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269 ユジュール王国王都


 ユジュール王国の王都に着いたヤルモとイロナは、すでに日が暮れていたので急いで宿を探し、そこそこの宿屋にチェックイン。食事をとり、「ハァハァ」してから一夜を明かす。

 朝になると出掛ける準備をし、やって来たのはユジュール城。門兵にめっちゃ念を押して手紙を預けていた。この手紙の差出人は賢者ヘンリクだったのだが、ヤルモが不審者扱いされたから念を押していたのだ。


 そうして用事が終わったら、町に繰り出してデート。町並みを見つつ、買い食いなんかをしていた。


「ほう……ここにも特級ダンジョンとやらがあるのか」

「あ~……最近移動ばっかで働いてなかったもんな~。ちょっと運動がてら潜ってみるか」


 屋台のおっちゃんから情報を仕入れたら、イロナがやる気満々。なので、道具屋でアイテムや携帯食を買い足してから宿屋に戻る二人であった。



 それから宿屋の一室で、ルームサービスで頼んだ夕食をおいしく食べていたらノックの音が響いたものだから、ヤルモは「もう皿を下げに来たかよ」とか思いながらドアを開けた。


「うおっ!?」


 でも、すぐに閉めた。


「何を驚いているのだ?」

「いや……なんでもない。先に食べていてくれ」


 イロナは不思議に思って質問していたが、ヤルモはもう一度ドアをそお~と開けた。


「な、なんで王様がここに……」


 ノックをした人物は、ユジュール王。こんな超大物が一人でドアの向こうに立っていたから、ヤルモはビックリしてドアを閉めてしまったのだ。


「ヘンリクの手紙を読んだからだ。追加の食事とうまい酒を持って来たから入れてくれるか?」


 なのに、ユジュール王は軽い。


「は、はい……いやいや。こんな所にいちゃダメだ……でしょ」

「そう言わず、冒険談を聞かせてくれ。あと、前も言ったが敬語も不要だ。入らせてもらうぞ」


 さらに、ヤルモを押し退けて勝手に上がり込む始末。ユジュール王がヤルモの席に勝手に座る姿を呆気に取られて見ていたら、宿の従業員が料理を持って次々と入室して来たので、ヤルモは中に押し込まれていた。

 そこで従業員はテーブルセッティングのやり直し。サササッと料理を並べて椅子を足し、ヤルモを着席させた。


「魔王討伐ご苦労であった。さあ、飲んでくれ」


 従業員が残るなか、ユジュール王からのお褒めの言葉。イロナは特に気にせず酒を飲み「うまい」とか言って普通にユジュール王と喋っているので、ヤルモも半分ぐらいグラスを空けた。


「あ、マジでうまい……」

「そうであろう。我が国自慢のワイナリーから納められたのだから、マズイわけがないのだ。ここまで来るのにどれだけ時間が掛かったことか」


 ユジュール王は苦労話を面白おかしく話すので、ヤルモも近所のおっちゃんと喋っているような気持ちになり、徐々に緊張が解けて楽しく聞いていた。


「これもそれも、農家の研鑽(けんさん)のおかげなのだ」


 ユジュール王はワインをクイッと飲み干すと、従業員がおかわりを注ぐ。


「魔王を倒すなんて、やはり二人も冒険者として研鑽を積み続けた結果なのだろうな。少し聞かせてくれるか?」

「我はただ戦い続けただけだ」

「俺もそんなもんだ。金を稼ぐためにダンジョンに潜り続けて……」


 イロナは特に研鑽を積んでいないので一言で終わったが、ヤルモは珍しく自分の苦労話を披露する。しかし、途中で言葉を詰まらせた。


「あっぶね。いらんことまで喋るところだった……」

「残念。もう少し聞きたかったのにな。わはははは」

「いつの間にか乗せられていたのか……王様、こえ~」


 そう。ユジュール王はヘンリクからの手紙で「ヤルモの口が堅い」と書いてあったから、ヤルモが失言するように話術で操っていたのだ。しかし、人間不信のヤルモにはいま一歩届かなかったので、笑ってごまかしている。


「余のせいで緊張しているように見えたのでな。リラックスしてもらおうと思っただけだ」

「嘘くせぇ……」

「そう身構えるでない。言いたくないことは聞かないと約束しよう」

「偉い奴の約束なんて信じられるか」

「わははは。手紙の通りの人物か。これはオスカリも骨が折れただろう」


 ヤルモが嫌みを言っても笑って流されるだけ。手紙の内容を確認されると、ヤルモも「自分は酷い奴だな」とかちょっとは思っていた。


「おっと。話が楽しすぎて本題からそれていたな。魔王討伐までの経緯はヘンリクからしらされてはいるが、(じか)に聞きたかったのだ。酒の代金だと思って、聞かせてくれないか?」

「おごりじゃなかったのかよ」

「この言い方はマズかったか……では、冒険好きのオッサンの酒の肴に、是非とも聞かせてくれ」

「チッ……オスカリといい、やりづらいオッサンだな。わかったから頭を上げろよ」


 ヤルモとしては、家族の保護をネタに脅されると思っていたようだが、ユジュール王は一切そんな素振りを見せずにキラキラした目を向けるので、ヤルモも折れるしかない。


「んじゃ、皇帝が滞在する町が襲われていたところからだな」


 その話は勇者パーティの活躍は少ないものの、内容はイロナを称える英雄譚のようなもの。それでもユジュール王は楽しく聞き入り、夜が更けて行くのであった……


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