272 特級ダンジョン3(ユジュール王国)
地下120階のセーフティーエリアでは、ヤルモとイロナはお腹パンパン。冒険者が貢ぎ物のように食事を持って来たので、遠慮なく食べたからだ。というか、受け取らないと魔王が怒ると思われていたので、ヤルモも断れなかったようだ。
さすがに食べ切れなくなった頃には「逆に魔王が怒る」と説得して、冒険者を追い払っていたけど。
ここは温泉が湧いていたのでヤルモとイロナが水着で向かったら、先客が飛び出て譲ってくれたので貸切状態。冒険者は魔王と一緒に入りたくないのか、見張ってくれている。
その行為に、ヤルモはいちおう感謝の言葉を送ってテントに引っ込む。すると、外が騒がしくなった。魔王が居なくなったから嬉しかったのだろう。
しかし、このままではうるさいので、ヤルモが「魔王が静かにするようにと言っている」と顔を出したからコソコソ話に変わっていた。
ちなみにヤルモたちのテントから変な声が聞こえていたのも、冒険者の話のネタになっていたのであったとさ。
「ようやくそれっぽくなって来たか」
「これのどこがだ」
地下121階からはモンスターは強くなったものの、イロナのお眼鏡には適わない。しかし、連日のストレス発散のために、イロナが率先して倒しているのでヤルモの出番が来ない。
残り10階ともあり、ここはもうイロナに任せてヤルモは宝箱漁り。今回のダイブはこのままでは諸経費等で赤字になりそうなので、少しでも回収したい模様。
しかし宝箱のレベルも低く、ヤルモの予想では上級ダンジョンと同じかそれ以下なので、超ガッカリしていた。
そうしてモンスターと宝箱を殲滅する勢いで地下へと進んでいたら、129階で一組の冒険者を発見。ヤルモとイロナは巨大モンスターと戦っている様子を見ている。
「う~ん……ニコってヤツより、やや下ってところか」
「つまらん……」
アルタニア帝国で勇者になったパーティより弱いのでは、イロナはオコ。何故怒っているのかは聞かないヤルモ。イロナの生け贄だとわかっているもん。
「よくこんなところで、オスカリたちみたいなパーティが育ったもんだな」
「知るか……それより、殺っていいか?」
「今夜は凄いのしたいから、体力は取っておいてくれ」
「ふむ。主殿が我に攻撃するのか……たまにはカウンターの練習をさせてもらおうか」
「いや、夜の話だよ??」
イロナ勘違い。というか確信犯。性欲よりは、いまは戦闘欲求を満たしたいらしい。
そんな会話をしていたら冒険者も巨大モンスターを倒し終えたので、ヤルモは先を譲ってもらおうと声を掛けよう思ったら、冒険者のほうから近付いて来た。
「あんたら、俺たちが弱いとかホザいていたよな?」
その中の、黒頭巾を被った男が質問して来たので、ヤルモはやっちまったと頭を掻いた。
「忍者か……久し振りに見たから忘れていた」
職業【忍者】とは、レア職業のひとつ。身軽で暗殺術に長けているだけでなく、諜報活動に優れているので、ヤルモたちの声も拾っていたのだ。
「質問に答えろよ」
「う~ん……」
苛立つ忍者にヤルモはなんと言おうか悩み、面倒になった。
「だな。オスカリたちと比べたら酷すぎる。邪魔だからどいてくれるか?」
「「「「「なっ……」」」」」
ヤルモの答えに、火がつく忍者パーティ。やれ五本の指に入る実力者やら、やれオッサンなんて瞬殺できるのだとか喚き出したが、ヤルモは聞く耳もたず。
「俺ひとりで相手になってやるよ。全員でかかってこい」
「はあ!? ふざけ……」
「主殿! こいつらは我の獲物だ!!」
ヤルモが珍しく挑発すると忍者がブチギレたが、イロナの大声で遮られた。
「イロナは復活したモンスターを相手してくれ。たぶんそっちのほうが楽しいぞ」
「確かに……」
「だからふざけんじゃねぇ!!」
イロナが納得した頃に忍者は正式にキレたが、二人は無視。ヤルモは大盾とバズーカをアイテムボックスに入れて、ファイティングポーズを取った。
「はじめ!」
その直後、イロナから開始が告げられるのであった。
「え? 素手??」
しかし、キレていたわりにはヤルモたちのノリについていけない忍者であったとさ。
「おいオッサン。怪我しても知らねぇぞ。それにこんな危険な場所で決闘なんかできるかよ」
忍者はなんだか冷静になってしまったらしく、場所を変えたいみたいだが、ヤルモはそれを認めない。
「いまさらビビッたのか? これだから最近の若い者は……って、言われるんだぞ?」
「ビビッてねぇし! 死んでも知らねぇからな!!」
ヤルモに煽られた忍者は、素早さを活かした暗殺術。一瞬でヤルモの後ろを取って、クナイで首を斬り裂いた。
「チッ……殺っちまった……せめて避けろよ」
「零点だ」
「ごふっ!?」
忍者が殺したことに後悔した瞬間、ヤルモに頭を掴まれて地面に激突。その一撃で、忍者は半分以上のHPを減らすことなった。ちなみにヤルモの首は赤い線が入った程度で、HPは1ポイントしか減少していない。
「お前なぁ~。攻撃後に気を抜くって、一番やっちゃいけないだろ。それに盗賊系統は、仲間の影に隠れて一撃離脱が基本だろうが。なに一人で突っ走ってんだ」
そこに、ヤルモの説教。忍者は地面に押し付けられて立つこともできない。
「ほら? 仲間が絶体絶命のピンチだぞ? 助けに来ないのか??」
「「「「すいませんでした!」」」」
忍者は諦めたような顔をしたので、ヤルモは他のメンバーに目を向けたらお手上げのポーズ。
「あ~……イロナのせいか……」
そう。忍者パーティが苦戦していた巨大モンスターが現れたところを、イロナが一刀両断で真っ二つにしたからには戦意喪失。
こうして珍しくヤルモの出番が来たのに、活躍は霞んでしまうのであったとさ。