうしたい模様。しかし門前払いされていたので、ヤルモと一緒に入っていた。
ここでも、ヤルモはお金を払っただけでサービスは無し。イロナが質問するだけなので、娼婦も何がなんだかわからないプレイに巻き込まれていると受け取っていた。
それから宿に戻って自室で夕食をとっていたら、今日もあの人がやって来た。
「王様って暇なんすか?」
ユジュール王の登場だ。
「おう。暇だ暇だ。邪魔するぞ」
しかも、嫌味も通じずズカズカと上がり込んで、数日前と同じく会食となった。
「てか、よく俺たちが戻ってるってわかったっすね」
「ここ最近、変な報告だらけだったから、ギルドにはヤルモたちが戻ったらすぐに連絡するように頼んでいたのだ」
「変な報告っすか?」
「オッサンがモンスターを轢いてるとか、魔王が現れたとかだ。身に覚えがあるだろ?」
「えっと……」
どうやらセーフティーエリアから地上に戻った冒険者がけっこういたらしく、その者がヤルモたちの噂を広めていたとのこと。
さすがに魔王はヤバイ案件なので、ユジュール王にすぐに報告が上がって姿形を聞いてみたら、見覚えのある女。その横にはオッサンがいたので「ああ。あの二人だ」って納得したらしい。
ユジュール王は自分に殺意を向けられ、勇者パーティを一人で倒したイロナの恐怖は忘れられなかったのだろう。
「ま、すぐにヤルモたちだと気付けたから、そこまでの混乱は起こっていないから大丈夫だ」
「なんかすんません」
「それよりもだ。攻略速度が早すぎて、そっちにも驚きだ。次の日には40階も進んでいるのだから、本当に魔王でも現れたのかと思ったぞ」
「それはっすね。モンスターが弱すぎてずっと走っていたからっす」
ダンジョンで少しやらかしたかと思っていたヤルモは、地上にも影響があったと知って申し訳なさそうにしている。
なので、自分たちが早い理由も丁寧に説明して、ついでに依頼の報告もするのであった。
「毎日40階も走破していたのも驚きだが、ここの特級ダンジョンはそんなことになっていたのか……」
他所の国よりダンジョンレベルがかなり低いと聞いたユジュール王は、何かを考えているように見える。
「たぶん、他のダンジョンも似たような感じになってるんじゃないっすかね? だから、ちょっとでも稼ぎがいい特級に冒険者が群がっているとか」
「確かに……だから最近、他国に出た高ランクの冒険者が帰って来ないのか……」
「あ~。俺だったら、絶体に他所の国のダンジョンに行くな。そっちのほうが確実に稼げる」
「なんてことだ……」
幸せに見えたユジュール王国も、魔王に怯え過ぎたがために冒険者だらけとなり、違う悩みが生まれる。
このままでは優秀な冒険者の流出が続き、魔王が発生した時には弱い冒険者しか残っていないのではないかと……